第307話
次の日。昼食を食べてから先にログインした。
颯音と約束した時間より前にログインしたのはジェリーフィッシュの卵の孵化させるためだ。
ウィルの部屋の前に行きドアをノックしてから開けると、ウィルは剣を手入れしていた。
「おはようございます、ハルナさん。もう行きますか?」
「おはよう。颯音がまだ来てないからもう少し待ってくれ。それと兄ちゃんも行くことになったけど、兄ちゃんの事は俺に任せていいから、ウィルは自分のことに集中してくれ」
「わかりました」
「そんじゃジェリーフィッシュの卵を孵化させるからついてきて」
ウィルを連れて孵化装置が置かれている部屋に行く。
孵化装置の蓋を開け卵を置き、電源を起動させた。
「これでよし、あとは一時間……颯音が来る頃には産まれる筈だ。名前とか決めているのか?」
「一応決めてます」
「なんて名前?」
「うーん、今は秘密です。楽しみにしててください」
「えー。別に教えてくれてもいいじゃん~」
俺の小声が聞こえていないのかウィルは装置の中の卵に夢中のようだ。
「ウィル。外で待っているけどテイムのやり方はわかるか?」
「額に手を翳して名付けるんですよね?」
「おう。なんかあったら呼んでくれ」
そう言って拠点の外に出ると兄ちゃんがログインしてきた。
「兄ちゃん、来るの早くない?」
「ちょっと試したことがあってな。春名、暇なら手伝ってくれるか?」
「まぁ颯音が来るまでは暇だけど……何すんの?」
「海中に落ちた時でも剣をまともに扱えるか試したい。アオガネの力も借りたい」
「別にいいけど」
兄ちゃんと一緒に砂浜に向かう。
「あ、そうだ。兄ちゃんに一応渡しておくね」
そう言ってインベントリから水中呼吸機を兄ちゃんに渡す。
「これを咥えれば水中でも呼吸が出来るようになる機械なんだけど、なんかあったら使って。万が一……いや、億が一ないと思うけど」
「心配性だな。ありがとな」
アオガネを呼び出して兄ちゃんのレベルの近いモンスターが徘徊している場所に向かう。
拠点から離れたところで三匹で動いている口が銃口みたいになっているショットフィッシュを見つける。レベル9と兄ちゃんより低いけど、数がなぁ……
メッセージで兄ちゃんに聞くと「あれで良いと」返ってきた。まぁいつでもフォローできるようにしておこう。
アオガネから離れた兄ちゃんは剣を展開すると、それに反応してショットフィッシュが兄ちゃんに銃口を向けて一斉射撃した。
兄ちゃんは剣を三本飛ばして弾丸を迎撃。そのまま、三本の剣を使って一体を倒した。
仲間がやられて怒り状態になった二体のショットフィッシュは兄ちゃんを錯乱するために周りを高速で泳ぎ始めた。
兄ちゃんがどうするか見守っていると、四本の剣はさらに細かく分離しだして、全方位に放った。
致命傷にならなかったけど、大ダメージを受けたショットフィッシュの動きは遅くなって、最後の剣で止めを刺した。
素材を回収した兄ちゃんが俺の所にきて「浮上したい」とメッセージが来て、アオガネに掴まって浮上した。
アオガネの背中に乗って俺は尋ねた。
「水中でも問題無さそうだったけど、どうだった?」
「動き辛いけど、剣の操作はそこまで難しくなかった、かな」
「SPに余裕があるなら【潜水】ってスキルを取ると水中でも動きやすくなるよ。てか、最後のあれ何! びっくりしたんだけど!」
「あれは【崩剣】って言うスキルで、剣を細かく分離させて拡散させるスキルだ。一体目を倒した時にレベルが上がって取得したんだ」
「器用なことをするな……まぁ兄ちゃんだしな」
「そろそろ戻ろうか。戻る頃には丁度いい時間だろう」
「了解。アオガネ、拠点に戻ろう」
アオガネは頷いて拠点に戻った。拠点に近づき浮上すると、砂浜でウィルが手を振っていた。その傍らには水色の海月が浮遊していた。
走ってきたウィルは嬉しそうに言う。
「ハルナさん、無事に産まれました! 見てください!」
そう言うと海月は一回転した。
「おお、可愛いな。それで、こいつの名前は?」
「ミカヅキ。あの日の夜から考えた名前です」
「へぇ~、いいじゃん。ちゃんと面倒を見るんだぞ」
そんなことを話していると家の近くにログインした颯音の姿は見えた。俺たちを見つけた颯音がこっちに向かって走ってきた。
「お待たせ! 一番乗りだと思っていたけど来るの早いな春名。あれ? 海月のモンスター?」
「それはウィルのテイムしたモンスターだ。ミカヅキって名前」
「おお、ちっちゃくて可愛いな、こいつ」
つんつんとミカヅキを突っついていた颯音に俺は伝えた。
「颯音、アオガネの背中を見てみ」
「背中? ……え?」
視線をアオガネの背中に向けた颯音は動きが止まって、目を擦り始めた。
「あれれ? おかしいぞ? なんか冬真兄にそっくりに人が居るんだけど……?」
「そっくりていうか兄ちゃん本人なんだけどな」
「ええええええええ!?」
近くで叫ばれて俺は耳を塞いだ。




