第381話
「春名君、そろそろ時間だよ」
「はーい」
バイト先の店長の蒼さんに言われ、店内の時計を見るともうすぐで退勤の時間だった。
俺は夕方から出勤する人に引継ぎをしてから俺は退勤した。
「春名君。今、大丈夫?」
着替え終わると蒼さんが入ってくる。
「なんかありました?」
「来週のシフトなんだけど、この日からこの日に移動って出来る?」
「あーその日なら大丈夫です」
「本当に! 助かるよ! じゃあこの日にシフト入れるから曜日を間違わないようにね。あ、ちょっとだけ待ってて」
そう言って部屋を出て行った蒼さんは直ぐに戻ってきて、手にはおしゃれな紙袋を持っていた。
「はい、これ。シフトの移動してくれたお礼。冬真の分は無いからこっそり食べてね」
「わーい! ありがとうございます!」
「じゃあ気を付けて帰るんだよ」
「はい、お疲れ様でした」
お店を出て俺は駅に向かって歩いているとスマホが震えた。
颯音から電話だ、なんだろう。
「もしも――」
『ハルナ! 急いでゲームにログインしてくれ! 大至急だ!』
かなり慌てているの様子の颯音。
「急いでって言われてもな……電車もあるし」
『そう言うと思って海都に頼んでおいた』
「は?」
電話が急に切れると、俺の近くに黒い車が止まった。
「春名、乗れ!」
「え、海都!? なんで――」
「良いから、早く乗れ!」
「お、おう」
海都に急かされて車に乗りシートベルトを締めると車は動き出した。
「なぁ、何があったか聞かせてくれよ」
「春名と別れた後、クエストも終わりドワーフの街を観光し終わって拠点に戻ったんだ。そうしたら拠点が濃霧に包まれていたんだ」
「拠点が? 原因は分かったのか?」
海都は首を横に振った。
「原因は不明。俺と颯音で辺りを調べたけどなんも見つからなかった」
「なるほど……」
「ここからが本題。外に居なかったウィルとルラーシャの様子を見に行ったら、ルラーシャはリビングで寝てて、ウィルの姿は何処にもなかった」
「ウィルの姿が何処にも……? いやいや、冗談はやめてくれよ海都。拠点は敵が入ってこない安全エリアだ。そこからウィルがいなくなるわけないだろ! それにオピオさんが見守っているって……!」
「落ち着け春名。直ぐにオピオさんに確認に行った。オピオさんは敵の襲撃は無かったと言っている。ここから繋がる結論は一つだけ。ウィルが何らかの理由で自ら外に出たんだ」
「……」
「オピオさんがウィルの形跡を追っている最中だ。家に着いたぞ」
外を見ると俺が住んでいるマンションにいつの間にか到着していた。
「俺も後から行くから、早くログインしろよ」
「海都、ごめん」
「ウィルを取り戻すぞ」
「ああ!」
駆け足でエレベーターに乗り家に帰宅。
「ただいま! 兄ちゃん、ご飯はもう出来ている!」
「お、おう。出来ているけど……」
「わかった」
急いで部屋着に着替えて夕飯を食べることにした。
「ゆっくり食べろよ、春名」
「ごめん、ちょっと急いでて。それと兄ちゃん。今日は遅くまでやるから、許して欲しい」
「……ダメって言ってもやるんだろ?」
「うん。これだけは譲れない」
兄ちゃんは大きく溜息を吐いた。
「学校を遅刻したら怒るからな?」
「兄ちゃん、ありがとう! ごちそうさま!」
空の食器を流しに置いてから部屋に戻り、俺はログインをした。
「おせーぞ、春名」
「話は聞いたぞ。俺たちも手伝うぞ」
拠点には颯音と雫恩。ルーシャさんとモレルさんのクランメンバー以外に、グレンさんとベオルさん、エレナさんとユリーナさん、リリアスさんとミライさんが揃った。
「グレンさん……ありがとうございます」
「オピオさんー! 春名、来ましたよ!」
上空に向けて大声でオピオさんを呼ぶ颯音。羽ばたく音が聞こえ、オピオさんが降りてくる。
「ハルナ、儂がついて置きながらすまぬ……」
「話は聞いてます。オピオさんは何も悪くないから謝らないでください。それよりも、ウィルの居場所は分かったんですか?」
「大体の場所は分かったが、かなり離れているのう。移動はどうするじゃ?」
「船があれば一気に移動できますけど今は修理中。それなら……俺が先行して、目的地に着いてから転移してもらった方がいいかも」
「春名のアカガネなら速いしいいんじゃない? てか、船いつ壊れたんだよ」
「その話はまた今度だ。オピオさん、案内をお願いします」
「任せてくれ」
「ハルナ!」
後ろから抱きついてくるルラーシャの目は泣いて赤くなっていた。
「ウィルの事をお願い……」
「必ず連れて帰るから待っててくれ。アカガネ、クモガネ」
俺は二体を呼び出して、白と赤の翅を展開して飛び立ち、オピオさんに案内してもらい目的地に向かった。




