第282話
ナイトメアトレントを倒し終えもう一体の方を見ると、颯音が歪んだ顔に拳を叩き込んでいた。
拳を見つめる颯音の後ろから声を掛ける。
「颯音、お疲れ様~。大変な目にあったな、大丈夫か?」
「え、あ、うん……若干トラウマになりそう」
苦笑交じりで答える颯音。
そりゃあんな経験したらトラウマになるよな。
「今日はもう上がるか。時間も時間だし」
「そうするよ。春名、その刀は? 新しい共鳴技?」
俺の右手にある刀を見て颯音が尋ねる。
「ハガネとの共鳴技だよ。ハガネ、共鳴を解除してくれ」
共鳴を解除したハガネは地面に降り立つ。
「おお、デカくなってる! 一回目のイベントで春名と一緒に戦っていたモンスターに近づいた感じ?」
「んー大きさ的にはまだ小さいけど、あの時よりかはかなり強くなっているぜ。そんじゃ拠点に帰りますか」
俺と颯音は拠点に転移してからログアウトをした。
――次の日の朝。
「春名、颯音が来ているから起きろ」
「……ん……颯音、が……? 今、何時……」
兄ちゃんに起こされスマホの時間を見ると朝の七時だった。
寝たのが大体二時ぐらいだから五、六時間……
「おはよう、春名!」
いつも以上に元気な様子の颯音を俺は睨め付けて文句を言った。
「朝っぱらからなんの用だよ……眠いんだけど……てか、急に来るなよ。事前に連絡しろ」
「えっと……サ、サプライズ~……! な、なんちゃって! あはは……」
「……寝る」
俺は毛布を頭まで被って瞼を閉じていると、兄ちゃんと颯音の会話が聞こえてくる。
「朝からジョギングか?」
「色々ともやもやしちゃって……六時ぐらいから走ってた」
「大分走ったな。朝飯は食べたのか?」
「まだ。帰ってから食べる予定だよ」
「朝飯まだなら春名の分を作るついでに颯音の分も作るぞ?」
「いいの! やった! 冬真兄、手伝うよ」
二人が部屋の前から立ち去って静かになり、俺は再び夢の世界に旅立つ。
玄関のドアが開いた音で目が覚めスマホに手を伸ばした。
「十時か……」
「お、やっと起きた」
ベットに背もたれている颯音が視界に入る。
「びっくりした……まだ居たのかよ!」
「ずっとじゃないよ? 朝飯食べた後、ヘッドギアを取りに一旦家に帰って三十分ぐらい前に戻ってきたところ」
「もうなにから突っ込めばいいのか分からん……」
溜息を吐いてからベッドから降りる。
「あ、冬真兄から伝言。急用で出掛けるけど夜には戻るのと、冷蔵庫に飯あるから適当に食べろって」
「わかった」
部屋を出て、キッチンに向かい適当に冷蔵庫にあるものを温めて遅めの朝飯を食べる。
朝飯を食べていると、リビングに颯音が来る。
「食べ終わったらログインするの?」
「ランさんとの約束あるし、これ食べたらログインするけど」
「俺も付いて行っていい?」
「勝手にすればいいさ」
空になった食器を流しに置いて部屋に戻りベッドの上で横になる。
颯音も部屋に来て、ヘッドギアを装着してすでに敷かれている布団に横になった。
俺もヘッドギアを装着してゲームにログインした。
ログインして直ぐにフレンド一覧を確認し、ランさんがログインしていていることを確認してからメッセージを送った。
直ぐにランさんから返信が来て、時間になったら街の下層にある桟橋で集合することに決まった。
拠点には直接転移できないから、船を持っていくか。
「春名、こっちに来てくれー」
少し声を抑えている颯音に呼ばれ、ハンモックの方に向かうと胸のところに本を開いた状態で眠っているウィルの姿があった。
「おーい、ここで寝てると風邪引くぞー」
呼びかけるとゆっくりと瞼を開けウィルと目が合う。
「ハルナさん、ハヤトさん。おかえりなさい」
「寝るなら部屋で寝ろよな」
「ハルナさんを待っていたら寝ちゃいました」
伸びをしたウィルはハンモックから降りる。
「なんか頼み事か?」
「街に行きたくて……そんな時間は掛からないんですけどダメですか?」
「ダメじゃないんだけど、この後知り合いを拠点に案内するんだよ。そのあとでもいいなら」
「時間あるか? 孵化に一時間ぐらいは掛かるし、そのあとイベントの受付もあるんだし、時間無くない?」
「ウィルの頼みごとだから無理矢理にでも時間は作るさ」
「ありがとうハルナさん」
俺はウィルの頭をポンポンと叩く。
「それじゃあ行ってくる。行くぞ、颯音」
「おう。行ってくる」
「いってらっしゃい」
街に転移して下層にある桟橋で颯音と駄弁りながら待っていると、待ち合わせの時間通りにランさんがやってくる。




