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第302話

「この度は息子を助けて頂きありがとうございました。息子が攫われてから妻は体調を崩してしまい、私も仕事に身が入らず……」


「この御恩は一生忘れません。なにかお礼をさせて下さい!」


 俺とウィルは顔を見合わせた。


「お礼と言われても……偶然遭遇しただけだしな」


「あ、それなら一つだけ」


 ウィルは言葉を続ける。


「僕みたいな獣人が居る場所を知っていたら教えて欲しいです」


 ウィルの頼みを聞いた両親は困惑した表情をする。


「すみません……獣人族の情報は今はありません。時間を頂ければ知人に聞き回ってきます。分かり次第組合所に連絡します」


「あの、これだけですとまだ見合っていないと思いますし、他にございませんか?」


 奥さんの言葉にウィルは首を横に振った。


「ありません。僕の望みは故郷に帰ることなので他はいりません。全然急いでないのでなにかわかりましたら連絡をお願いします」


 ウィルは席を立ち上がり椅子に座っている少年の所に向かった。


「そろそろ僕たちは帰るよ」


「もう帰っちゃっうの? また会える?」


「会えるよ、きっと」


 ウィルは少年の頭を撫でてから外に出た。


「えっと、お邪魔しました」


 直ぐに俺と颯音はウィルの後を追った。

 外に出ると、明かりが消えていた家や道の横にある松明などが点けられていた。

 ……俺たちを警戒して明かりを消していたみたいだな。まぁ誘拐事件もあったし警戒するよな。

 無言のまま船を停泊させている場所まで歩いているとウィルが口を開く。


「ハルナさん、ハヤトさん。今日はありがとうございました。もう遅いですし帰りましょう」


「……了解。続きはまた別の日だな。夜だとまた警戒される可能性あるし昼間にするか」


「そうなると夏休み期間中にしないとだな。春名、バイトいつあんの?」


「明日の午後と土曜の午前」


「水曜は予定空いてる? 水曜なら俺も暇だし」


「今のところ予定はないけど」


「じゃあ水曜で決まりだな。よし、拠点に戻るか。おっ先~」


 颯音は俺たちを押して駆け出した。


「おい、待てよ!」


「待ってくださいよ、二人共とも!」


 月明かりが照らす道を走り抜き、船に乗り、同じくらいの時間を掛けて拠点に戻ってそのままログアウトした。

 次の日。朝飯食べ終えた颯音は帰宅。バイトの時間まで家の掃除をして家を出た。

 バイトの先の裏口から入りスタッフルームに行くと、店長の蒼さんが居た。


「お疲れ様です。蒼さん」


「お疲れ。今日平日だからそこまで忙しくないと思うけど、困ったことがあったら遠慮なく聞いてね」


「わかりました」


 制服に着替えて仕事を始める。蒼さんの言った通り前回よりかは店内は忙しくなかった。


「いらっしゃいま……せ……」


 自動ドアが開き来店されたお客を見て俺は嫌な顔をした。


「春名、遊びに来ちゃった」


 颯音と海都、それに雫恩の三人が来店した。


「……帰れよ。てか、どういう集まり?」


「俺と雫恩は元々ここに来る予定だったけど、来る途中で偶然会った颯音にここで春名がバイトしているって聞いて別の日にしようか雫恩と話していたらさ、颯音が「春名を茶化しにいこうぜ」って言って」


 視線を向けると颯音は視線を逸らした。


「あ、いや……春名がちゃんとバイトしてるかなぁ~と思って……あはは……」


 俺は溜息をついた。


「こちらにどうぞ」 


「え、いいの……?」


「騒いだら追い出すからな?」


 颯音に釘を刺してから席に案内をした。


「注文決まったらそのボタン押して。ごゆっくり」


 俺はそう言ってバックに戻ると、フロア担当の黒崎さんが尋ねてくる。


「春名君、あの席の人達は親しそうに話してけど学校の友達?」


「まぁ、はい、友人です」


「何かと仕事しづらいと思うし俺が行こうか?」


「あ、いや。大丈夫です。ご気遣いありがとうございます黒崎さん。あ、お客さん来たみたいなんで俺行きます」


 バックを出て入り口に向かった。


「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」


「もう一人、来るんですけど……あ、来た来た!」


 自動ドアが開き来店されたお客を見て俺は目を見開いた


「ごめん、遅れちゃった……あれ? ハルナだ。今日バイトだったんだ」


「ル、ルーシャさん……?」


「ええ!? この店員さんがハルナ君! 物凄くびっくりなんだけど!」


「え、てことは……モレルさん……?」


「リアルでは初めましてだね、ハルナ君!」



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