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第293話

「ヒーローは遅れてやってくる! なんてな」


「ヒーローって……突き落とししただけだろう。おかえり」


「ただいま!」


 俺は颯音とハイタッチをした。


「ナイスタイミングで戻ってきたな。一緒に行っていたルーシャさんは?」


「ある程度フラッグを回収してな。ルーシャさんと話し合って戻ることにしたんよ。ルーシャさんならモレルさんと雫恩の所に行ってるよ」


 颯音は奪ってきたフラッグを二本ずつ両手に持って見せてくる。


「フラッグを四本か。大分荒らしたな」


「一本奪っては取り返しにくるクランを他のクランにぶつけて、その隙に別のフラッグを奪ったりで楽しかった」


「へぇー、ちゃんと考えてたんだ。颯音の事だから敵をなぎ倒してからフラッグを奪うと思ってたから意外」


「……最初はそのつもりだったけどルーシャさんに止められて……だから戦い足りない!」


 颯音の発言に苦笑しつつ、俺は提案した。


「下に落ちて行ったトオルさんと戦ってくればいいさ」


「え、でも、あの人春名とやりたいって言ってるし……」


「俺の分まで遠慮なく戦ってきてくれ。やる気ない奴と戦うよりやる気ある方がいいと思うんだ。そうだろ海都?」


「俺に話を振るな。……そうなんじゃないか? 知らんけど」


「んーそれもそうだな」


 颯音から四本のフラッグを投げ渡された。


「よっと。ひっでぇ事をしてくれるんな、たくよ……」


 声が聞こえた方を見ると、頭をボリボリと掻いているトオルさんの姿がそこにはあった。


「簡単にやられてくれませんか……」


「トオルさん! 俺とサシで勝負しませんか!」


「お前と? 今はこいつとやりたい気分なんだが……」


「俺に負けるのが怖いんですか?」


「……煽ってくんじゃん。お前から先に倒してやるよ。その次に春名! お前だからな! 着いて来い」


 トオルさんは【空艇蜂兵】から飛び降りて、そのあとを颯音が追いかけた。

 トオルさんと戦いたくないから颯音には勝って欲しいけど。


「春名、悪い知らせ聞くか?」


「聞きたくないけど聞こう」


「あの人のせいかも知れないけど、こっち向かってくる反応が複数。速度は遅いけど時間の問題だ」


「あんな派手な人が上空でなんかしてたら周りにバレるよな。お、フラッグ消えた」


 手元にあったフラッグが急に消えポイントを確認すると、颯音が奪ってきたフラッグ分が加算されていた。

 拠点の範囲が実は上空も含んでいたのは予想外だったな。

 まぁそのおかげで俺たちのフラッグは今の所超安全なところに隠しているけども。


「これで四ポイントだな。今のところ順位はどんぐらいなんだろうな」


「イベントの時間も残り五、六時間。上位には入っていればいい方」


 俺はウインドウ画面の時間を確認することにした。


「もう夕方の五時か……ゲームしているとあっという間に時間が過ぎるな」


 そんなことを思っていると、モレルさんとルーシャさん、雫恩の三人が【空艇蜂兵】に転移してきた。

 雫恩の援護に行ってもらっていたフィーアとフュン、ゼクスの三体が俺の周り集まってくる。


「援護ご苦労様、ゆっくり休んでくれ」


 俺は三体を一旦戻すことにした。

 床にへたり込む雫恩に海都が駆け寄った。

 俺の隣にモレルさんが来る。


「大体は倒したけど、数が多くなったから避難しちゃった。この後のことなんかでも作戦あるの?」


「ここの場所もバレたみたいなんでどっかに避難しようか考えてはいるけど、見つからないと思うけどフラッグを無防備にしておくのも危ないし」


「全員で守る?」


 ルーシャさんの提案に俺は首を横に振った。


「守りと攻めで別れましょう」


 ルーシャさんが最初に意見を言う。


「さっき行ったから、私は防衛に回る。モレルはどうする?」


「私? うーん、それじゃ私は攻め込もうかな」


「海都と雫恩は?」


「私は……」


「雫恩は俺とここでの防衛だ」


「そう、ですね……少し疲れてしまったので私も防衛に回りますわ」


「て、ことで春名は攻め込んで行け。ここは俺たちに任せろ」


「俺も防衛に回る予定だったけどわかったよ。ここの防衛は任せた。そんじゃ、こっちに来てるプレイヤーを誘導しておくよ」


 俺は赤と白の翅を展開した。


「ハルナ君、私のこと背負って飛べる?」


「問題ないです」


 モレルさんは俺の首に腕を回してしっかりと掴まった。


「行きます。舌噛むんで口は閉じててくださいね」


「わかった!」


 ゆっくりと浮かび上がって、【空艇蜂兵】の周りを飛空してから降下した。



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