第272話
次の日。
昼の三時ぐらいに起きた俺は、恐る恐るリビングのドアをゆっくり開けてドアの隙間から中の様子を見渡す。
「そんなところでコソコソしてないで椅子に座れ、春名」
「はい……」
キッチンから少し怒っている様子の兄ちゃんの言葉に従い椅子に座った。
俺の前に料理を置いた兄ちゃんは対面の席に座る。
「冷めないうちに食べな」
「うん、頂きます」
俺が食べている間、兄ちゃんはノーパソを開いて仕事をしている。
箸を置いて兄ちゃんに告白した。
「……兄ちゃん、昨日遅くまでゲームしてた。遅くなるなって言われてたのにほぼ徹夜になっちゃった約束破ってごめんなさい」
「そうか……まぁそんなことだろうと思ってたよ」
「へぇ?」
予想外の返答に変な声が出てしまった。
「お前に用事があって、朝待っても起きてこないから部屋に入ったら気持ちよさそうに寝ていたから、遅くまでやってたんだろうなって。それに「そこだ、コガネ!」って寝言を言ってたぞ。ドアを閉じてから笑ったわ」
恥ずかしさあまり俺は手で顔を隠した。
「忘れてください」
「強烈な光を放つペンで記憶を消す装置を使わない限り忘れない」
「映画の見過ぎだよ兄ちゃん」
笑っている兄ちゃんに釣られて俺も笑ってしまう。
「それで、何時までやってたんだ?」
「えっと、四時ぐらいかな?」
「大分やってたな。まぁ日常生活に支障が出なければ、夏休み期間中なら遅くまでしててもいいぞ。毎回俺の許可取るの面倒くさいだろう」
「いいの!?」
「日常生活に支障が出ない範囲だからな」
「うん! ありがとう兄ちゃん!」
「冷める前にさっさと食べろよ」
「はーい」
かなり遅めの朝飯(昼飯だな)食べ終えた俺は食器を洗っているときに、兄ちゃんの言葉を思い出して尋ねる。
「兄ちゃん、さっき言っていた用事って?」
「洗い終わったら隣に来てくれ」
「うん」
食器を水切り籠に入れて手を拭いてから兄ちゃんの隣にいくノーパソの画面を見せてくれた。
そこには綺麗なお店が映っていて、デカデカと明日オープンと書いてあった。
「綺麗なお店。カフェかなにか?」
「俺の知り合いの店。ここに書いてある通り明日オープンのカフェなんだけど、スタッフの一人がさ、熱でて人が足りないからヘルプいないか連絡が来たんだよ。春名には明日一日だけ手伝ってほしいだ。前にゲーム内で接客やったって聞いてから、いい機会だし春名に話しを持ってきたんだ。勿論、バイト代は出るから安心してくれ」
「バイトはしたいと思っていたから別にいいんだけど、何時から?」
「十時から夕方の五時まで、休憩一時間」
「ちなみに……時給はいくらぐらい?」
「ちょっと待ってな」
兄ちゃんにノーパソの画面を見せてもらい色々と教えてくれた。
……そこそこ高いし、場所も家から電車で三十分ぐらい。
「やってみるか?」
「うん、やってみるよ兄ちゃん」
「春名ならそう言ってくれると思ってたよ。知人には俺から連絡しておくよ」
席を立った兄ちゃんは部屋に入っていく。
俺は追い駆けて質問した。
「兄ちゃん、履歴書とか必要だよね?」
「そうだな」
「近くのコンビニで買ってくるよ」
直ぐに身支度を済まして歩いて五分ぐらいのコンビニに向かった。
「お、あったあった。あ、証明写真がいるんだった」
めっちゃラフな格好で来ちゃったから写真は撮るのは無理か。制服に着替えてから撮りに行こう。
履歴書を買って急いで帰宅。制服に着替えていると兄ちゃんがドアをノックする。
「入るぞ。履歴書に使う写真はもう撮ったか?」
「まだ。これから撮りに行くところ」
「金勿体無いから撮ってやるよ」
「カメラなんか持ってたっけ?」
「スマホで撮るんだよ。俺の部屋にきてくれ」
兄ちゃんの部屋に入ると白い壁の前に椅子が置かれていて、そこに座ってから写真を撮ってもらった。
印刷してもらっている間に履歴書を書いていく。三枚ぐらい失敗してようやく書き上げた。
兄ちゃんから写真を貰い貼り付けて完成した。
「諸々の書類とかは明日までに用意しておくから、今日は早めに寝ろよ」
「分かってる。今日は夕飯担当なんだけど、なんか食べたいのある?」
「特にないかな。春名が食いたいでいいぞ」
「えー。じゃあ適当に作っちゃうから、文句は言わないでよ」
「はいはい」
兄ちゃんと夕飯を食べ、風呂を済まして、ベッドに横になっていると颯音からメッセージが来る。
返信は起きてからすることにしてスマホを置いて眠りに就いた。




