第246話
ドス黒い肌に鋭い黄色い目が四つ。ギザギザした禍々しい口。体の所々が崩れている。
怪物の名前は不完全体な怪物。レベルははてなマークでわかんないし、体力が驚くほど多い。
「あれ! どうすんだよ! 俺たちだけじゃ対処できないって!」
「分かってる!分かっているけど……やるしかないだろう……!」
「覚悟を決めるしかないか」
「ウィルと雫恩はここで待機。俺も前に出るからビートル隊とシロガネを置いていくよ」
「分かりました。気をつけてくださいハルナさん、ハヤトさん、カイトさん。シオンさんのことは僕が守ります」
「まぁ! 嬉しいことをおっしゃりますねウィル君。ですが、私も強くなりましたわ。心配ご無用よ」
「無茶するなよ?」
――ゴオオオオオオオン!!
怪物が雄叫びを上げ、俺たちは耳を塞ぐ。
「ツヴァイは海都、ドライは颯音の援護」
「俺は平気だからウィルと雫恩の方に回して。よっと」
ドライの上から飛び降りた颯音は空中で着地した。
「便利なスキルを持ってんな。【空中移動】の上位か?」
「ヒスイのスキル。詳細は言わないけど、そんなもん。じゃあ先に行くぜ!」
颯音は空中を駆けていく。
「ドライ、ウィルを頼む」
『お任せを』
ウィルをドライの背中に移動させる。
「シロガネ、仕事多いけどやれるか?」
そう言うとシロガネは【共鳴】を解いて、周りを見渡した。
『ハルナ、私のことをみくびってない? こんなの余裕よ! あとでデザート頂戴ね!』
『シロガネだけずるい! 僕も欲しい!』
『ハルナ、僕にもくれるよね?』
『洞窟増やして』
コガネとクモガネとクロガネの三体も要求してくる。
「これが終わったらみんなの要求聞くよ。じゃあ行くぞ」
そう言うと両手はコガネの特殊革手袋、右手にクロガネの巨大なドリル、両足はアオガネの特殊ブーツ、腰にはハガネの刀が装着された。
そして、目尻辺りに赤い眼が左右に二つ付き、瞳に蜘蛛の模様が浮かぶ。
「おお! ヒガネとの共鳴は初めてだけど、すっげぇ視界良好! 遠くまで見える!」
『使えるのは六回だけだから忘れないで』
「分かってる!」
赤と白の翅を広げ、怪物の元に飛んでいく。
怪物は俺も見るなり、口を開いて紫色の光線が放たれた。
くそっ! 避けたらウィルと雫恩に当たる!
「使うしかないか……【パーフェクトガード】!!」
俺が覚えているスキルの中で一定時間どんな攻撃も無効化する最強の防御スキルを使って、怪物の攻撃を防ぐ。
一度使うと再使用までに時間が掛かるけど、出し惜しみしてられない。
「【共鳴技・フィンブルアンドラヴァル】!!」
マグマと凍てつく冷気を圧縮させた球体を怪物に全力で投げる。
「颯音! 全力で離れてくれ!」
「えっ!? もうちょっと早く言ええええ!!」
怪物に当たる寸前で言ったせいか颯音は被弾しない距離まで猛ダッシュして離れた。
球体は怪物に当たると爆炎が起き、一気に凍り付く。
だけど、怪物は凍っている一部も気にすることなく俺たちに攻撃してくる。
颯音と海都も共鳴技をぶっ放すが怪物の回復力が異常で体力が減らない。
「あんなのどうすんだよ……」
――グラアアアアア!
再び怪物が雄叫びを上げると、海中からタコのような触手が出てきて、光線を放つための光を溜め始める。
「あれはまずい! 【共鳴技・イービルアイ】!!」
瞳を一つ消費。少し痛みはあるけど、怪物の体はゆっくりと石化していく。
あれじゃ間に合わない!
「ヒガネ、瞳を一気に消費したらどうなる?」
『しばらくは見えなくなるわ』
「だよな……颯音! 海都! カバーを頼んだ!」
瞳を全て使い激痛が走り瞼を閉じる。
「春名! 大丈夫? って目から血が!」
駆け付けてくれた颯音が、俺の目から流れている血に驚いているのが声だけで分かる。
「少し休めば平気だ。状況はどうなった?」
「急に石のように固まって動かなくなったけど……なにしたんだよ……」
「どうにか間に合ったようだな」
俺は胸を撫でおろした。
『ハルナ!!!』
シロガネが俺の名前を叫んでいるのが聞こえる。
段々と声が近づいているな。
『早く目を見せて!』
「お、おう」
シロガネの手が俺の頬に触れる。
『痛みは? 大丈夫なの?』
「痛みは少しはあるかな。あと……なんも見えないけど、シロガネがすっげぇ心配してくれているのはわかる」
『べ、別に心配してないし! そんな冗談が言えるなら回復は要らないよね!』
「要ります。すっげぇ要ります。お願いします」
『……じっとしてて』
甘い匂いと共に目の痛みが引いていき、ボヤけていた視界もクリアになっていく。
「おお、凄いじゃんシロガネ。サンキューな!」
「は、春名! 怪物の体が震え出したよ!」
パリパリと石化が解けていく音が聞こえてきて、怪物は俺たちを視界に入れ、再び光線を放とうとする。
ヒガネの共鳴技は六種類ある状態異常を瞳を消費して発動するスキルだ。効果は瞳を消費した分だけ、効力が増えたり、時間が伸びる効果だ。
六個消費したのに嘘だろう……
「やばいやばい! また光線を撃ってくる!」
「防御スキルをフルで使って防いでみるけど、期待はしないでくれよ!」
スキルを全て使い光線を防ぐが、しばらくするとシールドにミシミシと罅が入る音が聞こえてきた。
「もう……! 無理……!」
シールドが粉々に砕け、光線が俺たちを飲み込もうとしている。
「禍々しい気配がすると思って見に来てみたら」
聞き覚えのある声が聞こえてくると、怪物が放つ光線を軽々と受け流す。
「お、オピオさん……?」
突然の乱入者は、海原エリアでお店を開いている竜人族のオピオさんだった。




