第280話
街に戻ってきた俺たちは、モレルさんが指定した店に向かった。
街の中央通りからかなり離れていて人通りが少なく、周囲は静かだった。
こんな所に店あるんだ。オピオさんの店をを思い出すな。
まあ、あっちは裏路だけど。
「ここで合ってる?」
颯音に聞かれて、マップを開きながらモレルさんから送られてきた座標と照らし合わせる。
「ここで間違いなようだな。店名もあっているし、入ってみるか」
ゆっくり扉を開けると、店内は意外と広く、綺麗に設置されているマネキンには色んな衣装が着せらていた。
「メイド服に執事服、学生服、ナース服……着物まであるな」
「色々揃っているでしょ?」
店内を見渡していると後ろからモレルさんが声を掛けてくる。
一緒に並んでいるモレルさんとルーシャさんの姿が黒のとんがり帽子に黒いマント、黒いラインが入っている白いワイシャツに白のスカートを着ていて見とれてしまう。
「シオンちゃん。そんなところで隠れていないで出てきたら?」
物陰から出てきた二人もモレルさんと同じ格好していた。
「おお! 三人ともすっげぇ似合ってますよ! 可愛い!」
「ありがとうハヤト君」
「うん、ありがとう」
「……」
恥ずかし気もなく褒める颯音にモレルさんとルーシャさんは嬉しいそうに返事をするけど、雫恩は恥ずかしくなり顔を赤くしていた。
そんな雫恩を見た海都は颯音の頭を殴る。
「痛っ! なんで殴るんだよ!」
「人の許嫁を赤面させるな」
「えー、じゃ海都が褒めなよ。内心可愛いと思っているんでしょ?」
「颯音に言われなくても可愛いと思っているさ」
「じゃあなんで言わないんだよ! 言ってあげろよ!」
「みんなが居ないところで言うつもりだったんだよ!」
「はいはい、それ以上続けるとシオンちゃんが茹蛸になっちゃうからストップ。ていうより、お店に迷惑だから静かにしようね?」
思わずモレルさんが仲裁に入る。
「いいのよモレルさん、男の子は元気が一番なんだから」
お店の奥から丸眼鏡の髪を結んでお団子にしている小柄なつなぎ姿の女性が姿を見せる。
名前が見えていないってことはプレイヤーだな。
「初めましてここの店主をしております、ミフミって言います」
「春名って言います」
「颯音です」
「海都だ」
「ミフミさんってプレイヤーですよね。今追加したばっかのエリアで良くお店を手に入れましたね」
「本当は中央通りで店を開きたかったけど競争率が高過ぎて、運よくこの立地が取れたの。私の話は一旦置いといてそれじゃあ早速……」
ミフミさんは丸眼鏡をくいっと上げる。
「サイズを測らせてね?」
「へ?」
ミフミさんは俺たちの手を引っ張って奥の部屋に連れて行かれた。
「良いね! 良いね! 最高だよ! 三人とも! デュフフ……」
ミフミさんにメジャーでサイズを測られて、速攻で服を作り、それを今試着して、ミフミさんが撮影会をしているところだ。
ちなみに、俺が灰色の狼のニット帽に尻尾。作り物の犬歯と狼の足を模した手袋をつけてる。
颯音は白いワイシャツに黒のネクタイ。黒縁眼鏡に白衣と聴診器でドクター衣装。
海都は髑髏のマークがある三角帽子を被り、豪華で煌びやかコートに眼帯を付けての海賊衣装だ。
「うん! 満足! その衣装はあげるからまた協力お願いね!」
そう言ってミフミさん部屋を出て行った。入れ替わりにモレルさんが入ってくる。
「で、説明してくれますよねモレルさん」
「は、はい……」
モレルさんは正座しながら説明をしてくれた。
「偶然この店を見つけてね。ミフミさんと衣装について話し込んでいたらぽろっと三人の事を教えちゃって……お店の制服をタダで作ってあげる代わりに、ハルナ君たちを着飾りたいって言われて……私も見たくて……」
俺は溜息をつく。
「言ってくれればこれぐらい協力しますよ」
「そうそう。モレルさんには拠点周りの整備してもらっているし、頼まれたら協力を惜しまないですよ」
「そうですよ」
「うぅ……ありがとうハルナ君! ハヤト君! カイト君!」
モレルさんは立ち上がって涙を拭いた。
「モレル? 入るよ」
ドアが開きルーシャさんと雫恩が入ってくる。
「みんな似合ってる。記念にスクショするからみんな集まって」
写真を撮ったあと、お店を出てから俺は時計を見た。
「もうすぐ零時か。みんな、どうします?」
そう聞くと雫恩が答える。
「明日のイベントに備えてもう落ちますわ」
「それじゃ、今日はこれ終わりかな?」
「そうね。イベントもあるしそれが良いと思う」
「じゃあ今日は終わり。明日のイベントの受付が十三時からだから、十二時ぐらいに拠点に集合で」
「はいはーい。それじゃおやすみ~」
「ばいばい」
モレルさんとルーシャさんがログアウトしてから、海都と雫恩もログアウトした。
「春名ももう落ちる? 落ちないなら二時までレベル上げ行かない?」
「うーん、まぁ、二時までなら……いや、一時半で」
「お、おう! んじゃ早く行こうぜ!」
「はいはい」




