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第391話

 皆に伝えた作戦は俺が囮になって引き付けてる間に時計塔を壊すという単純な作戦だ。

 敵のアルファはクモガネとアカガネをかなり警戒していた。それを利用して俺が共鳴をすることで止めざる得ない状況にした。

 骸骨とガンマンは事前に誰が対応するか決めており、骸骨にはルーシャさんとナツキさんと颯音の三人に任せ、移動スキルを封じるためにアキさんのビャッコスキルを使って対処。ガンマンは弾丸の速射と連射の対策として雫恩とランさんの魔法で相殺。

 二体が封じられアルファ自身で対応しなくなり、俺がアルファと釘付けにし、その間にリンさんの最大火力の攻撃とアキさんのバフで底上げし、ミカヅキの防御を貫く。そこにモレルさんの最大火力を叩き込み、壊し損ねたら待機している海都の共鳴技で追撃して壊す。

 短時間で考えたにしては上手く行って良かった。

 ウィルが纏っていた禍々しい鎧が取れた。後は回収のみだ。


「折角、手に入れた駒が!」


「ウィルには指一本触れさせねーよ! 【神炎の領域】!」


 アルファがウィルの所に行かせないために炎の壁を展開して妨害をした。


「なんて忌々しい炎だ……! まぁいい……目的の物は手に入った! 後悔をするがいい……!」


 そう言ってアルファはドロドロの液体状になり姿を消した。


「海都! 敵の反応は!」


「無い! 一応安全だけど警戒を緩めるなよ!」


「わかった!」


 展開した炎を消さずに俺はウィルの元に向かった。


「ハルナ、さん……」


 ウィルは俺と目が合うと気まずそうに目を逸らした。


「話はウォルから聞いた。過去に戻るためにあいつらの手を取ったんだな」


「……過去に囚われているのは自分でも自覚はしています。それでも僕はあの日をやり直したいんです。ウォルに、この街の住人たちに……ちゃんと謝りたいんです! 僕のせいで……!」


 ウィルの目から大粒の涙が零れ落ちた。


「……あいつらに付いて行って過去に戻る方法は見つかったのか?」


「はい。今は破壊されて機能停止しているけど、クロノス・アルタの能力を使えば過去に戻ることは可能です」


 ウィルは壊れた時計塔を見ながら話してくれた。


「確実にウィルが居た時間軸に戻ることは出来るんだな?」


「そ、それは……」


「ウィルが居た時間軸に戻れる確証があるなら止めはしないさ」


「え……てっきり過去に囚われずに今を生きろっていうのかと」


「そんなキザな台詞は恥ずかしくて言えねーよ。言うのは颯音ぐらいじゃね? 言ってほしいなら言うけども」


「……確かにハヤトさんなら言いそうです」


 少し笑ったおかげでウィルの表情が少し柔らかくなった気がした。


「話を戻すけど、確実に戻れるんだな?」


 ウィルは首を横に振った。


「あいつらはただ過去に戻れるとしか言いませんでした」


「それなら俺は反対だ。お前ひとりでは行かせない」


 ウィルは再び暗い表情になったが俺は言葉を続けた。


「だから、俺もウィルに付いて行くさ。まぁ実際に行けるか分からないけど」


 ウィルは目を見開いて俺の顔を見た。


「……本気で言ってますか?」


「ああ。勿論だ」


「どうなるか分からないのに……現代に戻れる保証はないんですよ!」


「なら、過去の世界でウィルと暮すだけ」


「もうこの世界に来れないかもしれないんですよ!」


「それは……嫌だけども。その時はその時に考えればいいさ」


「ウィル、諦めろ。春名は一度決めたら曲げない性格だよ」


 いつの間に来ていた颯音がウィルの首に腕を回して言った。


「てかさ、俺も過去に戻ってみたいんだけど!」


「二人だけどズルい! 私も私も!」


「三人が行くなら私も……!」


 モレルさんとルーシャさん、海都と雫恩の四人も周り集まってきた。


「皆も行きたいと言ってるし、準備万端にした状態で行こうぜ?」


「……皆さんには敵いません……」


 ウィルは再び涙を流して泣き崩れた。


「落ち着いたか? ウィル」


「はい……ごめんなさい、こんなに泣くとは思っていなくて……ハルナさん、色々考えたいんで返事は待って欲しいです」


「……了解。一応、釘を射しておくけど、また勝手に居なくなるなよ」


「分かってます」


「分かってくれたならいいけど。あ。そうそう、ルラーシャがかなり心配していたからちゃんと謝れよ」


「はい……」


「よし、じゃあ帰りますか」


 俺はちらっとメニュー画面の時刻を確認。まだ早朝の四時か。家を出る時間までにはどうにか終わったな。あれ、グレンさんからメッセージが届いている。

 いつの間にか届いていたグレンさんからのメッセージに目を通した。どうやら襲ってきたドラゴンを倒し終わったようだ。


「グレンさん達の方も片付いたみたいだし、地上に戻ろう」


「春名、通ってきた道が消えてるぞ?」


「え? マジ?」


 海都に言われ周りを見渡しても通ってきた扉は消えていて出口はなくなっていた。


「まぁモレルさんが開けた大穴あるし、穴の先が明るいから外に繋がっているだろう。一応、警戒しながら進んで行こ」


 直線にくり抜かれた大穴を進んで行き、段々と海の香り増してきて、地上に出ると浜辺近くの森の中に出た。


「ランさん、リンさん。今日はありがとうございました。ウィルも取り戻せたし、一旦拠点に戻ろうと思います」


「無事にウィル君が見つかって良かったです。私たちは……お姉ちゃん、この後、どうしようか?」


「うーん……狩りも飽きたし帰る。……楽しかったわ、じゃ」


 そう言ってリンさんは転移していった。


「それじゃあ私も――」


 突然の激しい地震に立っていられず俺達は地面に倒れた。すると、遠くの方で空まで届く砂煙が舞い上がって、砂煙の中から胴体が長くて二足歩行のすらっとした黒いドラゴンが姿を現した。


『ワハハハ! 島のコアと一体化した私は無敵! この島の人間を捧げましょう! 我が絶対なる支配者よ! ワハハハ!!』


 ドラゴンは天を仰ぎながら高らかに笑った。


「面倒くさいのが出てきたなぁ……」


「なぁ春名。あれってさ……どうみてもさっきの敵だよな?」


 俺は深いため息をついた。


「六時までに終わらせるぞ。それ以上やっていたら兄ちゃんに怒られる」


「おう! 楽しくなってきた!」


「ハルナさん。僕も一緒に戦っていいですか?」


「別にいいけど、無理はするなよ?」


「問題無いです」


「了解。そんじゃ時間も無いし、ぱぱっとケリをつけるか」


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