第379話
人魚族の街を出て二時間ぐらいレベリングをしたおかげでルラーシャは大きくレベルが上がり、ウィルはようやくカンストした。
街周辺のモンスターはそこそこ強く、慣れない水中戦で序盤は苦戦していたけど、今では俺たちのサポートが無くても単騎で勝てるようになった。
ウィルのレベルがカンストしたことで上位職に転職が出来るようになったけど、海原エリアの組合所に行けば転職出来るのかな。今度カスティさんに聞いてみよう。
レベリングが終わり、俺たちは人魚族の街のカフェのようなお店に入り休憩を取ることにした。
「美味しい……この甘さ加減、絶妙だわ。ルーシャさんに再現して欲しいぐらい」
雫恩はこの街限定の洋菓子を頼み、味を楽しんでいる。
「まだ零時前か。まだやるならどっか行く?」
「俺はパス。明日早いし、俺はここでやめるよ」
「春名は朝からバイトだもんな。海都と雫恩はどう?」
「俺はまだまだ行けるけど、雫恩は寝るか?」
「うーん、私も少しだけなら。あ、そうですわ。特に行く場所決まってないならドワーフの街に行くためのクエストをやりませんか? 開放はしたけどまだやってなかったのよ」
「有り寄りの有り! 雫恩の意見に賛成!」
凄い勢いで颯音は手を上げた。
「二人が行くなら付き合うよ」
「じゃあ一旦ウィルとルラーシャを送ってからだな」
颯音と海都、雫恩の三人は席を立ちあがった。
「今日はここまでだな」
「ハルナさん。今度でいいから街に連れていって欲しいです」
「街に? 別にいいけど……あ、転職か」
「はい」
ウィルは力強く頷いた。
「そんな時間は掛からないし、今から行くか」
「え、今度で大丈夫――」
「大丈夫だから行くぞ」
「はい……!」
「じゃあ私はお留守番かな……」
嬉しい表情をするとウィルと対照的に退屈そうな表情のルラーシャ。そんなルラーシャに俺は提案をした。
「ルラーシャも俺たちの街に来てみるか?」
「私もいいの?」
「おう。ただ、バレたら面倒くさいことになるから、街では足の魔法を解かないようにな」
「うん!」
「じゃあ帰るか」
店を後にした俺たちは外に出る為の門の方に向かった。
「お帰りでしょうか!」
エスカルスさんの姿は無く若い門番が声を掛けてくる。
「そうなんですけど……エスカルスさんは不在ですか?」
「はい、何か言伝があれば伝えますが」
「特にないですけど……あ、また来ますと伝えてください」
「承りました! お気を付けて!」
アオガネとリュウオウを呼び出して別れて背に乗り、拠点を遠すぎて街に向かった。
しばらく海中を猛スピードで進んで行くと、前方からドロドロと蠢くモノが視界に映り、俺はアオガネの速度を落とした。
『深淵の者か……こんなところまで来てるのか……』
『春名、ここは俺たちに任せて二人を街に』
『三人で平気か?』
『大丈夫大丈夫。やばかったら転移して拠点に逃げるさ。海都、雫恩やるぞー!』
『リュウオウ、行くぞ』
『グラア!』
『手加減しなくていいのよね?』
『手加減なんていらない、本気出そうぜ!』
雫恩は杖を構えて七色の小さい槍をいくつも生成し、颯音は手を翳し渦巻を作り始めた。
「グラアアアアアア!」
リュウオウの体にある突起部が発光し始めると、口を大きく開けて電気を溜め始めた。
二人と一体の攻撃を一斉に放ち、海中で爆発が起きた。
『春名、今のうちに行け』
『おう! アオガネ!』
『しっかり掴まっていろよ!』
アオガネは猛スピードを出し、群れの隙間を通り抜ける。追ってくる者もいたけど、颯音たちがどうにかしてくれて街の結界内に入ることが出来た。
『ハ、ハルナ……人、いない……みたい……』
『ありがとうアオガネ。浮上してくれ』
海面からアオガネに地上の様子を確認してもらい、人が居ないことを確かめてから浮上した。
アオガネの背から桟橋に降り、緊張しているルラーシャの手を取り、背から降ろした。
「ここがハルナたちの街? 大きいね!」
「この街は上に伸びている街で、俺たちが居るのが下層って言われている場所なんだ」
「本当だ~……ハルナ、観光していこ!」
「案内したいのは山々なんだけどけど、あんま時間なくてな……今度来た時にでも上層から下層まで隅々案内するからさ。また今度な」
「ええ……しょうがないな~。約束だからね」
「ああ、約束するよ」
俺はルラーシャと約束の指切りをした。
「そんじゃ組合所に行きますか」




