第396話
拠点に転移した俺はウィルの部屋のドアをノックしたけど返事は無く、そっと扉を開けると部屋にはウィルの姿は無かった。
俺は急いでヒガネを呼び出した。
「ヒガネ、ウィルを探してくれ」
『ウィルを? もしかして、また消えたの?』
「違うとは思いたいけど……」
『えっと、ね……あ、いたいた。拠点の上空にいるみたい。ルラーシャも一緒かな』
「上空?」
閉まっている窓を開けて上空を見上げると、クラゲのミカヅキっぽい見た目のものが上空に浮いているのが見え、俺は安堵した。
『ハルナ、焦り過ぎ。まだウィルのことは信じられない?』
「そうじゃないんだけど……そう、なのかな?」
『しーらない』
そう言ってヒガネはてくてくと歩いて行った。
俺は溜息を吐いてから他のメンバーを呼び出した。
「自由にしててくれ」
コガネたちはばらばらに散って行く。
「ハルナさーん!」
上からウィルの声が聞こえてきて、視線を向けるとミカヅキの上からウィルが手を振っていた。
「なんで僕の部屋に居るんですか?」
「ウィルを探してたんだよ。二人はデート中?」
「はい。夜のデート中です」
ウィルは恥ずかしそうに言い、ルラーシャは頬を赤らめていた。
「お熱いことで。まぁいいや。ルラーシャ、ウィルと話しあるから悪いけどちょっと席を外してほしい」
「うん、わかった。ハルナ、手を貸して!」
俺は手を伸ばしてルラーシャの手を掴み、引き寄せて窓からルラーシャの部屋に入れ、その後からミカヅキの上からウィルは跳び入ってくる。部屋の照明をつけて二人してベッドの腰かけた。
「まぁ、話って言ってもこれを見せたかっただけなんだけどさ」
俺はインベントリにしまっているドウジマさんから貰ったブレスレットをウィルに渡した。
ウィルはじっくりとブレスレットを確認し、だんだんと目が見開いて行った。
「このアイテムをどこで手に入れたんですか!」
「とある人から条件付きで借りたんだよ」
「条件? 詐欺とかじゃないんですよね?」
「詐欺じゃねーよ。貸してもらう条件にお前のサポートをするようにって言われたんだよ。まぁ言われなくてもするけどな。これで多少はお前の負担が減るだろう?」
「……ハルナさんには敵いませんね。遠慮なく頼りますからね、ハルナさん」
「おう」
「それじゃ早速。ハルナさん、僕をもう一度だけあの島に連れて行って欲しいんです。大事なものを取りに行きたくて」
「あの島に? もう残っていないと思うけど……」
「お願いします」
ウィルは真剣な眼差し向けて来て、俺は溜息を吐いた。
「わかった。島までかなり時間が掛かるから早速行こうか」
俺は窓から全員を呼び戻していると、部屋にルラーシャが来た。
「これから出掛けるの?」
「うん。遅くなるから先に寝てて」
「気を付けてね。ハルナ、ウィルのこと守ってね」
「わかってる」
ルラーシャはウィルの頬にキスをしてから部屋を去って行った。
「おお、お熱いことで
「ごほん。行きますよ」
咳払いして誤魔化したウィルは先に部屋を出て行った。
外に出た俺は白と赤の翅を展開して、ウィルを背負い拠点を飛び去り、島があった座標を確認しながら二時間程掛けて目標の場所に到着した。
予想通り島の姿は何処にもなかった。
「ハルナさん、あっちの方に進んでもらってもいいですか?」
「マップには何もないけど……」
「行けばわかります」
ウィルが指差した方に進んで行くと、突然霧が発生して、目の前に灯台が出現した。
灯台の踊り場に降りた俺たちはひび割れたガラスの扉から入った。
ガラスが散らばった通路を迷いなく進んで行くウィルの後ろをついて行く。やがて、ウィルは止まり床の板を剥がして箱を取り出した。
「それは?」
「これは小さい頃にウォルと一緒にこの灯台に忍び込んだ時にいたずらで隠した物なんです」
そう言いながらウィルは蓋を開ける。中にはピンク色の花の装飾が付いたネックレスが入っていた。
「母の形見みたいなものです。帰りましょうハルナさん」
「お、おう」
再びウィルを背負って白と赤の翅を展開して飛び去ると灯台は一瞬で消えた。
「ハルナさん、3日後にクロノス・アルタを完全召喚出来ます。その時に過去に行きましょう」
「3日後……わかった。皆んなの予定を聞いておくよ」
行きと同じ時間を掛けて拠点に戻り、俺はそのままログアウトした。




