第304話
「ただいま~」
玄関を開けるとリビングの明かりが付いていた。
荷物を置いてからリビングに行くと誰も居なかった。
……兄ちゃんの靴もあったし、部屋かな?
「兄ちゃん、開けるよ」
ドアをノックしてから開けると、部屋の明かりを付けてベッドで寝ていた。
俺は軽く溜息をついてから、近くにある毛布を掛け、部屋の電気を消して、静かに部屋を出た。
遅めの夕飯を食べていると、兄ちゃんの部屋のドアが開いた。
「兄ちゃん、おはよう~。飯食べる?」
「……いらない」
兄ちゃんは電気ケトルに水を入れて湯を沸かし始める。その後、俺の前に座った。
「いつ頃、帰ったんだ?」
「んーさっき帰ったばっかりだけど、兄ちゃんは何時に帰ったの?」
「昼頃だったかな。朝には帰るつもりだったけど、つい飲み過ぎた……」
「兄ちゃんが羽目を外すのって珍しいね。あんまり無茶な飲み方しないでよ」
「悪い……」
カチャっと電気ケトルの音が鳴り、兄ちゃんはコップにお湯を注ぎコーヒーを作った。
「頭痛とかある?」
「ん? 薬はもう飲んでいるから二日酔いはない。それよりも春名、この後時間はあるか?」
「この後? 一応あるけど……」
「樹海エリアの噴水広場に集合な」
兄ちゃんはそれだけ言って部屋に戻っていった。
「……え? マジ?」
兄ちゃんの部屋に行くと、机の上にはヘッドギアがあった。
「何してんだよ、早く準備しろよな」
「あ、うん!」
俺は部屋に戻りヘッドギアを付けてログイン。拠点の自室から樹海エリアに転移して。急いで噴水広場に向かった。
「ハルナ〜!」
名前を呼ばれ声がする方を見ると、軽装姿のヴェルガだった。
「ヴェルガ! 久しぶり!」
「久しぶりだね。そう言えば、この前のイベントの映像を見たよ。かっこよかった」
「ヴェルガも見てたの? なんか恥ずかしいな……ありがとなヴェルガ。今日は休みなの?」
「久しぶりの休み。ハルナに追いつきたくてレベル上げの帰り。今度一緒にレベル上げとかどう?」
「お、行く行く。次の休みいつなの?」
「次は……明後日だったかな」
「明後日だと木曜か。特に予定は入れてないからその日にしよう。昼ぐらいにヴェルガん家に集合でいい?」
「わかった。楽しみしているよ」
「そんじゃ行くわ。またなヴェルガ」
ヴェルガと別れて噴水広場に急いで向かった。
噴水広場は人が沢山居て兄ちゃんを見つけれない。特徴を聞いておけばよかったな……
「あの! 虫使いのハルナさんですよね!」
後ろから声を掛けら振り向くと、俺よりも背が少し低くて、初期装備の男女四人組のグループだった。
その中の赤髪の元気そうな男性が話し出す。
「俺、ハルナさんの動画を見て、このゲームを始めたんです!」
「動画? なんのこと?」
「え、知らないんですか? あのイベント全世界に配信されてて、ハルナさんとトオルさんのバトルシーンの切り抜きがあって……」
「ちょっと! 一人で話し過ぎ! あの! サインください!」
黒髪長髪の女性の人が顔を寄せてサインを求めてくる。
「俺も欲しい!」
「ちょっ、私が先だって!」
「えっと……」
俺が困惑していると突然肩を組まれてビクッとなる。
「悪いけど、あんまり弟を困らせないでくれるかな?」
少し威圧感のある物言いで場が静かになった。
「春名、この場から離れるのが良い」
「そう、だね。クモガネ」
クモガネを呼び出すと辺りの温度が一気に冷えた。
「クモガネ、飛んで逃げるぞ」
『僕一人なんだ。任せて』
クモガネと共鳴をして雪の結晶の模様がある白い翅を展開。胸辺りに腕を回して兄ちゃんを持ち上げて街を飛び去った。
しばらく飛行すると兄ちゃんが聞いてくる。
「さっきのモンスターはお前の仲間なのか?」
「あ、うん。クモガネって言って氷属性の蛾なんだけど」
「寝言で言っていたコガネはいないのか?」
「寝言の事は忘れてよ……呼び出せば会えるけど、会ってみる?」
「この夜景を見ていたいからあとで会わせてくれ」
「わかった」
兄ちゃんと一緒に樹海エリアの夜景を満喫した。




