第403話
「ウィル、隠れるぞ」
俺は固まっているウィルの手を引いて、ウォルから見えない棚に移動し、ウォルと店主の会話に耳を澄ました。
「これはこれは、ウォルター様。遠征からよくぞお戻りに!」
「ああ。先程到着したところだ。明日には屋敷に戻る」
「そうですか。ウィリアム様も安心するでしょうね」
「兄さんは過保護過ぎるんだよ。それよりも、この町のポーションの在庫状況はどうなんだ?」
「この町に住んでいる住人全員に行き届く分は在庫はございます」
「そうか。それを確認しに来ただけ……だったが、そこで盗み聞きしているの姿を現せ。見せないのら強硬手段にでるが?」
ウォルが剣の柄を掴むのを見て俺は慌てて姿を見せた。
「ご、ごめんなさい! 凄い装備だなと思って見てただけでけして盗み聞きしていたわけでは無いです!」
俺は凄い勢いで頭を下げて謝った。
「初めてみる顔だな。ここら辺の者ではないな」
「あ、はい。弟と一緒に旅をしていて、さっきこの町に着いた所です」
「弟と?」
ウォルはフードを被ったウィルに視線を向けるが、ウィルは俺の後ろに隠れた。
「弟は人見知りで」
「そうか、それはすまないことをしたな」
「いえ。お気になさらないでください」
「旅の者だったな。私は白銀騎士団副団長のウォルター・フリューゲルスだ」
「俺は春名っていいます。こっちがウィルフォード」
ウィルは軽くお辞儀をした。
「ハルナとウィルフォードか。明日にはここを発ってしまうが困ったことがあれば訪ねてくるがいい」
「ありがとうございます」
お店を出ていくウォルの後ろがをウィルは見つめていた。
「こんなところでウォルと出会うとは予想外だな」
「遠征の帰りということはまだモンスターの氾濫が起きてないみたいです」
「モンスターの氾濫?」
「ウォルが屋敷に戻ってから数日後に至る所でモンスターが溢れ出したんです。沢山の町や村が襲われ、僕の直属の騎士団も総出で対処しに向かったけど、勢いが収まらず、家族を失いたくない僕はウォルを止めたんです。だけど、ウォルは戦場に向かって……そして亡くなった。その後はハルナさんが知っている通りです」
「そんなことがあったんだ。それならしばらくは安心ってことだな?」
「まだ猶予はあると思います。ハルナさん、明日はどれくらいに来れますか?」
「今日よりかは早めに来れると思う。俺たちが来てから最速で街に向かうでいい?」
「……分かりました。なるべく早めに来てくださいね」
「わかった。約束するよ」
俺とウィルは指切りをして約束をした。
「そろそろ時間だから俺は宿屋に戻るわ。ウィルはどうする?」
「一旦、現代に戻ろうと思います」
「そうなんだ。てっきりウォルにバレないように交流しに行くんだと思った」
「ウォルは感が鋭い方だから、むやみに接触したらバレてしまう可能性があるからしませんよ。本当は話をしたいけど……」
俺はウィルの髪の毛を描き回した。
「何するんですか!」
「特に意味はないかな。ほら、現代に戻るぞ」
俺とウィルは宿屋に戻り、設置したポータルに触れ、現代に戻った。
「ふう……現代に戻ってきたか。あ、颯音に戻るって言ってないや。まあ、颯音だし大丈夫っしょ。また明日な、ウィル」
「はい。おやすみなさい」
ウィルが家に入っていくの見届け、ログアウトをするためにメニュー画面を開いていると、ルラーシャの部屋の電気がついて、カーテンに写った二人の影で抱き合っているのをわかった。
「本当に仲がいいな」
ボソッとそんなことを呟いて俺はログアウトした。
ヘッドギアを外して体を起こすと部屋のドアがノックされて兄ちゃんが入ってくる。
「まだ起きていたんだな」
「もう寝るけど、なんか用?」
「今連絡来たけど、明日母さんが様子を見に来るって。ついでに夕飯も食べていくってさ。予定空けとけよ」
「明日?! 明日はウィルに早めに行くって約束しているんだけど……何時に家に来るの?」
「夕方の五時ぐらい。学校が終わったら寄り道せずに帰るんだぞ」
そう言い残して兄ちゃんはドアを閉めて、俺は深い溜息を吐いた。
本当に困ったな。母さんを怒らせると後が怖いから夕飯は一緒に食べないといけない。それなら、速攻で夕飯を済ませばいいか。これしかないな。
早めに済ませると誓いを立てて俺は眠りに就いた。




