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第292話

 目の前にいた迷兄弟はいなくなり、予想外の終わりに呆然としていると、後ろからモレルさんが声を掛けてくる。


「ハルナ君、怪我大丈夫? 回復ある?」


「え、あ……大丈夫です。モレルさんがここに居るってことは誰か【空艇蜂兵】に?」


「うん。見たことない姿をしたカイト君がね」


「なるほど……」


 モレルさんが見たことない姿って本気モードの海都だよな。屋上で巨大な鳥のモンスターに背に乗ったプレイヤーと対峙していたのは知っているけど、海都が本気を出すとはな。


「ここは私に任せてハルナ君も【空艇蜂兵】で休んできて」


「……わかりました。エントランス付近で雫恩が戦っているんで援護をお願いします。フラッグはまだあの場所にあるんで」


「了解! 行ってきまーす!」


 モレルさんは武器を片手に持って走り出した。


『ハルナ~、さっきの攻撃で逃げられちゃったよ~』


 召喚した蜂兵を引き連れて忍者姿の女性と戦っていたシロガネが俺のところに戻ってくる。


「お疲れシロガネ。あの人の相手してくれてサンキューな。大丈夫……そうだな」 


『私の兵士たちは最強だからね!』


 シロガネは蜂兵たちを一体ずつ頭を撫でている時に、クモガネは共鳴を解除して俺の頬に頭をすりすりしてくる。


『ハルナ、痛くない?』


「クモガネのスキルで大分回復したから平気だよ」


『次会ったら凍死させる……』


「こら、そんな物騒なことを言わない。俺の事を思って言っているのは知っているけども、クモガネにはあんまりそんな言葉は使わないで欲しいな」


『努力する……』


「そうかい。よし、移動するぞ」


 黒い蝶に触れて、一瞬で上空にある【空艇蜂兵】に転移した。

 デッキに転移するとドラゴン二体に囲まれて海都が休んでいた。


「お疲れさん。モレルさんから聞いたけど、本気だしたんだって? 相当強かったのか?」


「……本気出さないで負けるのが嫌だっただけだ。それと、俺に感謝しろよな」


「え、なんで?」


「俺と戦っていた……女の人だけど、お前こと相当恨んでいたぞ。虫野郎って呼んでいたし何したんだよ」


「女の人? ……あ、一人だけ思い当たる人がいるけど、その人かな。どっちかというと逆恨みな気がするけど」


「お前のことを想って強くなったんだってさ。愛されてんじゃん」


「変な言い方すんなよ……こっちから願い下げだ。それにしても海都が本気を出すくらい強いのか……」


「お前なら問題ないさ、大分チートスキル揃っているし」


「そういう海都も、あと颯音もチートスキル揃っているだろう?」


「……確かに。俺も春名の事を言えなくなったな」


 海都は二体のドラゴンを優しく撫でていると、突然険しい表情をして外に視線を向ける。


「どうした? なんか索敵に引っかかった?」


「ああ。かなり面倒くさい人物がな」


 俺も海都が見ている方に顔を向けると、フェンスの上に着地した。


「よっ! お二人さん、休憩中か? 暇ならさ、俺と戦おうぜ?」


「トオルさん……!」


 背中には黒い大剣を二本背負って獲物を見つけて嬉しそうな表情をするトオルさん。

 今、一番会いたくなかった。


「どうしてこの場所が分かったんですか?」


「ん? なんとなく空を見上げたらお前さんの気配がしてな。一飛びしてみたらこの……飛空艇? を見つけたんだよ」


「地上からかなり離れているんだけどな……相変わらずでたらめなステータスですね」


「褒め言葉として受け取ってやるよ。話はこれぐらいにして早くやろうぜ」


 二体のドラゴンを起こした海都は直ぐに共鳴をして武器を構える。

 俺は小声で尋ねた。


「海都、共鳴技は使ってるよな」


「どっちも使った。サポートはするから春名がメインで相手してくれ」


「わかった」


「話し合いは終わったか? それじゃ……!」


「うおおおおおお! ぶっ飛べええええ!」


 トオルさんが柄に手を伸ばして歩き出そうとした時、どこからともなく颯音が雄叫びを上げながらトオルさんをドロップキックを食らわせて【空艇蜂兵】から追い出した。


「嘘だろおおおぉぉぉぉーー……」


 トオルさんは叫びながら落ちていく。

 出落ち感凄くて俺は苦笑した。


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