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第335話

 光が収束すると、そこには紺色の機械の瞳に、全身が金色の装甲に覆われた新しい姿のコガネが居た。

 俺の腰ぐらいの大きさに背中の中心には窪みがあり、そこから黒い線が足に伸びている。


「メカニカルスパイダーか……かっけぇじゃん、コガネ!」


 いくつもある進化先からコガネはメカニカルスパイダーを選んだよだ。


『ヒガネの事は任せて、ハルナはそっちに集中! ニア、交代!』


 コガネはヒガネを捕らえようと窪みから細い糸を放出したが、ヒガネの触れた瞬間に糸が霧散した。


『そのスキルはズルいって!』


 文句を言いながらもコガネはヒガネを抑えようと奮闘する。


『コガネ、頑張れ!』


『応援してないで始めるよ、ニア』


『はーい。ロンとの共鳴頑張るね!』


『ああ。準備は良いかい? 春名』


「いつでもいいぞ。二人とも共鳴だ」


 二体の体は光の粒子になり球体に吸い込まれ、黒い球体に白い蝶の模様と白い球体に黒い蝶の球体になる。二体が武器に吸い込まれると盾は、表面が黒で裏面が白の魔導書に変形した。


『この書に載っている魔術は全てが強力。そのせいで一度限りの制約が付いているんだ。本を開くんだ、ハルナ』


 本を開くとパラパラと本が勝手に捲れ止まった。


『そこに書いてある魔術を指で触れてみろ』


「サークルオブライフ……」


 魔術名を呟いて指でなぞると脳に直接詠唱文が流れてくる。


『さぁ、唱えるぞ』


「……大樹が生誕し、その大きな枝葉が広がり、地上と空を繋ぐ――」


 俺に気が付いたヒガネが禍々しい糸を飛ばしてくるもコガネが糸を操り防いでくれた。


「生命の循環がこの大樹に宿り、自然の摂理を司る力を得る――」


『捕まえたよヒガネ! ハルナ、もっと早く言えないの!』


 ヒガネを捕まえてコガネが覆い被さるように取り押さえた。


「この力は、呪縛に縛られた魂を解き放ち、自由に踊らせる。そして慈愛に満ちた大いなる力が、私たちの手に宿る」


 ヒガネから黒いオーラが解き放たれコガネが壁まで吹き飛ばされた。ヒガネは俺に目掛けて駆けてくる。


『やらせない……!』


 コガネは体を変形させてガッツリとヒガネを捕まえて地面に固定した。ヒガネは必死に抵抗しているせいでコガネの体力が減っていく。


「っ! この力で、闇を払い、光を照らし、世界を守り抜こう……!」


 魔導書が白と黒の輝きを放つ。


「【共鳴技・サークルオブライフ】!!」


 光が広がり空間を包み込み、地面に草が生え、色とりどりの花が咲き乱れた。


『ぎゃあああ!? 消えたくない! 消えたくな…………』


 光を浴びたヒガネから黒い靄が消えて、真っ黒な体が白くなった。急いで横たわるヒガネの元に向かった。


「コガネ! ヒガネは!」


『大丈夫、今は寝ているだけ』


「そ、そうか……」


 緊張の糸が切れ、俺は地面にへたり込んだ。


『ありがとうハルナ……』


 優しい目でヒガネを見つめるコガネはお礼を言われた。


「コガネに言われとなんかむずがゆいんだけど。まぁどうにかなってよかったよ。ニアとロンもお疲れさま」


『私はなんもしてないさ。それにしても、今の影響なのかヒガネの姿が変わったようだな』


「え……?」


 ヒガネを確認すると、デススパイダーだったヒガネはウロボロススパイダーになっていた。


「本当だ……ウロボロスって尾を飲み込む蛇だっけ?」


『そうだ。自らの尾を噛んで円を形作る蛇または竜の事を言う。円形は始めと終わりが一致すること。言い換えれば始めも終わりもないことから、完全、永遠、不滅の象徴――』


『ロン! ストップストップ!』


 ニアは早口に説明するロンを止めた。


『おっと、これはすまない……』


 ロンは咳払いをする。


『死を象徴するデススパイダーが私とニアの共鳴技によって再生、再構築されてウロボロススパイダーになったのかもしれないな』


「な、なるほど……」


『うぅ……ここ、は……』


 目を覚ましたヒガネが辺りをきょろきょろする。


『コガネ、なの……? 大分姿が変わったね……』


『うん、進化したんだよ。おかえりヒガネ』


 コガネはヒガネに頬ずりをした。ヒガネが落ち着いてから全ての出来事を伝えた。


『そんなことが……ごめん、なさい……』


 謝るヒガネの頭を撫でる。


「ヒガネが無事ならそれでいいさ」


 俺は立ち上がり埃を払った。


「ヒガネも進化したし帰ろっか。時間も時間だしな」


 時間を見るとそろそろ切り上げないといけない時間だった。


「あれ、拠点に転移が出来ない?」


『出口はこっちよ。案内するわ』


 進化したヒガネの後を追ってマザースパイダーの巣を脱出した。


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