第265話
「ハルナさん~!」
読書途中で寝落ちしていたウィルが起きたようで、手を振りながら俺のところにやってくる。
「昼だけどおはようウィル、良く寝れたか?」
「来てたなら起こしてくださいよ」
「あんな気持ちよさそうに寝てたら起こせねーよ。本に涎付けるなよ、借りもんなんだからな」
「そんなことしませんよ。ところで、何しているんですか?」
ウィルは俺の周りに漂っている水で出来た魚のことを尋ねる。
「アオガネのスキルで遊んでいるだけ」
「へぇー……綺麗ですね……水の形を変えるスキル?」
「周りの水を支配して自由自在に操れるスキルかな。空気中の水分を集めて形を変えているんだよ」
魚の形をした水はパンと弾け霧散した。
「まぁ、俺が使えるのはこの程度だけど。アオガネが使えば海中はアオガネの独壇場だぜ」
「ハルナさんを見ていると僕もパートナーが欲しくなるなぁ」
「ウィルは召喚士なんだろう? 召喚しないのか?」
「……今は父様から受継いだ剣術を極めたいから今はまだ……あ、ハヤトさんとカイトさんが来たみたいですよ」
ウィルに言われ拠点の方を見ると颯音と海都が拠点前に現れた。
俺はハンモックから降りて、寝ているニアをアオガネに預けて二人の所に行く。
「おっす、二人共――」
「春名!! 記事見た?!」
颯音が凄い勢いで顔を近づけくる。
「近い近い! 近いって!」
俺は颯音を引き剥がして距離を取る。
「それで、記事ってなんだよ」
「樹海に行けばわかるから! 今すぐに行こう!」
颯音に急かされ、コガネたちを戻してから樹海に転移した。
「なんか……人多くね?」
オベロン戦の時のように街は沢山のプレイヤーで賑わっていた。
「大型アップデート前のなんかのイベントか?」
海都が答える。
「オベロン戦の時に大樹が生成されたの覚えているだろう? あれがダンジョン化したんだよ」
「へぇー、それでこんなに人が多いんだな」
「海都……目的地に着いてから言おうと思ってたのに……世界樹ユグドラシルだって、そのダンジョン名前」
「今、なんて言った……?」
「だから世界樹ユグドラシルって言ったんだよ」
「世界樹ユグドラシル……」
これは予想外だ。無理かと思っていたオベロンの孵化が出来るかもしれない。めっちゃ行きたい!
颯音と海都が俺を見ていることに気が付く。
「なにみてんだよ……」
「なんか行きたそうな顔してるなぁって思って」
「そりゃめっちゃ行きたいさ。行きたいけど……潜ったらパーティーまで間に合わないだろう? 準備もあるんだし」
「それならパーティー後にグレンさんたち誘えばいいんじゃない?」
「うーん、グレンさんたち仕事あるって言ってたし無理なんじゃないかな」
「聞くだけ聞いてみようよ。てか、春名は大丈夫なの? 時間的に」
「兄ちゃんに許可を取っているから問題ない。聞くだけ聞いてみるかな。お、モレルさんとルーシャさんも来たみたいだ。拠点に戻るぞ」
モレルさんからメッセージが届き、俺たち三人は拠点に戻った。
「三人とも~こっちのテーブルを運ぶのを手伝って!」
「「「はーい」」」
俺と颯音、海都とウィルで椅子やテーブルを拠点の外に運び出していると雫恩がログインする。
「遅れてしまい申し訳ありませんわ」
「シオンちゃん! 料理の方手伝って欲しいんだけど!」
「任せてください」
遅れてきた雫恩は厨房で料理しているモレルさんとルーシャさんの手伝いをする。
手が空き次第俺たちは料理を運んでいった。
「ハルナ~来たよ~」
エレナさんに続きグレンさんとベオルさん、ユリーナさんとミライさん、リリアスさんの五人が拠点に転移してきた。
「これ、土産だ」
「ありがとうございました。もうすぐ出来るから適当に座ってください」
少し駄弁り時間を潰していると、最後の料理が運ばれて準備が終わった。
グレンさんはグラスを持って立ち上がった。
「えーそれじゃ長話もあれだし、料理が冷めないうちに頂こう。オベロン戦お疲れ様! 乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
グレンさんたちと談笑して豪華な料理を堪能しながらパーティーを楽しんだ。
料理もだいぶ減ったタイミングで俺は尋ねた。
「俺と颯音、海都の三人で樹海エリアの新ダンジョンに挑もうと思っているんですけど、時間あれば皆さんも行きませんか?」
「俺たちも行きたいが、時間がなぁ……」
「私たちも明日仕事だから行けない。ごめんね」
「ごめん」
モレルさんとルーシャさんが謝る。
「謝らないでくださいモレルさん、ルーシャさん」
「アプデ後、暇な時にでも誘ってくれ」
「分かりました」
こうして打ち上げパーティーは終わりグレンさんたちは先にログアウトした。
モレルさんとルーシャさんも先にログアウトさせて、残った俺と颯音、海都と雫恩、ウィルで分担して片付けをする。
片付けている間に海都が雫恩に尋ねる。
「さっき何も言ってなかったけど、雫恩もダンジョンに行くか?」
「……着いて行きたいのは山々ですけど私のレベルでも行けるのでしょうか?」
「平気でしょう。何があったとしても全員でカバーするし、海都が守ってくれる」
「そうそう!」
「お前らな……後で覚えていろよ」
海都が睨んでくる。おお、怖い怖い。
「ふふ。わかりました。私も同行させて頂きますわ」
片付けを済まして俺と颯音、海都と雫恩は樹海エリアに転移した。




