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第374話

 樹海の中を難なく駆ける牡鹿を俺は白い翅を広げて俺は必死に追い駆けた。


『ハルナ、全然追いつけないよ!』


 クモガネの飛行速度を牡鹿の移動速度の方が上回っているから追いつけないのは当たり前だ。アカガネだったら追い付いているし、俺のスキルも使えれば木々で妨害も出来るけど、制限があってクモガネのスキルしか使えない。この樹海には水がある所は限られているからクモガネのMPが尽きる前に捕まえなきゃ。


「クモガネ、あの牡鹿の前に氷の壁を作って妨害してくれ」


『わかった!』


 クモガネはスキルを使って牡鹿が通る道に氷の壁で妨害をする。だけど、牡鹿は氷の壁を簡単に飛び越えてしまった。そして、振りかえって鼻で笑っているように見えた。

 その様子を見て俺は苦笑いをした。


『あの鹿……! 絶対に捕まえる……!』


 俺かコガネ達に対してしか感情をあまり出さないクモガネが燃えているな。


『……ハルナ、あれを使ってもいいよね?』


「あれ? あー……あれか使うのか」


『うん。【終わりの箱庭】』


 上空にいくつもの白い支柱が現れ、広範囲に広がり、正方形になるように地面に落ち、冷気が一気に範囲内に広がった。

 スキル【終わりなき箱庭】はクモガネが最後に覚えたスキル。範囲内にいる敵味方関係なく、継続ダメージと移動速度低下を与える凍傷デバフが付く効果がある。味方にも効果があるから使わないってクモガネは言っていたけど、これを使うってことは相当キレてんな。結構な範囲だから範囲内に人がいないといんだけど。


『ハルナ、上から探すよ』


「はいはい」


 舞い上がり上空から樹海を見下ろした。


「広範囲に氷漬けされてる……見つけた」


 眼下に広がるは氷樹になってしまった樹海が広がっていた。その中から光る牡鹿を見つけた。

 一気に降下して牡鹿に近づく。俺に気が付いた牡鹿は逃げ出すが、移動低下のおかげで足が遅くなっている。これなら追いつけるな。


『閉じ込める……!』


 逃げる牡鹿の前後左右に氷の壁を生成しだす。牡鹿は抜けようとするも足が遅くなり囲い込まれ、飛び越えようとジャンプをするも、更に壁を高くし、上からも蓋を閉じて完全に閉じ込めた。

 目の前に降りて中を覗くと、体を震わせて座っている牡鹿の姿があった。流石にやり過ぎたかな。


「クモガネ、【終わりの箱庭】を解いてくれ。ついでに、この氷も」


『え!? そんなことしたら逃げちゃうよ!』


「そん時はまた追い駆けるだけさ」


『もう、僕のMPほとんどないからね』


 そう言いつつもクモガネは全てを解いてくれた。

 牡鹿はなにが起きているか分からず辺りをきょろきょろしだす。俺は適当に枝を集めて火山エリアで採取したファイアーフラワーを取り出して枝を燃やして火を起こした。

 牡鹿は起き上がり焚き火の近くに来て暖を取り始める。俺は焚き火を挟んで反対側に座った。


「なぁ、お前って使徒みたいな存在なのか?」


 そう尋ねても牡鹿は俺を見るだけだった。

 何か言っているかもだけど、俺が聞けるのは虫系モンスターの声だけなんだよな。

 小腹が空いた俺はインベントリにある果物を取り出して食べていたら、牡鹿がこっちを見ているのに気が付いた。


「食べるか?」


『あ、それ! 僕の!』


「クモガネのはこっち」


 インベントリから別の果物を取り出してクモガネに渡した。

 美味しそうに果物を食べるクモガネをそのままにして、俺は手で牡鹿に差し出すと、最初は警戒しするもゆっくりと果物を食べてくれた。

 しばらくすると、元気を取り戻して牡鹿は立ち上がって去ってしまった。


『あーあ、逃げちゃったよ。少しは回復したけど、さっきみたいに長くは出来ないよ』


「分かってるさ。行けるところまでや……るつもり……え?」


 牡鹿が去っていたいた方を見ていたら、さっきの牡鹿が人を乗せて戻ってきて俺は目を丸くした。


『ありがとう。あなたは戻って頂戴』


 背中から降りた人は牡鹿の頭を撫でると消えてしまった。


『あのまま私の眷族を倒していたら神罰を与えるところだったわ』


「あはは……やり過ぎました。すみませんでした」


『……許そう』


 俺は頭深く下げたら目の前の人は許してくれた。


「それで……結果の方は……?」


『ふむ……合格と言いたいがこの森の惨状を見るとな……』


 目の前の人は悲しげに森に視線を向けた。


「あ、それなら大丈夫ですよ。もう試練は終わっているんですよね?」


『うぬ』


「じゃあスキルを使います。【樹木操作】……!」


 俺は地面に手を置きスキルを使い、傷んだ木々を修復していく。


「これでいいかな? はぁ……疲れた……」


 樹海を元の姿に戻すのにほとんどのMPを使い、俺は地面にへたり込む。


『お主【森主の寵愛】が得ているのか』 


「【森主の寵愛】のスキルを知っているんですね。色んな事があってもらったんです」


『そうか……名は何と言う?』


「俺ですか? 俺はハルナで、こっちがクモガネです」


『ふむ……』


 目の前の人はクモガネの近くに行き、頭に手を置くと、クモガネの腹部に三日月の模様が浮かび上がり、夜空まで届く激しい光が放たれた。

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