第268話
『皆さん、お強いですね。惚れ惚れします!』
先導して道案内をしてくれているジェントルスパイダーが褒めちぎる。
……さっきからこの調子だ。モンスターを倒す度に言われるから若干辟易している。
まぁそんなことよりも遭遇するのがモンスターだけなのが不思議だ。
このダンジョンにはプレイヤーもいる筈なんだけど一回も見かけない。
「海都の索敵にプレイヤーの反応ってあるのか?」
後方で索敵している海都に尋ねた。
「プレイヤーの反応はある。ただ、あのモンスターが何かしらの方法で察知して出会わないようしている」
「なるほどな。それでプレイヤーに出会わないのか」
「無駄な争いがないからいいんじゃね?」
「それもそうだな」
『おお! これはこれは!』
そんな会話をしているとジェントルスパイダーは何かを見つけたのか足早に歩いて行く。
『皆さん! こちらに来て頂けますか!』
「なんか見つけたのか?」
『ええ! 落とし穴を見つけました! ここに入れば近道になりますぞ!』
「え……落とし穴なのに近道になるの? 普通罠とかあるんじゃないの?」
俺は困惑しながら質問した。
『普通なら落とし穴の先は罠が設置されているのが常設。ですが! ここではフェイクなのです!」
「フェイク……じゃあ落ちた方が正解って訳なんだな」
『その通り』
「なるほどな……ちなみになんだけど、どれくらい進んだんだ?」
『大体、三分の一進みましたね』
「あと三分の二もあるんのか。ちょっと相談してみる」
俺は今聞いた話を三人にも伝え意見を聞く。
「俺はどっちでもいいけど、時間的に落とし穴に行った方がいいんじゃない?」
颯音に言われて時間を見ると夜中の二時を過ぎていた。
兄ちゃんには一応許可は取ってはいるけど、流石に早朝終わりは怒られる。
「私も賛成ですわ。少しですが眠気が……」
雫恩は軽く欠伸をする。
「普段は寝ている時間だから仕方ないさ」
「え……海都って雫恩が寝ている時間を把握してんの……? ちょっと引くんだけど……」
「いくら許嫁だからって、海都こわっ」
「ち! が! う!」
海都は怒鳴りながら否定していると、雫恩がくすくすと笑う。
「誤解ですわよ二人とも。幼少の頃から零時前には寝るようにしているのを海都さんが知っているだけですわ」
「そういうことだ」
「まぁ二人のことは置いといて。全員賛成でいいんだな?」
三人は頷いた。
「決まりだな」
俺はこっちの様子を窺っていたジェントルスパイダーの元に向かう。
「お待たせ。落とし穴の道にいくよ」
『良き判断です! では、早速!』
ジェントルスパイダーが壁に足を触れると、ガコっと足元の地面が消えた。
『あ、お伝えし忘れたことがありました』
「え」
『この先試練が待ち受けておりますぞ。お主なら問題ないと思いますがご武運を……』
ジェントルスパイダーの言葉を最後まで聞くことなく俺たちは落ちていった。
「あああああーー! しぬううううーーー! 無理無理無理無理!」
「きゃあああー!」
落ちた穴から狭い通路を凄い勢いで滑っていく。
シートベルトなしで絶叫系の乗り物に乗っているような感覚。俺と海都はどうにか耐えているけど、颯音は雫恩は絶叫を上げた。
「っ……春名! そろそろ抜けるぞ!」
「わ、わかった!」
通路が突然に途切れ、俺たち四人は暗い空間に放り出される。
「ビートル隊! 三人の救助を!」
『『『お任せあれ!』』』
白と赤の翅を展開している間にアインたちは共鳴を解除して、三人を救助しに行った。
「……吐きそう……」
真っ青な顔になっている颯音。雫恩は深呼吸してどうにか落ち着きを取り戻したようだな。
暗い空間を見渡していると突然光が灯る。円形状に広く、四つの柱が等間隔に立っているだけの空間。
柱の上には崩れている石像みたいのがあった。
「ここは……何処なのでしょうか」
回復した雫恩が聞いてくる。
「ダンジョンの中だと思うけど……」
警戒していると四つの柱が線で結ばれ、部屋の中心に見た目が悍ましいモンスターが出現した。
「インセクトキメラ……」
巨大なGの体格に、蟻のような足。蠅みたいな翅を持って背中はトゲトゲしい。目は複数あってどこを見ているのか分からない。
「キシャアアアアアアアア!!!」
インセクトキメラは鋭利な牙が無数生えている口を開く。
あんなのが居るなんて聞いていなんだけど!?




