第347話
人通りを掻き分けてドワーフが経営している鍛冶屋が集まっている場所に着くが、案の定、通りまで人が溢れてかなり混んでいた。
「どこの店も混んでるな……どうしようかな……」
空いているお店が無いかしばらく散策していると、路地裏から話し声が聞こえてきて、列から少し離れ、木箱に隠れて様子を窺った。
「親父! どうにかしないと他の店に先越されちゃうよ!」
「そう言われてもな……周りは有名な人たちだ。儂の腕じゃ到底……」
「親父! 弱気になるなよ!」
なんか二人のドワーフが深刻な話をしている。ここは静かに離れよう。
「ん? そこにいる奴! 姿を見せろ!」
「……」
「さっさと出てこねぇなら、潰すぞ!」
巨大な槌を振りかざしてきて俺は姿を見せて手を上げた。
「なんだ。プレイヤーか……同族なら全力で潰せたのによ、残念」
「盗み聞きしてすみませんでした! それじゃ俺はこれで!」
「ちょっと待ちな」
一目散に逃げようとしたら肩をがって掴まれてしまった。
「一応聞くけど、他店のスパイではないんだよな? あぁ?」
顔近いし、圧がやばい……!
「ち、違います……!たまたま話し声が聞こえて、気になって覗き見しただけです。本当にすみませんでした!」
目の前のドワーフが満面の笑みを浮かべて手を離してくれた。
「悪いと思っているなら、アタイたちの依頼を受けて。アンタも他のプレイヤーと同じで依頼を受けに来たんだろう?」
「そうですけど……」
「なら、丁度いいじゃん。受けなよ」
「まだ何も内容とか聞いていないし、受けるとも言って……痛っ」
肩に手を置かれ、みしっと音が聞こえた。
「アンタに拒否権はないの。わかる?」
「は、はい……」
「分かればよし。なぁに難しい依頼じゃないから。その前に自己紹介だなアタイはミネルダで、親父のドアランだ。で、アンタは?」
「えっと、俺はハルナっていいます」
「よろしくな、ハルナ」
俺はドワーフのミネルダさんんと握手を交わした。
「早速だけど、依頼を伝えるよ」
「お願いします」
「アンタに頼みたいのは鉱石類の確保だ」
ミネルダさんから一枚の紙を渡され、目を通すと、数種類の鉱石の名前がずらりと書かれていた。
「結構あるんですね。そんなに鉱石が不足しているんですか?」
「アタイらがこの街に来た時にはもう、ほとんどの店に独占されてて故郷から持ってきた鉱石しか残ってないんだ」
「なるほど……」
「期限は設けないつもりだけど、急ぎで欲しいから一時間以内に持ってきてくれ」
「わかりました。それで報酬の件なんですけど……」
「報酬? そんなのお前の働き次第だ」
「えぇ……せめて具体的な内容を――」
「時間無いから早く行ってきな!」
聞いても教えてくれそうに無くて少しだけイラっとした。
「働き次第って言いましたよね? その言葉忘れないでくださいね!」
インベントリから取り出した鉱石を適当に地面に置いていくと、ミネルダさんとドアランさんは目を丸くした。
「な、なんだこの量は!? どうしてこんなに持っているんだ!?」
「仲間に鉱石を集めるのが居て持ってただけです。これで十分でしょ?」
「ああ……十分以上だ。これ全部を譲ってくれるんだな!」
「はい、大丈夫……だと思います」
「なんで歯切れが悪いんだ?」
「こっちの事情なんで気にしないでください。こちらの鉱石を譲るので報酬をください」
「ああ、最大級の報酬をやらないとだな、ちょっと待ってな。親父はこの鉱石を家に運んでくれ」
「この量をか!?」
それだけ言ってミネルダさんは店内に入って行った。
「俺も手伝いますよ」
「おお! ありがたい!」
インベントリに一旦鉱石を仕舞って店内に入り、ドアランさんに言われて作業台の上に置いて行く。
「待たせたな。これが報酬だ」
ミネルダさんから一枚の封筒を受け取ると、目の前で封筒は消えてマップが勝って開かれ、マップ上にドワーフの街の座標と道順が表示されていた。
「これって招待状?」
「ああ。アンタの働きは予想以上。相応の報酬と思ってこの招待状にしたのさ。同行出来るの一人までだからな」
「やった! ありがとうございます! これでサラマンダーの地酒が買える!」
「サラマンダーの地酒を探していたの? あれはプレイヤーが飲むものじゃない。喉が焼き切るぞ」
「街の外で出会ったドワーフに頼まれたんです。俺はまだ未成年なんで飲みませんよ」
「そうか。まぁ飲むときは気を付けろよ」
「だから、飲まないですって……それじゃ俺はこれで」
「ああ。気を付けていけよ」
俺は一礼したから店を後にした。街を出て白と赤の翅を展開して、マップに表示されている道を進んで行った。




