第305話
「春名、そろそろ地上に降ろしてくれ」
「わかった。街の近くに降りるね」
人が居ないのを確認してからゆっくりと地上に下降。兄ちゃんを降ろすと、クモガネが共鳴を解いて頭をすりすりしてくる。
「随分とお前に懐いているんだな」
「まぁね」
頭を撫でると嬉しいそうな表情をするクモガネ。可愛いな。
『ハルナ、この人誰? 初めて見るけど雰囲気はハルナに似ているけど……』
「雰囲気が似てる? そんなこと言われたの初めてだ。クモガネ、この人は俺の兄ちゃん」
『兄ちゃん? 兄ちゃんって何?』
「うーん、なんて言えばいいのかな……大切な人ってことかな」
『ふーん』
クモガネは兄ちゃんの周りを飛び回り観察しているようだ。
「これは……何をしているんだ?」
「さぁ? あ、兄ちゃん。触ったら一瞬で手が凍ってダメージ喰らっちゃうからクモガネには触らない方がいいよ」
手を伸ばしていた兄ちゃんは手を引っ込めた。クモガネは満足したのか俺の元に戻ってくる。
『ハルナ、僕もそろそろ戻りたい』
「え、あ、うん。わかった。ありがとなクモガネ」
俺はクモガネを戻した。
「兄ちゃん、これからどうする? 兄ちゃんさえ良ければクランに誘いたいけど……」
「クラン? 他のゲームで言うギルドみたいなもん?」
「そんな感じ。俺と颯音、海都と雫恩。あとはルーシャさんとモレルさんの計六名なんだけど」
「別に入ってもいいけど、あんまりゲームをしないと思うぞ?」
「それでもいいよ。……兄ちゃんのレベルが低くってクランに誘えない……兄ちゃん、レベル上げをしよ! 丁度あそこにレベル2のスライムがいるよ!」
「暗いのに良く見えるな。どこに居んだ?」
「スキルのおかげ。今照らすね【ライト】」
フュンの小さい光の玉を作るスキルを使ってスライムがいる場所を照らした。
「あそこだな。【展開】」
剣を構えると、刀身が四本に分離し浮遊した。兄ちゃんは柄をスライムの方に向けると飛翔していき切り倒した。
「何その剣! めちゃくちゃカッコいいんだけど!」
「分離剣って言う武器。一本の剣が小さく四本に分離して自由自在に操って攻撃する剣だ。まぁその分一本一本の耐久力は低いのがネックだけど。今は四本だけどスキルのレベルを上げれば分離できる数が増やせる」
「へぇ~そんな剣があるんだ。戦闘も大丈夫そうだし、サクサクレベル上げ行こう!」
「はいはい」
そこから一時間ぐらいレベル上げを行い、レベル10になると勧誘出来るようになった。
兄ちゃんは他のスキルは取らず、全てのSPを【展開】のスキルに割り振って最大八本まで増やした。
「よし、これで兄ちゃんもクランの一員だね。これで拠点に転移出来るようになったけど、海原エリアの街を紹介したいから一旦街に戻ろう」
「わかったよ」
街に戻った俺たちは中心部にある転移を潜り海原エリアに転移した。
「ここが海原エリアか……街の周りは海で囲まれているんだな」
「この街は三層に別れていて、上層は広場みたいな場所、中層はNPCの居住区とプレイヤーのお店が並んでる商業区があって、下層は組合所や倉庫、停泊場があるんだ」
「ゆっくり見て回りたいな」
「下層に行くついでに案内をするよ」
兄ちゃんにNPCの居住区を案内してから、商業区に移動。一通り案内してルーシャさんの店の前に行く。
「もう閉店しちゃっているけど、ここがクランメンバーのルーシャさんのお店。モレルさんも一緒に働いてるよ」
「へぇー、本格的だな」
「お店で販売している洋菓子はどれも美味いからお勧め。拠点の冷蔵庫にまだあったと思うから後で食べてみて」
「わかった」
「中層は大体案内したから、今度は下層だね。その後は拠点かな」
通路を下り、下層に向かう。そのまま、組合所の前まで行く。
「この建物が組合所。手に入れた素材やアイテムとかを買い取ってくれたり、ジョブチェンジする時の手続きをしたりと色々なことをする場所。各エリアの街にある」
「なるほど」
「で、こっちが停泊場」
桟橋を通り船がない所に行きアオガネを呼び出した。
「アオガネ、拠点まで頼む」
『わ、わかった……』
目を見開いて驚いている兄ちゃんにアオガネはペコっと頭を下げ、兄ちゃんもお辞儀して返した。
兄ちゃんの手を引いてアオガネの背中に飛び乗った。
「……こんな巨大なムカデもテイムしたんだな」
「最初は小さかったけど、進化してここまで巨大になったんだよ。アオガネ、頼む」
『う、うん……!』
ゆっくりとアオガネは動き出して水門の方に向かい、手前に着くと水門はゆっくりと開いた。
「兄ちゃん、これから潜るんだけど、水中でも呼吸が出来るから安心して」
「そうなのか? わかった」
アオガネは海中に潜り……
『飛ばすぜ!』
性格が変わったアオガネは猛スピードで海中を進んで行く。




