第236話
拠点に戻るとヒスイの背に跨っているウィルを、近くで見守っている颯音とギンがいた。
俺に気が付いたウィルがヒスイと一緒に駆け寄ってくる。
「おかえりなさい、ハルナさん。遅かったですね」
「色々あってさ……ウィルは一緒にヒスイと遊んでたのか?」
「はい、一緒に海の上を走りました」
ウィルはヒスイの顎下を撫でる。
遅れてきた颯音が言う。
「ヒスイの本気は更に速いぜ? ウィルが落ちないように速度を抑えているんだよ」
「そうなんですね……」
「ワフ!」
「また一緒に遊ぼうって」
「こちらこそまた遊んでねヒスイ」
ウィルが降りてから颯音は二体を戻し、俺は船のことを尋ねる。
「颯音、船の修理はどうなったんだ?」
「そのことなんだけどさ、修理費が予想以上に高くて所持金足りなかったんだ。クランの備蓄金使おうと思って取りに来たら権限が無いって言われて、変更してくれってメッセージを送ったんだけど……気づいていなかった」
「え?」
俺はメッセージを確認した。
……確かに来ている。マザースパイダーと戦闘していたから気付かなかったな。
「悪い、気づいてなかった。ちょっと待ってくれ」
クランリストを操作して颯音でも引き出せるようにした。
てか、俺以外預けれるが引き出せない設定じゃん。全員引き出せるようにっと。
「おけ。これで引き出せると思う」
「サンキュー、そんじゃ船を修理してくるよ」
「任せた。少し疲れたから俺は一旦ログアウトするよ」
「了解。修理終わったら戻るわ」
「おう。ウィル、それじゃあな」
「はい、ゆっくり休んでくださいねハルナさん」
ウィルに手を振って俺はログアウトした。
ヘッドギアを外して横になっているとチャイム音が鳴る。
体を起こして玄関に行くと、ドアの向こうから話し声が聞こえてくる。
「おい! シオン! 今すぐ帰れよ!」
「嫌ですわ! ご友人様に会うまでは帰りませんわよ!」
俺はそっとドアを開ける。
そこには英国のお嬢様が来てそうな服装をしている女性と海都だった。
「えっと、近所迷惑なんで中にどうぞ」
「あら? 感謝いたしますわ」
女性は俺の横を通り、靴を脱いでから家に上がる。
「春名すまん」
「いいって。事情を説明してくれよ?」
「わかってる。颯音は?」
「まだゲームしてるよ。海都も上がれよ」
玄関を閉めて、海都と女性をリビングに案内してソファに座ってもらう。
飲み物を用意してから俺もソファに座った。
「で、こちらの方は? 海都の彼女……さんとか?」
「違いますわ。私は京空 雫恩。海都さんの許嫁ですわ!」
「許嫁? てことは、婚約者ってことか。流石は海都坊ちゃん」
「絶対それ言うと思ったわ! だから、内緒にしていたのに……」
海都はソファーに体を鎮めると、京空さんは海都の襟元を引っ張り、自分の膝上に頭を乗せる。
「もう好きにしてくれ……」
顔を手で返して小声でそんなことを言う海都。もう体力はゼロのようだ。
「話戻すけど、京空さんはここには何しに?」
ごほん、と咳払いをする京空さん。
「こちらを小日向さんに渡したくて」
紙袋から箱を取り出して渡された。
よくみると箱には高級お菓子店のロゴが入っていた。
「……なんで俺の名前を知っているんだ?」
「海都さんの交友関係は調査済みです。あなたのほかに立川さんのことも知っていますわ」
「へぇーなるほどな。自己紹介が遅れたけど小日向春名だ。春名って呼んでくれ」
「私のことも雫恩とお呼びください」
俺は雫恩と握手を交わした。
「もう用も済んだろう? 帰ってくれよ、雫恩」
「まだ用は終わっていませんわよ?」
海都の髪を弄りながら雫恩はそういう。
「あのさ、夕飯作るけど雫恩も食べていくか?」
「よろしいんですか?」
「一人ぐらい増えても構わないさ。寧ろ、ありがたい。全然食材が減らないんだよ」
「それでしたら微力ながらお手伝いいたしますわ。こう見えて料理には自身がありますの」
「へぇー。てっきり専属の料理人が居て、作ってくれていると思っていたから以外。あれか? 花嫁修業的な?」
「好きな男性の胃袋を掴むのはレディとしての嗜みですのよ?」
「だそうだけど、今の心境はどうでしょうか? 海都坊ちゃん」
「俺に話を振るな」
そんな話をしていると廊下に続いているドアが開く。
「騒がしいと思ったらお客さん?」
「海都の許嫁の京空雫恩。で、知ってると思うけどこっちが立川颯音」
俺は簡単に説明した。
「許嫁!? すっげぇ! ドラマや映画とかでしか見たことないよ。颯音って呼んでくれ、よろしく」
「雫恩とお呼びください。颯音さん」
「挨拶も終わったし夕飯を作るぞ」
料理は俺と雫恩で作って、それ以外の手伝いは颯音と海都にしてもらって夕飯にした。




