第267話
迷宮内を進んで行くと通路で蜘蛛のモンスターが視界に入り、一旦隠れた。
「海都、前方にモンスター一体」
「前方に? ……本当だ。敵意がないから分からなかった」
「敵意がない? ……ちょっと行ってみる」
俺はモンスターの前に姿を見せると攻撃してくることなく、頭を下げているように見えた。
ジェントルスパイダー……変わった名前のモンスターだな。よく見ると口周りに髭みたいなものがある。
『これはこれは森の主と契約し者ではないでしょうか、こんなところで会えるなんて今日はいい日ですな』
スキル【念話(蟲)】のおかげで、モンスターの言葉が伝わってくる。
「俺のこと知ってんの?」
『ええ! あなた様のことを知らない者はいないでしょう!』
「そ、そうか……ちょっと待っててくれ」
そう言い残して颯音たちの元に戻る。
「どうだったって聞かなくてもわかるけど、春名のスキル適用しているみたいだね」
蜘蛛のモンスターをちらっと見てから颯音が言う。
「そうみたい。ゴールの場所がわかるかもしれないから話し聞いてみる。その間、周りの警戒をたのむ」
「了解~」
警戒を三人に任せて俺はモンスターに話しを聞いた。
「お待たせ。聞きたいことがあるんだけど、ここのゴールっていうか終着点の場所を知っていれば教えてくれ」
『終着点というと幹に繋がる道のことでしょうか? 案内致しましょうか?』
「幹かどうかは分からないけど多分それのことだと思う。頼んでもいいか」
『畏まりました』
ジェントルスパイダーはてくてくと歩き出す。
「あ、ちょっと待って。もう一つ聞きたいことがあるんだ」
『なんでしょう。自分が答えれるものでしたらお答え致しますが』
俺は小声で尋ねた。
「ここの何処かにある秘密の部屋か祭壇の場所は知っているか?」
『秘密の部屋は存じ上げませんが、祭壇でしたら幹を越えた先、世界樹の中心にございますよ』
このモンスターが言う幹というのは今前線組が挑んでいるところかもしれない。てことは、祭壇はその先か……時間掛かりそうだなぁ。
秘密の部屋も自力で探さないとか。運よく見つかればいいけど。
「教えてくれてありがとう。それじゃあ案内をお願いするよ」
『お任せを』
歩き出したジェントルスパイダーの後を追いかけ迷宮を進む。
後ろから颯音が指で突っつく。
「なぁなぁ、あのモンスター本当に信用してもいいの?」
「敵対してないし、大丈夫さ」
「……春名がそう言うなら……なんか胡散臭いんだよなぁ」
「敵対反応。話しは終わりだ二人とも」
海都からの報告で俺と颯音は気を引き締める。
警戒して少し歩くと見上げる程大きい手が長いオレンジ色の毛を纏っている猿のモンスター――クレイジーエイプの姿が見えた。
『おお! クレイジーエイプですぞ! ささ、華麗なる技で倒して頂きたいものですな!』
ジェントルスパイダーが期待の眼差しを向けてくる。
「悪いけど、どっかに隠れててくんね」
『おお、そうでしたそうでした』
ジェントルスパイダーは壁によじ登り避難していく。
俺たちを視界に入れたクレイジーエイプは雄叫びを上げ突撃してくる。
「クロガネ、来てくれ」
『……仕方ないわね』
構えている盾にクロガネの球体が嵌ると盾の形が変わっていく。
クレイジーエイプの重たい拳を盾で受け止め、盾のギミックは起動すると盾からドリルが飛び出し、クレイジーエイプの拳を穴だらけにした。
苦痛の表情を浮かべているクレイジーエイプに、横から連撃を入れ追撃をする颯音。
「颯音さん! 離れてください!」
「お、おう!」
雫恩が杖を振るうと、クレイジーエイプを囲うように赤に青、黄色に薄緑色の球体が生成され、一斉に襲いかかった。
「止めだ。リュウオウ、力を貸してくれ」
海都が弓を構え弦を引くと、ビリビリと放電している矢を番え放つ。
矢は瞬く間に飛翔して突き刺さると、凄い音と共にクレイジーエイプが焼き焦げ、消滅した。
クレイジーエイプを倒し終え、俺たちはハイタッチを交わした。
『なんと素晴らしい連携! 感動致しました!』
避難していたジェントルスパイダーが近くに来て称賛する。
「あ、ありがとう……」
『次こそは是非、主様の力を見せて頂きたいものだ』
「それよりも、案内を再開してくれ」
『そうでしたそうでした。こちらに』
遭遇するモンスターを倒しながら、ジェントルスパイダーの案内で迷宮を進んで行った。




