第310話
怪しい船の後を追っていると、別の船が接触してきて、内容までは分からなかったが海賊たちは船内で話し合っている様子が分かる。少しすると話が纏まったのか、透視が効かない箱を別の船に移動させて別々の方向に船は進んで行った。
「春名、あの船はほったらかしでいいのか?」
「今やったら警戒が強まるから一旦放置でいいさ」
しばらく追跡を続けていると、船の進路先に一つの島が見えてきた。船は桟橋に停泊すると、仲間の海賊が出迎え、船内にある物を次々に運び出していく。一番最後に運び出された例の箱は洞窟の中に運ばれた。
「外に十人前後で、アジトと思われる洞窟の中に二、三十か。外の奴らは颯音に任せていいか?」
「その数なら問題ないけど、もうちょっと戦いたいし、中にいる奴らも出てくるほどに暴れてやるよ」
「助かるよ。ウィル、アインを呼び出すから移動してくれ」
「はい」
アインを呼び出してウィルが移動すると、ヒスイとギンは颯音と一体化する。
「コクヨウ、行くぞ」
「ワフ!」
影から出てきた三体目の狼――コクヨウは一鳴きしてから共鳴をして、颯音は凄い速さで落下していく。轟音と共に砂煙が立ち込め、砂煙が晴れると、地面は陥没していて海賊が三人伸びていた。
「おらおら! かかってこいや!」
颯音は大声を上げてワザと挑発をしている。騒ぎを聞きつけたのか、アジトの中にいた海賊もぞろぞろ出てくる。上手く行っているようだな。
「颯音が海賊の注意を引き付けている間に侵入をしよう」
「わかりました」
少し離れた森の中に降りて、気づかれないようにアジトに侵入した。アジトの中は等間隔に松明が設置されていて、明るく入り組んでいた。目的の例の箱があるのはかなり奥の方だ。
ヒガネのおかげでアジト内の敵の配置と道を把握しているからエンカウントすることなく順調に進んでいると、怒鳴り声が聞こえて俺とウィルは物陰に隠れた。
「たった一人の侵入者に何を手間取っているんだ!」
派手な服装で小太りな男性――名前の横には海賊幹部って表記されている奴が下っ端の海賊の頭を掴み壁に叩きつけた。
「す……すいやせぇん……」
「使えねぇ下っ端どもが! 用心棒、侵入者はあんたと同じプレイヤーだ。払った金額の分働いてもらおうか」
用心棒と呼ばれた者はフードを被っていて素顔は見えないけどかなり高身長。背中には歪な形をした大鎌を背負っていた。頭の上には何にも表示されていない……本当にプレイヤーのようだな。
海賊幹部と用心棒、数人下っ端を引き連れて移動した。
「海賊に協力するプレイヤーもいるんですね……」
「敵対モンスターと仲良くしちゃダメってルールなんてないし、いてもおかしくないさ。大分遠くに行ったようだし先を急ごう」
しばらく進むと、堅牢な扉が見えてくる。扉の前には精鋭海賊が二人、扉を守っていた。
精鋭海賊の装備は下っ端海賊よりも揃っていて、一筋縄ではいかない気がする。
小声でウィルが聞いてくる。
「ハルナさん、どうします?」
「他に通れる道は無さそうだし、やるしかないか……ニア、あいつらに【幻惑の鱗粉】だ」
『はーい』
共鳴を解いたニアは翅を動かし、キラキラと反射している鱗粉を風にのせて飛ばす。鱗粉を受けた精鋭海賊は錯乱状態になって叫びながら走り去ってしまった。……どんな幻惑を見たんだか。
「て、敵もいなくなったし行こうか……」
「そ、そうですね……」
二人で堅牢な扉を押しても引いてもびくともしなかった。
「なにかしらのギミックを解かないと開かない感じか……」
「うーん、扉には仕掛けとか無さそう……」
「時間も無いし、ちょっと試してみるか。クロガネ」
俺はクロガネを呼び出した。
『……なにここ?』
「ここは海賊のアジトの中。クロガネ、扉の周りを掘れたり出来るか?」
『? ……調べてみるけど』
クロガネは壁に沿っててくてくと歩いて行く。
『扉の周りは掘れないけど、ここからなら。……これってズルじゃない?』
「扉の周りを掘って入るなってルール無いし、ギリセーフっしょ。よし、クロガネ共鳴だ」
『はぁ……』
クロガネは溜息を吐くも共鳴してくれて右腕に巨大なドリルを装着した。
「ウィル、少し離れててくれ」
そう言ってから音を立てて壁に穴を掘り始めた。この騒音に聞きつけて海賊たちが集まってくるからさっさと掘ろう。
クロガネの指示に従って掘っているとようやく扉の先の部屋に辿り着いた。天井から降りた俺とウィルは部屋に侵入。部屋の中には例の箱がポツリと置かれていた。
「さっきの音で海賊たちが来ちゃうからさっさと運び出そう」
「わかりました」
俺とウィルが箱に触れた瞬間、突然箱が輝きだした。眩しい光を手で隠して見守っていると、段々と光が弱くなると人の形になっていく。光が消えると青色の髪をした少女が横になっていて、あるはずの足がなく、代りに尾びれが付いている。
アップデートで追加された初めて見る人魚族の少女に俺とウィルは目を見開いた。




