第349話
「もう五時か……急がないと」
更にスピードを出してドワーフが待っている神殿に十数分で到着した。ドワーフは瓦礫の上に座って不機嫌そうな表情をしていた。
「やっと来やがったな。俺を待たせるってことは余程の物を持ってきたんだろうな!」
「すいません。遅れたのはこれを手に入れてて……」
インベントリからドワーフの街で手に入れたサラマンダーの地酒を渡した。
「こ、これは……! サラマンダーの地酒か!」
ドワーフは地酒を受け取ると体を震わせた。あれ……間違った……?
「ガハハハッ! まさかこの酒を持ってくるとはな!」
ドワーフは大喜びで笑い、俺の背中をバンバン叩いてくる。
「この酒は俺の大好物なんだ! よくわかったな! ……やっぱ美味いなこの酒!」
ドワーフは一気に半分まで酒を飲んで少し顔が赤くなった。
「よっぽど好きなんですね、このお酒。これで依頼は達成ですか?」
「おう。勿論さ。あれを見てみろ」
ドワーフが指している方を見ると柱の頂上に草冠の中に弓矢の柄が刻まれた物があった。
「ここから四四四メートル離れた所から、あれの中心に矢を当てると面白いことが起こるぞ」
「面白いこと?」
「やってからのお楽しみだ。ガハハハッ! じゃあな!」
「あっ、まだ聞きたいことが! ……行っちゃった……」
そう言ってドワーフは瓶を片手に持って去ってしまった。
色々と聞きたいことがあったけど、ヒントは貰ったし、あとは自力でやろう。
「えっと、ここから四四四メートル離れた場所か……ヒガネ」
『呼んだ?』
「ここからさ、四四四メートルの距離って測れる?」
『何その微妙な距離? まぁ出来るけど』
そう言ったヒガネは共鳴をしてゴーグルをつけた。
『ハルナ、マップに表示しておいたから確認して』
マップを開くと神殿を中心に円が描かれていた。柱の向きを確認をして、マップに目印を指した。
白と赤の翅を展開してマップの場所に飛び、神殿の方を見た。
「ここから狙って、しかも矢を当てるのか。遠いなぁ……ヒガネ、弓に嵌ってくれるか?」
『ここから狙うの? それなら私よりディルロスの方が良いんじゃない?』
「うーん、ディルだと銃になっちゃうから弾になるんだよ。矢で当てなきゃいけないんだ」
『なにそれ面倒くさ。わかったわ』
ヒガネは共鳴を解いて球体に戻り、俺は盾を弓に変形させた。弓の窪みにヒガネが嵌り弓の形が変わる。握る部分から上下に三本ずつ板が伸びて、中心の板から弦が張ってある白い弓になった。
弓を握ると白い矢が生成され、弦を引くと、目の前に照準と風向き、着弾地点などが表示された。
距離は四四四メートル、風の影響はないみたい。着弾地点も確認して上に向けて放った。
矢は綺麗な軌道を描き、飛行して目標の右側に逸れた。
今度は少し左の方に向けて放つ。だけど、矢は下側に逸れてしまった。
それから何度も試したが全然当たらなくて俺は膝をついた。
「全然当たらないんだけど……難し過ぎだろ、これ……」
『全然当たらないね。本職の人じゃないと出来ないんじゃない?』
「本職……知り合いで本職は海都ぐらいしかいないけど」
俺はフレンド一覧を開いて、海都がログインしていることに気が付く。藁にも縋る思いで海都にメッセージを飛ばして、手伝ってくれることになった。俺以外やっちゃダメと言われてないし問題ないだろう。
しばらくして海都が俺の所に転移してきて、色々と説明をした。
「これが成功したら何してくれる?」
「俺の出来る範囲ならなんでも一度だけ言うことを聞くよ」
「その言葉、忘れんなよ」
海都は弓を構え、呼吸を整えて弦を引き、一矢を放つ。矢は凄い速さで真っ直ぐ飛び目標の真ん中を撃ち抜いた。すると、上空から光が降り注ぎ、一瞬で光が消えてしまった。
「今の光は何だ?」
「分からない……ちょっと様子を見てくる。ありがとな海都。助かったよ」
「あんなの余裕さ。約束忘れるなよ」
「分かってるって」
急いで神殿に戻ると柱があった場所に、赤く光る球体が浮いていた。共鳴を解いたアカガネが球体に近づいていく。
「アカガネ、近づいて平気か?」
『……』
何も答えないアカガネは球体に触れると、腹部に太陽な模様が浮かび上がり、激しい光を放った。
無事に3年目に迎えれました。これも読んでくれる皆様のおかげだと思います。
これからも頑張って行きますので、応援の方もよろしくお願いします!




