第338話
「勝者! トオル!」
「ざっとこんなもんよ!」
審判をしていたベオルさんの言葉が響き渡る。
「くっそー……あと少しだったんだけどな……悔しいからもう一回だ!」
「おう、いつでも掛かってこい!」
「待った」
やる気満々のアキさんがトオルさんの前に出る。
「良い面をしてんじゃねーか! ハルナ! 体力を回復してくれ!」
「え、俺? 他にヒーラーの方がいるんだけど……」
「そりゃお前の回復力が俺の知っているヒーラーの中じゃ一番だからだよ」
「……はい?」
ユリーナさんを見ると困った表情を浮かべる。
「うーん、ハルナ君の回復スキルを見せてくれる?」
ユリーナさんに言われて【治癒蜂兵】を呼び出してトオルさんの体力を回復させていく。
「……ハルナ君の【治癒蜂兵】は設置型?」
「違いますよ。俺だけだと最大五体まで出せて一人一人に付けれますし、シロガネが居れば最大数も増えて、指示があれば遠くにいる仲間にも派遣出来るかな」
「なるほど。回復量も回復速度も速いと……シロガネの性能がぶっ壊れているわね。あの日、あなたが助けた幼虫がこんなに強くなるなんてね。驚きだわ」
「色んな事がありましたから……」
クイーンビーのように強くなりたいって言っていたシロガネが、クイーンビー以上に強くなったのは感慨深いな。
そんなことを思っているとトオルさんの体力が全快になった。
「体力も回復したし、始めようぜ! えっと……」
「ナツキだ。クラン『黒白』の副リーダーさん」
決闘が始まり再び専用エリアが生成された。俺は溜息をついていると隣にアキさんが来た。
「アキさん、今日は来てくれてありがとうございます。それと、この前はすっげぇ助かりました」
「この前……あ、あれか。目的の物は見つかった?」
「はい。今はその攻略準備をしているところです」
「そうなんだ、見つかってよかったよ。お、ナツキが本気になったみたい」
そう言われ視線を戻すと、ナツキさんの刀が炎を纏った。地面からの蔦みたいのを操りながら炎を纏った刀で攻撃を繰り出す。
「なんか、ナツキさんの攻撃……早くなってません?」
「詳しいことは言えないけど、スキルで攻撃速度を上げてるよ」
「へぇー、そんなスキルがあるんだ」
「あ、俺から聞いたってことは内緒な」
トオルさんとナツキさんの戦いは激しさを増していく。突如、距離を取ったトオルさんは体から光を放ちカウンタースキルを発動させた。ナツキさんは居合の構えをすると、足元に花の模様のような陣が浮かび上がり、一気に刀を抜いて巨大な斬撃を放つ。二人の攻撃が衝突して専用エリアが激しい光に包まれ、二人は同時に場外に投げ出された。
「両者場外の為、引き分け!」
「あああ! くっそ……! もう一回だもう一回!」
「望むところだ!」
「ん? ちょい待ち……うげぇ……」
やる気満々だったトオルさんの眉根が寄っていく。
「これからだって言うのによ……はぁ……」
トオルさんは悲し表情をして溜息を吐いた。
「悪い……ディオガに呼び出された。ナツキ! 今度は決着がつくまでやろうぜ」
「次は俺が勝つ」
二人はフレンド交換をして、トオルさんは俺の方に顔を向けた。
「帰る前に面白い情報を一つ教えてやるよ。常夜エリアにボスモンスター級のモンスターが出現したらしいぜ」
「ボスモンスター級? ボスモンスターの眷族ってことですか?」
「自分の目で確かめろ。それじゃあな~」
トオルさんは転移をして拠点から去った。
「ボスモンスター級のモンスターか……」
常夜エリアで探しているモンスターはイービルアイドラゴンだけど、そいつの可能性があるなら見にいきたいけど。
「春名、俺も気になるから一緒に行かない?」
「行ってもいいけど、今行くと大分混雑していると思うぞ」
「挑むかどうかはその時に決めればいいさ」
「海都がそう言うなら。まぁ良いけど。他に行く人ー」
そう尋ねるとグレンさんとベオルさん、アキさんとナツキさんが手を上げる。
「ハルナ君、私たち女子メンは女子会をするから男子メンで行って来たら?」
「わかりました。それじゃウィルのことも……」
「ハルナさん、迷惑じゃなければいいんですけど僕をオピオさんの所に連れて行ってくれませんか……? 一人だけいるちょっと居心地が……」
「そう……だね、わかった」
一人だけ残って女子会に混ざりるのは嫌だよな。俺だって嫌だもん。
「グレンさんたちは先に常夜エリアに行っててください」
「ハルナが来るまでに情報を集めておく」
「早く来いよー」
颯音と海都、グレンさんとベオルさん、アキさんとナツキさんの六人は常夜エリアに転移する。
俺はアオガネを呼び出す。
「アオガネ、街まで頼むよ」
『う、うん……任せて……』
ウィルの手を取り、アオガネの背に乗って、街に向かって海中を猛スピードで進んだ。




