第326話
「春名、モンスターが俺たちに気づいたみたい」
上の方で徘徊しているモンスターが俺たちに気づいてどんどん増え始めた。
「分かってる。ルーシャさん、颯音。一気に抜ける……!」
俺たちは駆け抜けるために更に速度を上げた。
モンスターたちも俺たちに狙いを定めて遠距離攻撃をしてくる。
「散開して回避!」
飛んでくる攻撃を盾で弾きながら攻撃を躱していく。ヒスイとギンは壁を走って攻撃を躱していく。
「コガネ、手袋に変形してくれ。糸を張り巡らして二人のサポートをする」
『しょうがないな。【トランス】』
両手が特殊な革手袋に変わり、少し太くさせて丈夫な糸を張り巡らせた。
「足場ナイス! ルーシャさん!」
「わかってる!」
ヒスイの背から降りたルーシャさんは張り巡らせた糸の上を走り、武器を振るい鳥みたいなモンスターを倒す。颯音の元に戻ったヒスイとギン、それとコクヨウの三体で共鳴をしてモンスターを次々に倒していく。上手く足場を使ってくれているな。
攻撃の頻度が下がり盾から弓に武器を変形させる。
「ニア、手伝ってくれ」
『はーい、張り切っちゃうよー』
弓の空いている窪みニアが嵌ると、弓の形状が蝶をモチーフにした姿に変わる。弦を引くと黒い矢が生成された。溜まったソウルを半分消費させて矢を放つ。一本の矢は無数に分裂し、モンスターに命中していく。命中したモンスターが次々に仲間通しに攻撃し始めた。
「どうしたんだ、こいつら……」
「ニアの効果で混乱と幻惑のデバフを掛けている。全部を相手にするのは時間が掛かるから先を進もう」
「了解!」
先を進むとまた別のモンスターの群れが出現した。鳥系に蝙蝠……ゴースト系も出現してきたか。その中に虫系のモンスターもちらほら見かける。
「颯音、ルーシャさん。虫系モンスターがいるみたいだから、可能なら攻撃をしないで欲しい」
「えぇー……こんな乱戦になるのにそれは難しいって」
「私もハヤトと意見一緒」
「そう、だよな……すまん、無理な要求した。忘れてくれ」
「まぁあっちが攻撃してこなかったら考えておくよ」
「私も気を付ける」
「ありがとう二人共……行くぞ」
再び糸を張り巡らせ足場を作った。
二人が走り出して次々にモンスターと対峙していく。俺は遠くから二人の援護をして進んで行く。
蝶みたいなモンスターの攻撃が颯音を攻撃するのを見かけて粘着力を上げた糸でぐるぐる巻きにして手元にたぐり寄せた。
「サンキュー春名!」
お礼を言った颯音は駆けて出して行った。
『なんだこの糸は!? 取れないんだけど!』
ぐるぐる巻きにしたモンスターが藻掻いて糸を解こうとしている。サイキックパピオン……こいつの声が聞こえるってことは俺のスキルが適用されているから虫系のモンスターだよな。
「ビートル隊、二人のサポートに回ってくれ」
『『畏まりました。主!』』
共鳴を解いたアインたちは別れてサポートに向かった。よし、これで話せるな。
「なぁ、俺の言葉聞こえてるか?」
そう尋ねるとモンスターの動きが止まって俺の方に視線を向ける。
『俺の声……聞こえるの?』
「まぁね。って言ってもお前さんみたいな虫系だけなんだけど」
敵意が無いのを感じて糸を解くと、俺の周りと飛び回り始めた。
『なんか、お前……王様の気配がする』
「王様? もしかしてオベロンのこと?」
『え!? な、なんで王様の事知ってんの!?』
「まぁ色々とね。それに、オベロンの気配を感じるのこの指輪はだろ?」
指に嵌めていた蝶の装飾が付いた指輪を見せた。
『そ、それは! 王様の指輪! なんで人間のお前なんかが持ってんだよ!』
「託されたからだよ。その王様に」
モンスターは何度も指輪と俺の顔を交互に見る。
『そうか……お前が……』
モンスターは俺から離れると、体から紫色のオーラが発せられた。しばらくするとモンスターは俺の所に戻ってくる。
『あんまり時間は稼げないから急いで』
「っ! 分かった! ありがとう……」
俺は急いで二人の所に向かった。
「二人共、急いで向かうぞ」
「春名、またなんかした? また同士討ちしているっていうか、モンスターが俺たちを庇ってる?」
「これが終わったら話すよ。ルーシャさん、俺に掴まってください」
「う、うん」
「クモガネ、アカガネ。全力で行くぞ」
ルーシャさんを支え全力で飛んだ。最高スピードで飛んでいるの関わらず颯音は平気な顔で追いついてくる。
更に上に行くと翼が生えた巨人のモンスターが二体立ちはだかる。立ち止まっていると颯音が一体の巨人に一瞬で近づいてぶん殴った。
「春名、ここは俺とルーシャさんに任せて先に行け」
「こんな敵、楽勝だから先に行って」
俺から離れたルーシャさんは跳躍してもう一体の巨人と対峙した。二人が対峙している間に通り抜けた。
しばらくすると、今度は網目状の赤い線が迫ってくる。僅か隙間を見つけて通り抜ける。
『『痛っ!』』
突然、クモガネとアカガネが痛みだして止まる。二体の体力が削れていることに気がつく。翅を確認すると切断されている箇所を見つけた。
「ごめん二人とも。翅が触れてしまったみたいだ。気をつけて潜り抜けるよ」
『こんな傷、平気だから進んで』
『私も平気だから』
ギリギリで隙間を通って進んで行き、もうすぐで辿り着くところで潜り抜ける隙間もない赤い線が迫ってきた。
「こんなのどうすればいいんだ……」
――指輪を翳せ……
突然聞こえて来た声に従い、オベロンから託された指輪を翳すと赤い線の一部が消え、そこを通り抜けて、ようやく幹エリアを突破することが出来た。




