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第348話

 飛行して三十分ぐらいが経ち、マップが示している場所に到着した。地上を見下ろしても街はどこにもなかった。

 確か店員が洞窟の中にあるって言ってた気がするな。


「あ、あれかな?」


 辺りを見渡すと巨大な洞窟の入り口を見つけた。近づいて中を覗くと壁に松明が設置されていて、少しだけ道が整備されていた。


「ここで合っているっぽいな。フュン」


『お呼びでしょうか、主』


「フュン、明かりを頼む」


『畏まりました』


 仄かに光るフュンに先行してもらい洞窟の中を進んで行く。しばらく奥に進むと、巨大な石で出来た門が見えてくる。その門の両脇には武装したドワーフが立っていた。


「! 止まれ!」


 右に立っていたドワーフが武器を構えて警戒しだし、俺はフュンを戻して手を上げた。


「? なんだプレイヤーか。ビビらせるなよ。ここに来たってことは招待状は持ってんだろうな?」


「はい、これです」


  インベントリから招待状を取り出して渡すと、ドワーフは封を開けて中の手紙を読み始めた。


「ふむ。ミランダの招待状だな。門を開けろーー!」


 石の門が音を立てながらゆっくりと開いて行く。


「ようこそ、ドミニークキングダムへ」


 門が開くと白い煙が立ち込め、鉄を叩く音が聞こえてくる。それに、熱気が凄い。


「凄い煙ですね。全然先が見えない」


「ん? お前さん知らないのか? この街には沢山の温泉があるんだぜ」


 自慢気にドワーフが説明してくれた。


「温泉あるんですか! 俺でも入れます?」


「ああ。ちゃんと金さえ払えば誰でも入れるぜ。ほれ、門を早く閉めないといけないんだから、さっさと入れ。案内は必要か?」


「お願いします」


 門を潜り案内役のドワーフと一緒に石の道を進んでいくと煙が少し晴れ、石造りの家の景色が広がっていた。


「凄いなぁー……」


「どうだ? 凄いだろ! がはは!」


 ドワーフの人に街を案内をしてもらい街を散策をする。


「ここが、この街一番の酒場だ。有名なものから珍味の物まで幅広く取り扱っているぜ」


「へぇー、てことはここにサラマンダーの地酒も置いてあると?」


「あれを飲むのか? やめとけやめとけ。喉が焼けるぞ」


「俺は飲まないですよ。ちょっと寄りますね」


 酒場に入ると沢山のドワーフたちがどんちゃん騒ぎで飲み食いしていた。俺は人にぶつからないようにカウンターに向かった。


「お、プレイヤーかい。いらっしゃい。何ににする?」


「えっと、まだ未成年なんで飲めないんですけど、サラマンダーの地酒の在庫があったら買いたいんですけど」


「あの酒をか? 少し待ってくれ」


 そう言って店員は棚を漁り出して一本の瓶を俺の目の間に置いた。手を伸ばそうとしたら取り上げられてしまった。


「在庫はこの一本だ。タダでは渡せぇな」


「金ならあります」


「ちっちっ。金じゃあ売らないさ。これと同等の何かと交換だ」


 目の前のドワーフはにやにやした表情をしていた。


「同等な物? 具体例とか教えて頂けませんか?」


「具体例だぁ? そんなもんアダマンタイトかオリハルコン、ミスリルの魔鉱石だな」


「マジか……」


 内容を聞いてどれも伝説級の鉱石で苦笑を浮かべた。

 流石に手持ちにはないけど、クロガネに聞いてみるか。

 空いているテーブルを見つけてクロガネを呼び出した。


『とてもうるさい場所……こんなところで呼び出して私に何か用?』


 周りの視線を無視して俺はクロガネに尋ねた。


「こんなところで呼び出してごめんな。クロガネのスキルでさ、アダマンタイトとかオリハルコン、ミスリルの魔鉱石って作り出せる?」


『ハルナが持ってる希少度の高い素材を使えば可能よ』


 クロガネに言われてインベントリを確認。俺の手持ちで希少度が高いのは……オピオさんの依頼素材か。一つあればいいから百眼竜の邪眼が余っているな。

 俺はインベントリから取り出してクロガネ渡した。


「これで出来そう?」


『……まぁ見てて』


 クロガネは邪眼に触れると、邪眼の形がみるみるうちに姿が変わっていく。

 クロガネが進化した時に習得したスキル【錬金】は捧げた素材と同等の価値がある物に作ることが出来るスキルだ。


『……出来たわ』


 クロガネの目の前には黄みがかった橙色の延べ棒と濃い紫色の鉱石が並んでいた。

 一つはオリハルコンの延べ棒と、もう一つはミスリルの魔鉱石だった。


「「「おおお!!」」」


 様子を見守っていたドワーフたちが一斉に驚きの声を上げた。

 俺は素材を持ち上げて店員に言った。


「これでいいですか?」


「まさかプレイヤーに驚かされる日が来るなんてな。ああ、問題ねぇ代物だ。受け取りな!」


「え!? ちょっと!」


 店員が地酒を放り投げて来て俺は落とさないように受け止めた。あぶないな、もう……


「これはアタイの物だ! 誰にも渡さないよ!」


「少しで良いから分けてくれよ!」


「欲しければアタイを倒してみな!」


 素材を巡って酒場内で争奪戦が繰り始めてしまい、俺はクロガネを連れてそっと酒場を後にした。

 これでサラマンダーの地酒を手に入れたな。あとはあのドワーフに渡すだけだ。


『ハルナ、私の貯め込んでいた鉱石使った? 殆ど無くなっているんだけど』


「……」


 クロガネに黙っていたこと言われて足が止まり冷や汗をかく。クロガネは俺の事をじっと見つめてきて、耐え切れなかった俺はクロガネを地面に置き土下座をした。


「勝手に使ってすみませんでした!」


『……なに使ったのか教えて』


「怒んない……?」


『それはハルナの答え次第。早く言って』


「実は……」


 俺はクロガネに包み隠さずに全て伝えた。


『……なるほど。まぁ今回はアカガネに免じて許してあげる。次は無いから』


 そう言われて俺は胸を撫でおろした。


「うん、気を付ける。本当にごめんな」


『……反省しているなら、今度鉱石採取に手伝って』


「おう、お安い御用だ」


 ドワーフの街を後にした俺は急いで神殿に向かった。 


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