第385話
鮫の姿に戻ったウォルは凄い勢いで突進してくる。俺はヘイムンダと共鳴をして正面から受け止めた。重たい一撃に押されて後ろに下がる。
『しっかり踏ん張りなさい小虫ちゃん』
「わかってる……!」
どうにか踏ん張りウォルの攻撃を受け流した。
「ルーシャさん! トオルさん! 今です!」
二人は両サイドから攻撃を与えようと武器を振り下ろす。
「「なっ!?」」
ウォルの表面に鎧みたいな外殻が現れ二人の攻撃は弾かれた。
ウォルは体を回して尾びれで攻撃を仕掛けるが、俺は二人に付けていた糸を引っ張り攻撃を躱した。
「いつの間に糸を付けたんだ?」
「この屋敷に入ってすぐですよ。そんなことよりもあの外殻をどうにかしないと……」
「ユラン! お前のバフでどうにか出来ねぇかーっ!」
ウォルの猛攻を耐えながらトオルさんは、アキさんに守られているユランさんに尋ねた。
「待ってくださ~い【並行詠唱】~【ストレンジ】【シャープネス】【ブレイブ】【ブレイク】」
ユランさんがバフを掛けるとトオルさんとルーシャさんの体が仄かに光る。
「ナイスタイミング! おらっ!」
さっきよりも動きが良くなった二人の攻撃が加速した。タイミングを見て、俺とアキさんのサポートで徐々にウォルの外殻に罅が入って行く。
「皆さん~! そろそろバフが切れま~す!」
「わかりました! 一気にあの外殻を壊します! 【挑発】!」
ウォルの敵視を俺に集めて攻撃を受け止め、コガネの糸でがんじがらめにする。
「喰らいやがれ【断重撃】!」
「【スターライトストーム】……!」
動かなくなったウォルにトオルさんとルーシャさんの猛攻撃で硬い外殻が割れた。
「ビャッコ! 【豪傑の双拳】!」
「ガオー!」
床を突き破って土を固めた巨大な二つの拳がウォルの腹部に命中して大きく跳ねた。すかさず、俺とルーシャさん、トオルさんの三人で追撃をし、ウォルの体力を四割まで削れた。
すると、ウォルの体が徐々に霧になって姿を消し、部屋内が霧で満たされていく。死角からの神出鬼没なウォルの攻撃に俺たちは防戦一方になってしまった。
「鬱陶しい霧だな! どうにか出来ねぇか!」
「風属性のスキルで吹き飛ばしているけど、直ぐに霧が生まれて無意味なんですよっと!」
「そろそろ、飽きてきた……!」
ここで時間を費やすのは得策ではないか。まだ温存したかったけど、やるしかないか。
「クモガネ、準備は良いか?」
『いつでもいいよ』
俺はクモガネと共鳴をして大きな白い翅を広げ、辺りの温度が急激に下がる。
「面白れぇ姿じゃねぇか……今度の試合が楽しみだな、これは……!」
「トオルさん、体が震えてますよ?」
「寒いに決まってんだろうが! お前の仲間も震えてるぞ!」
「トオルさん! ルーシャさん! 俺の近くに来てください!」
アキさんは二人を呼び寄せた。アキさんの後ろには召喚獣のスザクが炎を灯していた。
「ハルナ君、あまり長くは持たないから早めに倒してくれ!」
「分かってます」
「ハルナさ~ん、バフを掛けますね~【並行詠唱】……【プロテクト】【シールド】【リジェネ】【ブレッシング】」
ユランさんにバフを掛けられて俺の体は仄か光った。ありがとうございます、ユランさん。
「【神氷の領域】……!」
自身から発せられる冷気を一気に広げ、部屋全体を凍らせる。部屋を満たしていう霧が凍り、床に落ち、ウォルが姿を現した。
「グオオオオオ!」
「【神氷の舞】」
周囲の氷柱を操り、突進してくるウォルにぶつける。怯んだウォルは体を捻り、その場で回転していき、小さな鮫の群れを次から次へと召喚してくる。俺は部屋中の氷を砕いた。
「数に数を……【神氷の礫】」
空中に散らばる砕かれた氷を小さなに鮫に飛ばして、数を減らしてく。その間に俺は四人にメッセージを飛ばす。
「ハルナさ~ん! バフを掛け終わったよ~!」
「お願いします。ルーシャさん! トオルさん!」
「あいよ!」
「任せて!」
二人は凄い速さで駆け抜け、跳躍してウォルの頭上から重たい一撃を入れる。ウォルの動きが止まり、二人が離脱したの確認してから俺は叫んだ。
「アキさん! 水をお願いします!」
「ゲンブ、頼む」
召喚獣のゲンブの足元から水が湧き上がりウォルを襲う。俺は手を翳して銀色の弓を掴み、氷で出来た矢を番える。
「これで決める……! 【共鳴技・オデュッセイア】っ!」
氷の矢は綺麗な弧を描き、真っ直ぐにウォルに飛翔していき、命中すると一瞬でウォルは氷漬けになった。
「後一割……二人共!」
「止めをは任せろ!」
トオルさんが大剣を振り下ろすために跳躍をする。すると、氷漬けになったウォルの瞳が赤く光り出し、氷を打ち破り黒い霧になった。
黒い霧は凄い速さで俺の方まで来て飲み込まれてしまった。




