第334話
汚染された湖の中は動きずらく視界がかなり悪い。それに、不純物が多いせいなのかアオガネのスキルが適用外だから息継ぎが出来ない。急いで終わらせないと。
『ヒガネ、時間がない。何をすればいいんだ……!』
『そのまま沈んで底まで行って』
『マジかよ……わかった……!』
湖の底に向けて泳いでいく。息がきつくなる頃に地面が見えた。
『今度は右腕を前に伸ばして、その方向に真っ直ぐ進んで』
『右腕を前に伸ばして……こっちだな』
言われた方に進んで行く。
『そこで止まって』
ヒガネは共鳴を解いて地面を探る。
『ヒガネ……! そろそろ息が持たない……!』
『あと……少し……見つけた!』
ヒガネが何かを作動させたのか凄い勢いで地面に吸い込まれ、気が付くと知らない空間に飛ばされていた。壁や天井に生えている光る苔が唯一の光源の薄暗い空間だ。
「ヒガネ、ここは何処なんだ……?」
『ここはマザースパイダーの巣よ。こっちよ』
俺はヒガネの後をついて行くことにした。
マザースパイダーの巣は複雑でいくつも分かれ道があるもの、ヒガネは迷うことなく道を進んで行く。しばらくすると、天井から光が差し込んで眩しくて、広い空間に辿り着いた。
『ようやく来たわね』
不気味でかすれたような声が聞こえてくる。
『さっさと成仏してればいいもの……』
ヒガネがボソッと呟くと目の前にマザースパイダーが現れる。武器を構えると。
『あれは幻影よ。なにも出来ないわ』
とヒガネが言う。マザースパイダーを見ると名前の横に【幻影】と付いていた。
『ここは私に任せて』
「……分かった」
俺は少し離れて見守ることにした。
『随分とお前の事を信用しているのね? 人間嫌いのお前が』
『昔のことよ……あんたと昔話をしに来た訳じゃないの。私に力を渡して』
『ふふふ……自らの手で大事なものを傷つけないか見物だわ……!』
黒い霧状になったマザースパイダーがヒガネに吸い込まれて激しい光が放たれた。光が収束すると、黒い靄を放ったヒガネがいた。見た目は変わらないのに何処か怖い印象を抱いた。
「ヒガネなのか……?」
そう尋ねると真っ赤な瞳と視線が合う。
『あやつの目を見てはだめだ!』
「ぐっ!!」
ロンの言葉で急いで目を逸らすも心臓を掴まれたような痛みを受け膝から崩れてしまった。
「はぁ……はぁ……なんだ、今の……!」
体力を見ると半分以下まで削れていた。
『目を閉じて耳を貸せ。デススパイダーに進化したヒガネは八割の確率で視線と合った者を即死させる能力を手に入れている。絶対に目を合わせるな。幸い、目を合わせて体力が半分残ったのは運がいい』
「ヒガネは……なんで、俺を攻撃したんだ……?」
『一種の暴走状態に陥っているようだな。早く止めなければヒガネの精神が壊れてしまう。時間が無い』
「どうすればいい……!」
『ハルナ! 上に盾を構えろ!』
盾を構えると重たい一撃が腕に伝わる。ロイの指示に従ってヒガネの攻撃を防いでいく。
『話が進まない! 私が抑えておくから話を進めて! 【黒幻蝶】!』
ニアがスキルを使うとヒガネからの攻撃が止んだ。
「ニアは大丈夫なんか?」
『球体と一体化していればヒガネのスキルは通じないようだから安心しろ。それよりも、話を戻すが私とニアで共鳴をして貰う』
「ニアとロンとで? 共鳴をすればヒガネが助けれるんだな……!」
『ただ、発動までに時間が掛かる。誰かヒガネを抑える者が必要だ』
『その役目は僕がやる』
特殊な革手袋が消えたのを感じて目を開けると、コガネは球体の一体化も解除していた。
『ようやく次の進化を決めたよ、ハルナ』
「……そうか、ようやく決心が付いたんだな。期待しているぞ、コガネ」
『任せて。ヒガネは僕の番で大事な仲間だ! 絶対に助ける!』
コガネから強烈な光が放たれ姿がみるみるうちに変わっていった。




