第299話
「ハァ……ハァ……うぐっ……」
テオクエの副作用の疲労感に襲われ膝から崩れ落ちそうになると六本のアームが勝手に動きだして支えてくれた。
「さ、サンキューな、コガネ……」
『戦いはまだ終わってないから、まだ寝ないでねハルナ』
重たい瞼を開き、崖上で待機していた黒の制服の人たちが武器を構えていた。
「そう、言われても……指、一本も動かない……」
「ハルナ君っ!」
遠くで離れて見守っていたモレルさんが駆けてきて俺を支えた。
「ハルナ君、どうしたの! 怪我したの!?」
「だ、大丈夫です……ただ……眠い、だけ……」
『だから寝ちゃダメだって!』
共鳴を解いたコガネが俺の腕に噛み付いてくれるも眠気が増していく。
「弱っている今がチャンスだ! 副団長の敵討ちだ!」
一人が合図を出すと次々と動き出した。
共鳴を解いたクモガネが俺たちの前に出た。
『ハルナには指一本触れさせない!』
クモガネが翅を広げるといくつもの氷の槍が現れ迎撃していく。
『ビートル隊も加勢するぞ!』
『『『おう!!』』』
ビートル隊の六体もクモガネの援護に行く。
『アイン、二人を乗せて拠点近くまで運んで』
『お任せ――』
『コ、コガネ……! ぼ、僕が運ぶ……!』
『アオガネが? うーん、時間ないし任せるよ』
アオガネも共鳴を解いて、本来の大きさより半分ぐらいの大きさの姿になる。
「……乗せてくれるんだね、ありがとう。ハルナ君動ける?」
俺は頭を横に振ると、コガネが溜息をついてから糸で持ち上げ、アオガネの背中に乗せてくれると、糸でぐるぐる巻きにされしっかり固定された。
『出発してアオガネ』
『う、うん……!』
クモガネとビートル隊が時間稼ぎの壁を作ってから戻ってくると、アオガネの輪郭が光り出す。
「え……うそ……アオガネ! 早く出発――」
モレルさんの声が途切れ、一瞬息が出来なくなると、頭を泡で包まれ息が出来るようになった。
凄い速さで泳ぐアオガネの姿を眺めているうちに眠気に抗えず意識が途切れた。
「ん…………あれ? 俺の部屋?」
目が覚めると俺は自分の部屋に居た。外は明るく近くにあったスマホを見ると朝の十時だった。
廊下の向こうから話し声が聞こえてきて、部屋を出てリビングに向かう。
リビングではノートを広げている颯音とノーパソを開いている兄ちゃんが話していた。
「でさ、すっげぇ大変だったんだ……あ、春名! ようやく起きた! はよう~」
「お、はよ……ってなんで居るんだよ……」
「話は飯を食ってからだ。少し待ってろ。飲み物は何がいい?」
「え、それじゃココア」
席に座って待っていると兄ちゃんが料理を運んでくれて朝食を食べる。
食べ終わって颯音を連れて自室に戻った。
「そんじゃ、俺が意識を失った後の話しを聞かせてくれ」
「おう。トオルさんにやられてリスポーンしたあと……」
颯音が詳しく話してくれた。轟音と共に大量の水が樹木をなぎ倒しながら森に流れてきて。上空に避難していた颯音たちがアオガネの背に乗った俺とモレルさんを見つけると、アオガネの姿が急に消え、俺とモレルさんが流されているところを颯音とルーシャさんが引き上げてくれたそうだ。
「その後、水が引いて拠点でフラッグと一切起きない春名の防衛になったんだよ。すっげぇ大変だったんだからな。なんで起きなかったんだよ?」
「あはは……共鳴の副作用でな、かなりの疲労感が一気に来て動けなかった。まぁその代わりトオルさんは倒せたけど」
「トオルさんを倒したの!? やるじゃん春名! てことは、トオルさんを倒した春名に勝てば実質的に俺がトップになるな……」
「なるわけないだろうが」
「いたっ」
俺は軽く颯音の頭にチョップをした。
「それで、イベントはどうなったんだ?」
「うちは失点はしなかったから、春名とモレルさんが奪ってきたフラッグを合わせてうちの合計点は六点。イベントの順位は五位だったよ。少人数のクランだとトップって表彰式で言われたよ、運営に」
「五位か……ちなみに一位は?」
「一位はトオルさんのところ。十五点だったかな? 人数が多いと分散してフラッグを奪えに行けるからいいよなぁ」
「まぁそこはどうしようもないさ」
「五位も悪くないけど、やっぱ一位取りたかったな~。次のイベントは絶対一位を取ろうぜ!」
「そうだな。次は一位だな」
俺とは颯音は拳を交わした。
「あ、そうだ。なんで俺、ログアウトしてたんだ? ゲームないで寝たとしてもログアウトされないのに、気を失うとログアウトされる仕様なの?」
「違う違う。イベントが終わった後、緊急メンテの通知があってと全員強制ログアウトになったんだよ。で、冬真兄に連絡を入れてヘッドギアを外してもらったんだよ」
「緊急メンテなんてあったんだ……まだメンテ中なのか?」
「昼の五時までだって。だから、その間、課題を手伝って? なんつ――」
「別にいいぞ」
「え、いいの!? 自分でやれって言われると思っていた」
「今回迷惑を掛けちゃったからさ。まぁ手伝うからにはメンテまでには全て終わらせるけど」
「ま、マジで言ってます……?」
「俺が冗談で言う訳ないじゃん、ほら始めるぞ」
「はい……」
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