第288話
『ハルナー、連れて来たよー』
罠の張り直しと連れてくるよう頼んだコガネが戻ってきた。
「おう、ありがとな」
コガネは俺の隣に連れて来て人を転がす。仮面が無くなったことで素顔が露わになった。
黒髪ボブの女性かな……顔綺麗だな。まだ体力はあるけども、気絶のデバフで起きる気配ない。デバフの効果が切れるまでそのままで放置しておこう。
……念のためにぐるぐる巻きにしておこっと。
「コガネ、糸でぐるぐる巻きにして動けなくしてくれるか?」
『自分でやりなよハルナ。【トランスフォーム】』
コガネは変形して特殊な革手袋になった。
「マジか……まだ慣れてないんだけど……」
『練習練習! はい、頑張って!』
「はーい……」
細い糸だと丈夫だけどダメージを与えてしまって情報が聞きだせなくなっちゃうし、一旦太い糸で縛ってからその周りに細い糸で縛ればいいかな。
『ただいま……なにしてんの……? 人間縛って遊んでるの? 変な趣味……』
そんなことをしていると床を掘って戻ってきたクロガネは変な目で見てくる。
「変な誤解すんな。目が覚めて情報を聞き出す前に逃げれないように縛っているだけだからそんな趣味はない。てか、どこでそんなことを……」
『同族から聞いた。少しだけ罠弄って疲れたから、しばらく話しかけないで』
「え、うん。ちなみにどんな――」
話している途中でクロガネは球体と一体化した。
「……せめて、どんな罠にしたのか話して欲しかったけど……まぁいいや」
再び透視に集中をしていると屋上で海都が鳥のモンスターに乗っている人といがみ合っていて、いつの間にか一階のエントランスに何人かのプレイヤーが侵入してきたけど罠に嵌って苦戦している光景を物陰に隠れた雫恩が見ていた。
「フィーア、フュン、ゼクス。共鳴だ」
『『『はっ!』』』
三体は【共鳴】をして一つになると機械型の小型甲虫が六機腰に装着された。
「雫恩の援護をよろしくな」
『『『お任せを』』』
展開した六機は雫恩がいるエントランスに飛んでいった。
あいつらの援護があれば乗り切れるだろう。
『雫恩、仲間を送った。攻撃する判断はお前に任せる』
『想定外の数で困惑していましたけど感謝しますわ』
雫恩に付けている黒蝶越しにフィーアとフュンとゼクスを送ったことを伝えた。
三体が到着すると雫恩は動き出した。罠で弱っているプレイヤーから狙って少しずつ数は減っていっている。
三体のサポートで雫恩は自由に動けているな。こっちは大丈夫そうだな。
海都の方は戦闘が始まったみたい。相手は無数の小さい鳥のモンスターを召喚。海都はリュウオウを呼び出して捌いている。リュウオウとの共鳴をしているけど、まだ本気の姿でもないし、リュウテイも呼び出していない。問題なさそうかな。
「うぅ……ここ、は……」
横たわっている人の気絶のデバフが治ったのか目を覚ましたようだ。
「貴方は……虫使いハルナっ! う、動けないっ!? なんだこれは!」
「俺は盾士だ。そこ訂正な。ちょっと情報が聞きたくて動けないようにしているだけ」
「情報だと? 私が言うとでも思っているのか!」
彼女は凄い形相で睨んでくるけど、俺は軽く溜息をつく。
「聞けたらラッキーぐらいにしか思ってないさ。そろそろ戦闘が始まるし巻き込まれるから逃げろよ」
そう言って彼女の体を縛っている糸を解いた。
「お前は馬鹿なのか? 折角捕まえた者を簡単に手放して、それに私がお前を後ろから攻撃しないとでも思っているのか?」
「ご忠告どうも。守りには自信あるから後ろから攻撃されても対応できるぜ」
彼女と話していると近くでドーンと壁が壊れる音がした。
「こんなところにいたか、我ら兄弟の宿敵よ!」
「あの時の雪辱……今果たす!」
壊れた壁から橙色のチャイナ服と緑色のチャイナ服を来たスキンヘッドで顔が似ている二人組が姿を表す。
「えっと、えっと……誰だったっけな……。喉まで出かかっているんだけど思い出せない」
「こ奴……! 我ら兄弟の名前を忘れたって言うのか! 砂漠エリアで死闘を繰り広げたというのに!」
「砂漠エリア? ……あ! あの時のか! 思い出した思い出した! あれ? 二人と戦ったのは思い出したけど名前……聞いてないけど……」
緑色のチャイナ服の人が橙色のチャイナ服に耳打ちをする。
橙色の人が頷きポーズを構えた。
「刮目せよ! 我は兄の迷宮龍!」
「弟の迷宮稀!」
「我ら迷兄弟!」
二人は決め顔でそう言った。
「これはまた、面倒くさいなぁ……まぁやりますか」
俺は盾を構え二人を見据えた。




