第404話
「はぁ~……」
HRが終わり、荷物を鞄にしまい俺は大きな溜息を吐いた。
「春名、また溜息? 今日ずっと溜息してない?」
「今日、家に母さんが様子を見に来るんだよ」
「春名の母ちゃん? 定期的に近況を確認しに来るやつだよね。それが溜息の原因……喧嘩でもした?」
「喧嘩? 母さんと喧嘩なんて……怖いこというなよ」
「だよね! 春名の母ちゃん、怒ったら超怖いもんね! じゃあなんだろう……」
「この後の予定がないから早めに行けるってウィルと約束してたんだ、昨日ログアウトする前に。約束やぶちゃったな……颯音、今日もログインするんだろう?」
「おう。餅の論だ」
「ポータルはそのままでいいから先にウィルと一緒に街に向かって欲しい」
「了解。それなら街で宿を取って春名を待っているから、到着したらメッセージをくれ」
「よろしくな」
「それとウィルにはちゃんと謝れよ?」
「わかってるさ」
鞄を背負い教室を出て俺は学校を後にして、真っ直ぐ帰宅した。
玄関には兄ちゃんの靴が綺麗に並べていて、母さんの靴はなかった。
リビングの電気が点いていないけど兄ちゃんいるよね?
「ただいま。兄ちゃん?」
リビングに続いているドアを開け、中を見渡すも兄ちゃんの姿はどこにもなかった。部屋にいるのかな?
兄ちゃんの部屋のドアをノックして開けると、兄ちゃんはベッドの上で横になっていた。
「兄ちゃん、寝てる?」
「…………春名か。おかえり……」
ゆっくりと体を起こす兄ちゃんは大欠伸をした。
「仕事終わって寝てたの?」
「そんなところだ。母さんは?」
「まだ来てないよ」
「母さんが来る前に夕飯を作っておくか。春名も手伝えよ」
「わかった」
部屋に戻った俺は部屋に着替えて兄ちゃんの手伝いをした。
作り終わった夕飯をテーブルに並べているとチャイムが鳴り、俺は出迎えに向かった。
「母さん、いらっしゃい」
「お邪魔するわね、春名」
母さんを迎え入れ、荷物を受け取りリビングに案内をする
「冬真はいるの?」
「いるよ。夕飯、もう出来ているけど食べる?」
「あら、そうなの? それなら温かいうちに夕飯にしましょうか」
ドアを開けると、椅子に座っていた兄ちゃんが立ち上がった。
「母さん、いらっしゃい」
「冬真も元気そうね。良い匂い……冬真が作ったの?」
「春名にも手伝ってもらった」
「って言っても俺が作ったのスープだけだけどね」
「それでも十分よ。ありがとう」
俺は兄ちゃんの隣に座り、母さんは向かい側に座り、夕飯を食べ始めた。
「美味しいわ。二人とも料理の腕が上がったわね」
「交代で食事当番しているからね」
「そう。これからも続けるのよ?」
母さんは箸を止めることなくどんどん食べていく。
「二人とも最近はどうなの? 春名はバイトを始めたって聞いたけどもう慣れたかしら?」
「うん。土日は忙しいけどやりがいもあるし、バイト先の店長も同僚の人たちも優しくて楽しいよ」
「それなら安心だわ。しっかりと学ぶのよ。それと春名はまだ学生だから、学業の方が疎かにしては駄目よ?」
「わかってるよ」
「冬真はどう? 仕事は忙しい?」
「最近までは忙しかったけど、春名と一緒にゲームが出来る時間ぐらいは作れるほど落ち着いたかな」
「あら、二人でゲームをしてるの?」
「うん。俺が兄ちゃんを誘ったんだ」
「二人でゲームを遊ぶなんて、冬真が学生の時以来じゃない? 楽しい?」
「楽しいよ! 色んなところに行ったり、仲間と共に強敵に挑んだりしてすっげぇ楽しい!」
「ふふ。そこまで楽しいなら私もしようかな~?」
「「え?!」」
「冗談よ」
笑みを浮かべる母さんの顔を見て俺と兄ちゃんは内心溜息をついた。
それから母さんと他愛もない話をしながら夕飯を食べ終えた。
「二人の近況も知れたし、そろそろ帰ろうかしら」
「母さん、車で送っていくよ」
「いいの? ありがとう」
「春名は食器洗いをしておいてくれ」
「わかった。母さん、体には気を付けて」
「春名もね。また来るわ」
二人がエレベーターに乗る所まで見送り、急いで食器を洗って、俺はゲームにログインをした。




