第290話
「最初から全力で行くぞ、兄者!」
「覚悟しろ!」
迷兄弟が駆け出すのと同時に、俺は足元の床以外を崩落させた。
床が無くなると溶岩溜まりが姿を見せ、迷兄弟は後ろに飛び退き、女性は壁に張り付いて避けた。
「んー避けられたか。引っかかってくれたら楽だったんだけど」
「こんな小賢しい罠などで我らの足を止められるとでも思っているのか!」
弟の方が空中を駆けて向かってくる。颯音と似たようなスキルを持ってるのかよ。
俺は後ろに倒れて溶岩に飛び込んで一旦隠れた。
クモガネとアカガネのスキルで溶岩の中でも俺は快適に動ける。作戦を練るには丁度いい。
さて、どうしたものか……
あの兄弟は物理で殴ってくる颯音タイプだったっけ。うーん、なんか遠距離攻撃もあった気がする……覚えていないな。
そう言えば、共鳴技も使ってたっけ。巨大な岩石を上空から降らしたような気がするな。あの時から大分時間は経ってるし、新しい共鳴技になっているよな。
まぁ同じようならクロガネのスキルでどうにか出来るな。
そんなことを思考していると、クモガネが一体化した水色の球体が目の前に来る。
『ハルナ、あいつらとやらせてよ』
クモガネが念話で意見を伝えてくる。
『クモガネがそんなことを言うの珍しいな。あいつらのこと覚えていたのか?』
『ハルナを虐めた奴は忘れない……』
クモガネの念話を聞いて俺は軽く溜息をつく。
『クモガネ、そんな奴いちいち覚えていなくてもいいからな。それで、戦いたい理由は復讐的な?』
『復讐……じゃない再戦。あの時は何も出来なかったから』
『……そうだな、あの時は進化したばっかだったもんな。それが本当の理由なんだな!』
『うん』
『よし、じゃあクモガネとシロガネ、クロガネとコガネであいつらをやるぞ』
俺はあの時にいたメンバーを名指しする。
『え、なんで私?! 私関係ないよ!』
『……私もパス』
『お前らもあの場にいただろ。あの時よりも強くなっているんだし、あんな奴ら楽勝だろう。あ、もしかして二人して怖気づいているのか?』
『『はあ?』』
二体の球体が凄い勢いで目の前にやってきた。
『あんなの楽勝に決まっているじゃん! ね、クロガネ!』
『ボッコボコにしてあげるわ』
シロガネとクロガネを軽く煽っら見事にやる気を起こしてくれた。作戦通りだぜ。
『二人を煽るなんて、勇気あるねハルナ』
『あとでなんかあっても知らないよ?』
『こ、怖い事を言うなよコガネ、クロガネ……てか、コガネは拒否したりしないの?』
『うーん、暇だし手伝ってあげるよ』
『コガネも珍しい。サンキューなコガネ。よし、じゃあ行く――っ!?』
急に下から地面が盛り上がって俺は地上に出てしまう。
周りを見渡すと迷兄弟が地面に手を置いていた。
「あんたらのスキルかよ」
「我らから逃げることは出来ぬぞ!」
土壁が生成されて部屋から逃げられないようにされてしまった。
「袋の鼠だ。覚悟しろ!」
「逃げる気なんかねーよ。全員纏めて倒す」
武器を構えると、忍者衣装の女性が二人の横に並び、クナイを構えた。
「えーそっち側につくの? こっちの方が人数少ないじゃん……」
「お前は知らないようだな。こいつが所属しているクラン『黄昏の里』は金さえ払えば依頼をこなしてくれる、傭兵クランだ」
「お前が居ない間に依頼をしたのだ! これで三体一! 負ける気がしない!」
迷兄弟は高らかに笑う。
「三対一ね……コガネとクモガネ、シロガネとクロガネ。一旦共鳴を解除してくれ」
四体は共鳴を解除して俺の周りに姿を現す。
「これで五対三になるけど。まだ高笑いしていられるかな? お二人さん」
そういうと迷兄弟は苦虫を噛み潰したような顔になった。
姿を見せる意味はないけど少しだけイラッとしたから牽制の意味でやったけど効果はあったようだ。
「まだテイムしたモンスターはいるけど、今回はこいつらで行くさ。ありがとうなお前ら」
四体は再び球体と一体化して、コガネは特殊な革袋になって、残りの三体は球体のままで周りを漂う。
「舐めやがって……!」
「落ち着くのだ弟よ。あやつの情報はこの女から聞いているだろう。十分対処出来る。舐め腐ったあいつの鼻をへし折ろう!」
「俺の情報? 無駄なじゃなければいいけどな! クモガネ!」
クモガネと共鳴をしてマントが変形して雪の結晶の模様がある白い翅が左右二枚ずつ展開。
体中のあちらこちらに凍てつき、周りも氷ついて行く。
クモガネが進化してから、いつもアカガネと一緒に共鳴してたからこの姿は初だな。
俺は翅を広げて、三人を視界に入れた。
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本日の更新で2周年を迎えれました。
春名とコガネたちの冒険はまだまだ続きますので暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
これからもよろしくお願いします。




