第380話
桟橋を抜けて道なり進んで行き組合所に向かう。あまり観光が出来ないルラーシャの為にゆっくりと歩みを進めることにした。
「うわああ! 凄い……!」
通り過ぎていく人や建物を見るたびに目をキラキラと輝かせては足を止めるルラーシャ。
「ぶつかると危ないから手を繋ぐぞ」
「うん」
「ウィルも繋ぐか?」
「……僕は遠慮します」
そう言ったウィルはそそくさと前を歩いて行く。少し時間を掛けて組合所に到着。中は空いていて直ぐに受付に行けた。
「本日のご用件を伺います」
「カスティさんっていますか?」
「代表ですか? 名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「ハルナです」
「ハルナ様ですね。代表でしたら執務室におられます。ご案内致します」
受付嬢にカスティさんの執務室に案内され、ドアをノックすると中からカスティさんが返事をし中に入れてくれた。
「ハルナ様、ウィル様……そちらのお嬢様は?」
ルラーシャは俺の背後に隠れてしまった。
「こちらは人魚族のルラーシャ。色々あって今預かっている」
「人魚族……ていうことは人魚族との貿易を開拓させたのはハルナ様でしたっか」
「え、なんでそれを……?」
「立ち話もなんですから、こちらに」
俺はソファに腰かけ、両隣にウィルとルラーシャも腰かけた。
カスティさんが淹れてくれた紅茶を一口飲むと、カスティさんが話し出す。
「先日、人魚族の国から一通の手紙が届いたのです。手紙には条件を満たしたプレイヤーが現れた為、この街までの海路が出来次第貿易を開始するとの内容でした。条件を満たしたプレイヤーの名前は記載はありませんでしたが、ハルナ様がその子を連れているということで確信になったのです」
「なるほど……NPC間でそんな連絡をしているんですね。カスティさん、その話って俺に伝えてもいい奴?」
話を聞いている限りプレイヤーに話していいのか微妙なラインであることに気付き、聞いてみるとカスティさんはティーカップを持ち、紅茶一口含んだ。
「それで、本日はどの様なご用件で?」
話の逸らし方が下手すぎですよカスティさん。
俺は内心苦笑いを浮かべた。
「今日はウィルの転職しに来たんです」
「転職ということはレベルがカンストされたのですね。おめでとうございます。では、ウィル様はこちらに」
「あ、はい」
立ち上がったカスティさんはウィルを連れて部屋を出て、少しするとカスティさんだけ戻ってくる。
「あれ? ウィルは?」
「私たち住人は転職をする際は専用の部屋で行われます。転職が終わったら部屋に戻るように伝えていますので待ちましょう」
「わかりました」
「ハルナ様、人魚族の国の話を聞いてもよろしいでしょうか」
「別に構いませんよ」
俺はカスティさんに人魚族の街の街並みやそこで食べた物や、敵対者の深淵の者のこと。その流れで幹部の敵に襲撃されたことも話した。
「そんなことが……何かありましたら相談してくださいね」
「ありがとうございます、カスティさん。お、おかえり」
カスティさんと話していたらドアが開きウィルが戻ってきた。
「も、戻りました……」
「時間掛かっていたけど転職は出来たのか?」
「実は……一番なりたかったジョブの条件を満たしていなくて……悩んだんですけど、妥協したくなくて今回は見送りました。折角、連れて来てくれたにごめんなさい」
「そっか。まぁ条件を満たしたらまた声を掛けてくれば組合所に連れていくさ。じゃあ俺たちはこれで帰ります」
「……わかりました。そう言えば、修理中の船ですが明日には終わるとのことで、倉庫に行けばいつでも引取が可能です」
「了解です。時間を見つけて行きます」
カスティさんに見送られ、組合所の裏口から出た俺たちは上層に向かった。
「凄く広いね……! ここはどんな場所なの?」
「ここは広場で色んなプレイヤーがのんびりしている場所かな」
「のんびり? あっちで戦っているけど……」
ルラーシャが指差した方には二人のプレイヤーが戦っていた。
「周り迷惑が掛からないように決闘しているみたいだし良いんじゃね?」
俺はアカガネを呼び出して赤い翅を展開。二人を抱えて飛び立ち、拠点に戻り、そのまま俺はログアウトをした。
ヘッドギアを外して周り見渡す。颯音と海都はまだやっているようだな。
ヘッドギアを仕舞い、物音を立てずに部屋を出ると、扉の前でメイドさんが待機していた。
「すいません、部屋まで案内をお願いします」
「畏まりました」
広い屋敷をメイドさんに案内されて割り振られた部屋に戻り、そのまま眠りに就いた。




