第24話
「ああ、もう! いつまで走るのよ!」
「エレナ、口より足を動かせ!」
「分かってる!」
今、俺たちは絶賛孵化したばかりのベビーアントから逃げてる真っ最中だ。
名前にベビーとあるけどレベルは二十越え。体格は小さいけど素早く数も多くてグレンさんの判断で逃げることにした。
「ハルナ、持つの代わろうか?」
全身鎧装備なのに息を切らす様子がないベオルさんがハニーワームを抱えて走っている俺に尋ねてくる。
「大丈夫です! それよりも出口はまだなんですか!」
「まだ先だ、辛くなったら言ってくれ」
「はい!」
更に洞窟を走っていると前方からポーンアントの群れが来る。
「仕方ない、迂回するぞ!」
グレンさんは右の通路に曲がる。他のメンバーも後をついて行く。
それからも何度もポーンアントの群れが来ては迂回を繰り返す。しばらくすると広い空間に出た。
「くそ……行き止まりか。迎え撃つぞ」
ベオルさん、エレナさん、ユリーナさんは頷いて武器を構える。
「コガネ、悪いけどハニーワームの事を任してもいい?」
「シュ」
コガネは頷いてハニーワームを連れて岩陰に隠れた。
俺も武器を弓に変え構えると低重音な足音が聞こえてくる。そして、その足音の正体が現れた。
「クイーンアント……」
俺はモンスターの名前を呟いた。
見え上げるほど大きい体格に、黒い甲殻を持ち、腹部がとても大きく頭に王冠を乗せていた。
「親玉か! 皆油断するなよ!」
早速クイーンアントが動き出し口から緑色の液体を吐く。全員避けたその液体はジュ……っと地面を溶かす。
「あの液体に触れるなよ!」
そう言いながらグレンさんは果敢に攻撃を仕掛けるもクイーンアントの甲殻により刃は弾かれ、グレンさんは距離を取る。
クイーンアントはグレンさんに前足で横なぎ攻撃してくるも間にベオルさんがガードしに入って防いだ。
「二人共離れて!」
遠くで呪文を唱えていたエレナさんが二人に退くように言うと直ぐに火の玉が複数飛んでいく。
体格が大きいクイーンアントは避けれないはず。
「キシャアアア!」
クイーンアントが叫ぶとどこからともなく防御力が高いルークアントが召喚され、火の玉は全てルークアントのせいで防がれてしまった。
「召喚能力もってんの!? せっこーい!」
「エレナ、MP回復させます」
ユリーナさんが呪文を唱えるとエレナさん青い色の結界に包まれた。
そんな二人にクイーンアントを緑色の液体を飛ばしてくるが、俺はソウルを大分消費して全て吹き飛ばした。
「二人の事は俺が守ります! グレンさん、ベオルさん頼みます!」
「任された!」
グレンさんとベオルさんが交互にタゲを取りつつ合間にユリーナさんが回復を挟む。エレナさんと俺は隙を見つけては攻撃をしてようやくクイーンアントの体力が半分まで削れた。
「キシャアアア!」
クイーンアントの目が真っ赤になり耳を塞ぎたくなるような金切り声で鳴いた。
「攻撃パターンが変わるぞ!」
グレンさんがそう言うとクイーンアントは前足で地面を叩いた瞬間足元から土の棘が生え、咄嗟のことに反応出来なかった俺はダメージを受けてしまった。
「キシャア!」
再び足で地面を叩くクイーンアント同じ攻撃を繰り出すも今回は避ける。
「キシャアアアアア!」
クイーンアントの叫びで俺は耳を塞いで足を止めてしまう。その隙を狙わて俺の足元だけが泥に変わり足を取られて身動きが取れなくなってしまった。
クイーンアントはそんな俺に緑色の液体を飛ばしてくる。
「シュ!」
突然ターザンのように登場したコガネに掴まれ泥から助け出され緑色の液体を当たらずに済んだ。
「……助かったよコガネ、ありがとな。ハニーワームは?」
「シュ」
コガネが指す方を見るとハニーワームがこっちを心配そうに見ている。目が合うと嬉しそうに体を動かしていた。その動きに俺は少し笑ってしまう。
皆がクイーンアントに攻撃をして気を引いている間に俺はハニーワームの近くに降ろされた。
「コガネ、さっさとあいつを倒そう」
そう言うとコガネは光の粒子に変わり武器に吸い込まれて特殊な革手袋に変わる。
『仕方ないな。串焼き三袋分ね!』
「はいはい、分かってますよ。……行くよコガネ、【共鳴技・スパイダースネット】」
指から伸びるワイヤーがクイーンアントを襲う。クイーンアントは踠いてワイヤーを引き千切ろとするけど、その上から更にワイヤーが絡んでいく。
クイーンアントの体と全部の足を捉えた俺はクイーンアントを持ち上げて叫んだ。
「今です! 皆さん!」
呆然としていたグレンさんがこっちを見てニヤリと笑った。
「負けてられねーな! な、エレナ!」
「そうね!」
エレナさんが呪文を唱えると赤い光がグレンさんの刀に吸い込まれて、刀から真っ赤な炎が燃え上がる。
「「【共鳴技・ブレイジングカタストロフィ】」」
一瞬で姿を消したグレンさんが現れた時、クイーンアントに炎で燃え上がった斬り痕が浮かび緑色の体液が飛び散り大きく体力を削った。
「私達も行きますよ、ベオル」
「ああ!」
ユリーナさんも呪文を唱えるとクイーンアント全体を包む結界を張る。ベオルさんは大盾を構えると白かった大盾が真っ黒に染まり、ぱかっと口が開く。
「「【共鳴技・大喰い】」」
結界に囲まれたクイーンアントが小さくなり、大盾が凄い吸引力で吸い込むとバクっと開いた口が閉じた。
再び口が開くとぺっと吐き出し瀕死状態のクイーンアントが現れ、そしてグレンさんが止めを刺してクイーンアントは消滅した。




