第360話
目の前に広がる霧を警戒した俺はヒガネを呼び出す。
「ヒガネ、霧の中に見れるか?」
『この中を? えっと……なんか、デッカイ塊みたいなものがあるような……』
「デッカイ塊?」
頭にハテナマークを浮辺ているとスピーカーから颯音が聞こえてくる。
『春名、最悪の知らせ。霧の中に島が現れた。多分だけど、悪魔の島かも知れない』
悪魔の島はこのエリアのイベントの一つ。神出鬼没の八つもある島で、攻略しないと周りにも影響を与えてしまう島だ。
「遠回りできるか?」
『出来なくもないけど規模がデカ過ぎて時間が掛かる』
「うーん、あ、上空にも霧が掛かってる?」
『上空? ちょっと待って…………上空なら平気かも』
「了解。颯音、船内に来てくれ」
颯音との会話を終わらせてウィルとルラーシャを連れて船内に戻り、全員が揃ってから説明をした。
「この霧を遠回りで避けると時間が掛かる。幸い、上空は範囲外っぽいから、上空から霧を抜けようと思う」
「俺は賛成。あそこは幽霊系のモンスターが多いから苦手なんだよな」
「俺はリーダーの意見に従うよ。雫恩もそれでいいだろう?」
「構いませんわ。今一番優先しないといけないのはルラーシャを無事に送ること。寄り道をする時間はありませんわ」
「全員賛成ってことで。デッキに移動するぞ」
デッキに移動してからビートル隊を呼び出す。
「ウィルとルラーシャはツヴァイとドライの背中に乗って。他のビートル隊は二人の護衛を」
『『『お任せを!』』』
ウィルはツヴァイ、ルラーシャはドライの背に乗り浮かび上がる。
「颯音、海都と雫恩を乗せてやってくれ」
「あいよ」
三体の狼を呼び出し、ギンの背に二人を乗せて、颯音はコクヨウを影に入りヒスイの背に乗った。全員が船から離れてからコガネたちを呼び出して球体と一体化してもらい、クモガネと共鳴をして白い翅を展開してから、船をインベントリにしまった。
霧が掛かっていない上空まで上昇し、移動し始めた。
「こんなに広範囲に霧が広がっていたのか……」
眼下に広がる濃霧のせいで海面は見えなくなっていた。
「急いでこのエリアを抜けよう」
全員が頷きスピードを上げた。しばらく進むと海都が声を荒げた。
「霧の中に敵の反応だ!」
「霧の中?」
『ハルナ、右に回避して!』
翅を動かそうとする前に、勝手に翅が動き、下から凄い勢いで突っ込んでくる触手の攻撃を避けた。
「サンキュークモガネ……! あとは任せてくれ」
『気を付けてよ』
「分かってる。ビートル隊! 全力で二人を守れ!」
『『『お任せを!』』』
次々と霧の中から触手が伸びてきて、それぞれで対処をしだす。
「春名! キリがないんだけど!」
「俺が攻撃を引き付けている間にこのエリアを抜けてくれ」
「一人で大丈夫か?」
「盾士を舐めんな。こんなの余裕だよ」
「……あ、そう言えば春名、盾士だった……!」
「ガチで忘れてた表情じゃん! ……良いから、さっさと行け」
「はいよ」
颯音は触手の攻撃を躱して、ルラーシャを守っているウィルの所に向かった。
「さて、盾士の本領を発揮しますか。【咆哮】!」
分散していた触手のヘイトを全て俺に向けた。
「ヘイムンダ、頼む」
『気張りなさい、小虫ちゃん』
ヘイムンダと共鳴をして盾の模様がテントウムシの模様になる。
「【ラウンドフォース】!!」
全方位から攻撃をスキル一つで防ぐ。ヘイムンダの盾職スキルの強化のおかげで受け止めれたけど、長くは続かないな。
『ハルナ殿、私の力を御使い下さい』
蟷螂の模様した球体――ウシャスラが提案する。
「そうだな。ウシャスラの力を使うよ」
ウシャスラと共鳴をすると、球体は黒い靄になり大鎌になった。
「そんじゃ行きますか【共鳴技・連鎖する刃】」
手に持った大鎌を思いっ切り振り、斬撃が飛んでいき触手に当たると、斬撃が拡散。拡散した斬撃が当たりさらに拡散して被害が増えていく。この攻撃自体はダメージは少ないけど、その分、当たれば連鎖する効果があるから複数戦ではかなり強い共鳴技だ。
颯音たちを見ると、触手の妨害も無く、大分遠くの方まで行けているようだな。
「クモガネ、やるぞ」
『うん。ここなら全力が出せるよ』
「了解。【共鳴技・フィンブルヴェトル】」
俺から放たれた氷点下の冷気は一瞬にして濃霧を広範囲に凍らせ、触手の動きを止めた。
共鳴技を使ったため、クモガネとの共鳴が解けてしまい、急いでアカガネと共鳴し赤い翅を展開して颯音たちを追い駆けた。
「ハルナさん! 無事でよかった……」
「あれぐらい平気だよ。もうすぐ霧を抜けるな」
「春名、熱源反応だ。触手が動き出すぞ」
後ろ見ると動きを停止していた触手がうにょうにょと動き出して向かってくる。
「構わずに突っ切るぞ!」
更にスピードを上げて、触手がギリギリ届く前に霧のエリアを抜けて攻撃が止み、安堵した。




