第306話
『ハルナ、もう少しで拠点に着くぞ!』
『了解、浮上してくれアオガネ』
アオガネはスピードを緩め海面に浮上した。
兄ちゃんの方を見ると少しぐったりしていた。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ……少し酔っただけだ……ジェットコースター並みの速度なのによく平気でいられるな、春名」
「んー……慣れ、かなぁ? 絶叫系はそこまで苦手じゃないからそれもあるかも。それよりももうすぐ拠点に着くよ」
「わかった」
砂浜に到着したらアオガネから降りる。
『ハ、ハルナ……と、遠くまで行かないから、お、泳いでていい……?』
「おう。拠点にいるからなんかあったら念話飛ばして」
アオガネは頷いてから海中に潜った。他のみんなも呼び出しておこう。
周囲にコガネたちを呼び出すと、兄ちゃんは口を開けて驚いていて、俺は笑いを堪える。
「……笑うなよ」
「ごめんごめん。兄ちゃんのそんな顔あんま見たことないからさ、つい」
兄ちゃんは軽く溜息をついた。
「改めて紹介するね。俺の自慢の仲間たち!」
コガネたちが一斉に兄ちゃんに視線を向けた。
『この人誰? 新しい人?』
『ハルナの大切な人だって』
『『『ふーん』』』
クモガネの言葉を聞いてかコガネたちは興味津々に兄ちゃんの周りに集まった。
コガネとヒガネは背中をよじ登り、シロガネは兄ちゃんの顔を観察している。クロガネは兄ちゃんの足を顎で挟んで、クモガネとアカガネは遠くからみんな様子をみていた。
今度はビートル隊が兄ちゃんの周りを飛び回り、去ってからニアが肩に止まっって、ディルたちはそれを見守っていた。
飽きたのかコガネたちは拠点のあちこちに移動していくけど、ニアは兄ちゃんの肩に止まったままだ。
「お疲れ、兄ちゃん……大丈夫?」
「あんなに虫が集まってきたらトラウマもんだろうが。で、なんでこいつは俺から離れないんだ?」
「ニア、こっちにおいで」
そう呼びかけるとニアは兄ちゃんから離れなかった。
『もう少し居てもいい?』
「兄ちゃん、ニアがもう少し居たいって」
「はぁ? なんで?」
「さぁ? まぁ飽きたら勝手に飛んでいくと思うよ。皆のことも紹介出来たし拠点を案内するよ」
兄ちゃんを連れて拠点に向かう。
「均等に植えられいる木に、色とりどりに咲いている花壇。なんか洞窟の入り口?みたいなものがあるし、統一感がないな」
「コガネたちが欲しいのを建てているだけだからね、仕方ないよ」
家に入るとまだ寝ていなかったウィルが出迎えてくれた。
「おかえりなさいハルナさん」
「ただいま。まだ起きてたんだな」
「こんな時間にお客さんですか?」
「お客さんって言うか、新しいクランメンバーで俺の兄ちゃん」
「ハルナさんのお兄さん!」
ウィルは兄ちゃんの前に行く。
「初めまして、ウィルって言います」
「冬真だ。よろしく頼む」
「トーマさんですね。こちらこそよろしくお願いします」
二人は握手を交わした。
「それじゃ僕は寝ますね。おやすみなさいハルナさん」
「おやすみ~」
一礼してからウィルは自室に向かった。
「なんか、撫でたくなるような子だな。ていうか、NPC……だよな?」
「ちょっと訳ありでね。ウィルの故郷が見つかるまで預かっているんだ。適当に座って」
兄ちゃんをソファに座らせてから冷蔵庫にある洋菓子を持って兄ちゃんに渡した。
「……美味いな」
「でしょ? 俺もたーべよっと」
苺のショートケーキを一口食べる。うん、美味い。蒼さんのとこといい勝負な気がする。
その後、兄ちゃんと色んな事を話して時間を過ごす。時々、コガネたちが乱入してきて大変だったけど。
「もう遅いし俺はログアウトするよ」
「あ、本当だ。もう零時前か。明日は予定あるし俺も落ちよ」
「明日出掛けるのか?」
「颯音とウィルと一緒に島探し。兄ちゃんも来る?」
「仕事もないから、行こうかな。広大な海を見てみたいし」
「マジ? やった! あ、でも……兄ちゃんのレベルだとキツイかも……まぁなんかあっても俺が守るよ」
「カッコいいこと言うじゃん。じゃあ先に落ちるよ」
「わかった」
兄ちゃんがログアウトした後、コガネ達を戻して俺もログアウトして眠りに就いた。




