第291話
俺の姿を見た迷兄弟……弟の方が困惑した様子で声を荒げた。
「おい女! あんな姿があるなんて聞いてないぞ!」
「私も初めて見る姿よ! 見たところ氷属性のモンスターと共鳴をしているみたいだけど」
「氷属性か……弟よ、焔の陣だ」
「了解した、兄者」
迷兄弟は構えポーズをすると、兄の方は両足、弟の方は両手が燃え上がった。
俺対策に火属性の攻撃を仕掛ける気だな。クモガネのスキル【破滅の冬】の効果で火属性には完全耐性あるから効かないんだよな。流石にその情報はないか。
それよりもあの女性は共鳴の事を知っているようだな。テイムしたモンスターを持っている仲間が居るのか、情報を集めたのか……傭兵クランって名だけはあるな。
「覚悟しろ!」
兄はジャンプして、弟の両手に足を乗せて勢いよく俺に向かって特撮ヒーロー並みの蹴りをしてくる。それと同時に、弟の方も駆けだした。
俺は翅を動かし氷の刃を飛ばした。
兄は空中で反転して氷の刃を足場にして、弟の方は拳で砕きながら向かってくる。
「縛り上げる【忍法・影縫い】」
彼女から伸びる影は地面を這って俺を拘束した。
こんなスキルあるんだ。忍法って言ってたしジョブは忍者なんだろうな。
「「はああああ!!」」
迷兄弟は雄叫びを上げて俺に一撃を入れた。
「それで終わり?」
迷兄弟は後ろに飛び退き距離を取った。
「我ら兄弟の攻撃が効いていない、だと……?」
「……クモガネのスキルが優秀なもんでな」
自身の体を氷点下にすることで防御力と回復を同時に行うことができるクモガネのスキル【休眠の冬】で迷兄弟の攻撃は防いだ! ……と言いたいけど、その防御を貫通してダメージを入れてきて少しヒヤッとした。幸いに回復量の方が上だったおかげでプラマイゼロ。連続攻撃されるとキツイな。
「兄者、こやつには火属性が効かないようだ」
「そうみたいだな。弟よ、他の属性で攻めるぞ」
「了解した」
二人はまたポーズをすると、両手両足に纏っていた炎が消え、金色の両足と水が渦巻く両手に変わる。
「へぇー、あんたらも複数の属性を操っているんだな」
「ふん。我らは【陰陽闘士】だ。特別に五行の真髄を見せてやる」
「あっそ。クロガネ、盾に嵌ってくれ」
『仕方ないわね』
クロガネは渋々と盾に嵌ってくれた。
盾の形が変わり中心に大き目なドリルと周りに小さいドリルがいくつも付く。
俺は盾を構えて周りにある小さいドリルを発射したけど、迷兄弟は四方八方からくる攻撃を捌いて行く。
俺が二人を攻撃をしているとシロガネが動き出して、巨大な盾を持った【巨盾蜂兵】が召喚され、俺の後ろに移動した。
『ハルナ、後ろが疎かだよ』
シロガネに言われて後ろをみると、【巨盾蜂兵】が彼女の攻撃を防いでいた。
「これもあなたのスキルですか!」
「自慢の仲間のスキルだよ。シロガネ、こいつの相手を頼んだ」
『面倒くさいけど、いいわよ。こんな奴、私の相手じゃないしね』
シロガネは追加で【騎士蜂兵】を召喚した。
こっちはシロガネに任せて、あの兄弟をさっさと倒そう。
「余所見をしているとは余裕だな!」
兄の方が目の前まで詰めていて、かかと落としをしようとしていた。
盾で防ごうとしたら死角から弟が攻撃してきて、反応出来ずに攻撃を受けて壁まで吹き飛んでしまった。
クモガネのスキルでダメージは最小に抑えたけど痛ってぇ……
「弟よ! 一気に畳みかけるぞ!」
「おう!」
迷兄弟の猛攻を捌くも俺の防御を貫通して徐々に体力が削れていく。
「兄者、何故か体力が減ってる……」
「ん? ……何をした」
「……やっとスキルの効果が出始めたか……【破滅の鱗粉】」
迷兄弟の体が一気に凍り付いた。
【破滅の鱗粉】は付着した鱗粉の量により相手を凍らせるスキル。相手の体力が減り始めると鱗粉の量が最大になった合図だ。
時間が掛かるのと近接戦の時じゃないとなかなか付着しないのが欠点だけど、決まれば大ダメージを与えれるクモガネの最強のスキル。
「ハァ……ハァ……疲れた……」
俺は腰を下ろして呼吸を整え、使用回数が残り一回の【休眠の冬】を使い体力を回復させた。
迷兄弟はもう動けないし、あとは継続ダメージで倒れるだろう。
――ピシっ。
変な音がして凍った迷兄弟を見ると、罅が入って蜘蛛の巣状に広がっていき、氷が砕けてしまった。
「マジかよ……あと少しだったのに……!」
俺は立ち上がって武器を構える。
「我ら兄弟が隠していたスキルを使わせてくれるとは……やるではないか!」
「ここまで追い詰めるとはな! だが、これで終わりだ! 条件は整った!」
迷兄弟の背中に五芒星が浮かび上がる。
「喰らうがいい! 我らの最強の技を!」
「兄者、行くぞ」
「「【共鳴技・陰陽闘気――】」」
「ハルナ君! 伏せて!」
壁の向こうからモレルさんの声が聞こえ伏せると、極太レーザーが壁を貫通して迷兄弟の二人を巻き込み、拠点の壁ごとくり抜かれた。




