第363話
『五百年前……』
そう呟き俺は椅子に静かに座り、隣に居る颯音が口を開く。
『てことは、ルラーシャは五百年前に誘拐されてから、あの箱に閉じ込められたってことだよ……誰だよ、そんなことをする奴。出会ったらぶっ飛ばしてやる!』
『ハヤト、私も手伝う……絶対に許さない』
『ちょっと二人だけズルい! その時が来たら私も誘ってよね!』
三人は不敵な笑みを浮かべていた。
『春名さん、大丈夫ですか?』
『え、ああ。大丈夫。ただ、驚いただけ……驚いただけだけど、この話を本人に伝えないと思うと、な……』
俺は溜息を吐いてから、頬を軽く叩いた。
『よし、伝えに行くか。エスカルスさん、教えてくれてありがとうございました。仲間が心配なんで俺たちはこれで』
『そうか。外まで案内しよう』
俺たちはエスカルスさんの後を続いて神殿の外に出た瞬間、街全体に重点音のサイレン音が鳴り響いた。
『エスカルス卿! 緊急事態です! 深淵の者共が押し寄せています!』
慌てた様子の人魚が泳いで向かってきた。
『深淵の者、か……状況は?』
『数名怪我人は出ましたが、近くにいた白き竜と人間のおかげで死者は出ていません』
『その白き竜と人間なら俺の仲間です』
『人間が何故ここに……?』
『そんなことよりもヤバいん状況なんでしょ? 俺たちも手伝うよ』
人魚はエスカルスさんの方に視線を向けて判断を委ねた。
『……深淵の者共は我らの宿敵。被害が最小限で済むならお前たちの力を借りよう。グラムハ、私はこの者らと現地に向かうと本部に伝えてくれ』
『はっ!』
グラムハと呼ばれた人魚は来た道を戻っていった。
エスカルスさんの後をついて行き街の外を出ると、激しい戦闘が繰り広げられていた。
『あれが深淵の者……』
黒いオーラを放つ頭部が魚で下半身が人型の半魚人の姿が見えた。その周り青い電気がバチバチと光っていた。
『春名、あそこに海都がいるみたい』
『了解。アオガネ、敵をなぎ倒して海都の所に向かうぞ』
『任せろ!』
小さくなっていたアオガネが巨大化した。
『も、モンスターだ!?』
『落ち着け! この者達は我の味方だ!』
エスカルスさんが言葉で場を一瞬で鎮めた。
『エスカルスさん、一気にケリを付けるから同胞を下がらせてください』
『可能なのか?』
『問題ないです。モレルさん、全力の砲撃をお願いします』
『おーけー。三十分は必要だから時間稼ぎは任せたよ。まぁその前に終わらせてもいいけどね』
『了解』
『それなら……水中戦は慣れていないから私はモレルの護衛、かな』
『私もモレルさんの護衛に回りますわ』
『それじゃこっちは三人に任せました。颯音、行くぞ』
『おう!』
アオガネの背に乗り海都が居るところに敵をなぎ倒して向かった。
『海都! ウィルとルラーシャは無事か!』
『遅いぞ二人共』
『ハルナさん、ハヤトさん! 僕とルラーシャは無事です』
『そうか……』
二人に怪我無くて俺は胸を撫でおろした。
『海都、人魚たちには退いてもらったから全力を出して良いぜ。ついでに、後ろの方でモレルさんに溜めてもらってる』
『わかった。リュウオウ、やるぞ』
「グラアアアアアア」
リュウオウが咆哮を上げると体の突起が青く光り出して先程よりも激しく青白い電気が放たれた。
『こっちも行くぞ、アオガネ』
『全て蹴散らす! 【大渦】』
アオガネの輪郭が淡く光ると大群の中心に竜巻を起こして敵を飲み込んでいく。
『二人が凄すぎて俺の出番ね……』
後ろでボソッと呟く颯音の言葉が聞こえてきたが、触れずに次々に深淵の者を倒していく。
『春名、大物の登場だ』
敵の数が大分減って来ると、群れの後ろから黒いオーラを放つ巨大なイカが姿を現した。
『来た来た来た! 俺の出番が来た!』
『あ、おい!』
意気揚々と颯音はアオガネの背から一気に加速して、巨大なイカに近づいて一撃を入れて、巨大なイカは吹き飛んだ。
『颯音ー! モレルさんの準備が完了したから避難するぞー!』
『おう!』
避難し終えてモレルさんに合図を送ると、極太のレーザーが放たれ、群れは光に包まれた。
『おお、一掃はしたけど……これ、怒られない?』
『多分怒られる案件だと思うけど、なんとかなるしょ。多分……』
無事に深淵の者達は殲滅は出来たが、モレルさんの砲撃で入り口だった洞窟のごと吹き飛ばしてしまい更地になってしまった。




