第384話
巨大な鮫であるウォルは地上を横断しながら北に進んで行く。俺はプレイヤー側に被害が出ないように鮫の進行方向に居るプレイヤーには退避するように全体に知らせた。
「ハルナ! ここに居たんだな!」
何処からともなくトオルさんが近くに着地をした。トオルさんに続いて俺が誘ったメンバーが続々と集まってくる。
「どうして、ここに?」
「同じ敵ばっかで飽きていた頃でな。お前の知らせを聞いてな、楽しめそうかなって思ってな。皆に聞いたら付いてくることになった」
「俺はこいつの見張りで来ただけだ。レイド戦は好き勝手に動くからな」
「くっ……い、いいだろう別によ! で、どういう状況なんだ?」
「ウィルの居場所を知っているかもって思ってあの鮫を追跡中です」
「おお、でけぇな~強そうじゃねか……」
「一応言っておきますけど、あれと戦わないでください。ウィルの大事な人なんですから」
「……あいよ。ただ、あっちから仕掛けてきたら約束は守れねぇからな」
「わかってます」
「ハルナ、加勢に来たぜ」
グレンさん達も近くに転移してきた。
グレンさん達にも軽く状況説明をしてからウォルの後を追っていく。ウォルは街を抜けて森の中に入って行っていくと、通った後に銀色の魚の群れが現れた。
魚の群れは俺たちに狙いを定めて向かってくる。俺たちは各個撃破に回った。
「春名、ここは俺たちに任せて鮫の後を追って!」
「わかった!」
「ハルナ、私も行く……!」
赤と白の翅を展開してルーシャさんの手を引いて通り抜ける。俺とルーシャさんを追ってグレンさんとトオルさん、アキさんとユランさんが後を追ってきてくれた。
「トオル! 勝手に持ち場を離れるなーーー!」
後ろからディオガさんの怒声が聞こえてきてトオルさんは苦笑いを浮かべていた。
「うっし。小言を言う奴も撒けた撒けた。それにしてもユランがついて来るとは予想外だ」
「貴方たちのバランスを考えたらバッファーは必要かなと思いまして~」
「そうかよ。ハルナ、陣形はどうすんだ!」
「……俺がメインタンク、トオルさんにはサブ兼アタッカーをお願いします。ルーシャさんとグレンさんは前衛アタッカーで。アキさんは後衛アタッカー、ユランさんは後衛で支援をお願いします。森を抜けます」
鬱蒼とした森を抜けると錆びだらけ大きな門が見え、その奥には崩壊した屋敷が建っていた。
「この屋敷は何処かで……」
見え覚えのある屋敷に俺は止まり、まじまじと屋敷を見渡した。
「ハルナ、モンスターが屋敷の中に入って行ったぞ」
「俺たちも行きましょう」
俺たちは屋敷の正面の扉から中に入って行く。屋敷内は外と違ってそこまでボロボロではなかったが不気味な雰囲気を醸し出していた。
「アキさん、ユランさん。広範囲に索敵が出来るスキルってありますか?」
「索敵はクルルンに~任せているから~私は持ってないよ~」
「使えるけど……ハルナ君、索敵スキル持ってなかったっけ?」
「一応あるけど、ヒガネと共鳴技を使ったから狭い範囲でしか索敵出来なくて」
「なるほどね。じゃあ任せて……セイリュウ、力を貸して」
アキさんは召喚獣の一体、セイリュウを呼び出す。セイリュウから暖かな風が放たれ屋敷内を駆けていく。
「ハルナ君、索敵をしたんだけどあの鮫以外のモンスターの反応が一切ないんだ」
「居ないだと? ここは悪魔の島だぞ、モンスターが居ないなんてあり得るのか?」
「あの鮫が他のモンスターを倒した可能性もあるかも。慎重に進んで行きましょう」
警戒しながら屋敷内を進んで行く。アキさんの言った通りにモンスターの姿は一切なく、俺たちは順調に進んだ。
長い廊下を進んで行くと、壊れていない木製の扉を見つけた。
「この中に居ると思う」
「行きましょう」
ゆっくりとドアを開け、警戒しながら部屋に入って行く。
「この絵は……」
入ってすぐ目の前には仲睦まじい様子が描かれている家族の大きな絵画が飾られていた。
後ろに居るのが父親と母親っぽいな。真ん中に居るのが二人の子供かな。右側の子供がなんとなくウィルに似ている気がする。
「ハルナ。この絵の子供、ウィルに似てない? 気のせい?」
「俺も似ていると思っていたんで気のせいじゃないと思いますよ、ルーシャさん」
「そう、だよね……ここはウィルの家ってこと?」
「多分そうだと思います……」
ウィルが探し求めていた故郷の情報をこんな形で知るとはな。この事はウィルは知っているのだろうか。
『兄さんなら知っているよ、この街の事は』
天井を通り抜けて獣人の姿になったウォルが姿を見せる。
『兄さんはあの日に帰るためにこの島に来たんだ。兄さんの邪魔をするなら容赦はしない……!』
黒い霧にウォルは包まれて再び巨大な鮫の姿になった。
「ハルナ! やっても良いんだよな!」
「油断しないでくださいよ、トオルさん。全員戦闘準備!」




