第235話

　ヒガネは元の姿であるアシッドポイズンスパイダーにならず、ハザードスパイダーに進化していた。

　よく見ると腹部にバイオハザードマークみたいな模様が見える。

『ハルナ、体は平気そう？』

「あー……うん、大丈夫……ん？　なんだデバフ？」

　俺に付いていた沢山のデバフが消えて、ヒガネの腹部にある模様と同じデバフが付いていた。

　効果は他のデバフを吸収して効果を無効にする代わりに俺のステータスが著しく低下するようだ。

　……今のステータスだと、マザースパイダーの攻撃を食らったらワンパンだな。てか、俺が最弱な気がする。

「キシャアアアアアアア！」　　

　目の色を真っ赤にさせ、眷族のモンスターたちに指示を出したかの一斉に突撃してくる。

『ハルナ、しっかり掴まってよね！』

「お、おう！」

　コガネの背にしっかり掴まると、コガネは駆け出し、空中を駆け上った。

「コガネ！　お前！」

『説明するの面倒くさいから後でスキルを見て』

『コガネ！　走るの早いよ！』

　文句を言いながらも後ろからヒガネも空中を駆けて追いついてくる。

「ヒガネ！　コガネ！　前！」

　俺たちの前方には無数の空飛ぶ蜘蛛が上空を埋めていた。

『あんな数なんて、問題ない！』

　ギロっとヒガネが目を開くと次々に蜘蛛が地上に落ちていく。

「コガネ、俺を地上に」

『貧弱なハルナは僕の背中で大人しく掴まってて』

　コガネの言葉が胸に突き刺さった。

「た、確かに今は貧弱だけども！　もうちょっと言い方ってものがさ！」

『はいはい。口を閉じないと舌を噛むよ』

「え……わああああああ！？」

　急に体がふわっと浮き上がると思った瞬間、コガネが落下して、飛んでくる極太の光線を躱す。

「いってぇ……舌噛んだ……」

『ほら、言ったじゃん。口を閉じないと噛むって』

「もうちょっと早く言ってくれ！」

　コガネはマザースパイダーの包囲網を抜けて距離をどんどん離す。

　すると、くるっと体を反転するコガネ。

「逃げるんじゃねーの？」

『油断したハルナに一発食らわせたから仕返しと……ただの私情！』

　コガネの体中にある黄金色の突起物が光りだすと、地上から小さくて黒い粒子がコガネの周りに集まりだして、空を埋め尽くす程の剣を生成していく。

『行け！』

　黒い剣はマザースパイダーがいる方に降り注ぎ、眷族共を蹴散らしていく。

　マザースパイダーも相当ダメージを受けるけど、まだ体力が三分の二もある。

『もう時間がないからこれで！』

　コガネは右前足を上空に向けると、空が暗くなりコガネの突起物に雷が落ちる。

　雷のエネルギーを吸収したコガネはさらに黄金色が増し、突き出した右前足にエネルギーが集中し始め、凝縮し光線としてコガネは撃ち込んだ。

　マザースパイダーも対抗して光線を放つけど、コガネが放った光線に飲み込まれ、直撃したマザースパイダーの沢山あった体力が一瞬で溶けた。

　俺はその光景を見て開いた口が塞がらなかった。

『ハルナ、もう時間みたい……』

「コガネ！？」

　コガネは意識を失い落下しながら体が小さくなっていく。

　急いでコガネを受け止めて白と赤の翅を展開。コガネは腕で抱えれるぐらいまで小さくなってしまった。コガネは初期のスパイダーに戻っていた。

　【女皇蟲の祝福】の進化を越えた進化って強制的に最終進化させ、莫大な力を得る代わりに初期に戻る効果だったのか。

　自分を犠牲に……いや、コガネのことだ。こんなこと言ったら怒るだろうな。

　それに、振り出しに戻ったのなら、もう一度レベル上げをすればいいだけだしね。

「コガネ……ご苦労様。ゆっくり休んでくれ」

　眠っているコガネの頭を撫でてから、コガネを戻した。

　マザースパイダーが居た地上に降り立ち、散らばった素材を回収していると宝箱を見つける。

　マザースパイダーを討伐した報酬かな？

　箱を開けると、禍々しい色をした宝玉と、蜘蛛の装飾が付いている指輪が入っていた。

「紫宝玉はこのエリアのボスモンスターを出現させるために必要なものか。もう一つは……叡智の蜘蛛指輪。各エリアの蜘蛛系のモンスターが力を貸してくれるけど一度でも攻撃をすると指輪は壊れると……」

　効果を読んで俺は引き攣った表情をする。

　うわー……これチートアイテムじゃん。

　【女皇蟲の祝福】はあくまで敵対しない効果で協力してくれるかはそいつ次第。だけど、この指輪のおかげで蜘蛛系のモンスターが無条件かどうかは分からないけど、力を貸してくれるのは普通に考えてもぶっ壊れてる。

　まぁ手に入ったなら付けておくか。

「取り忘れはない……な。よし、帰ろう」

　回収し忘れの素材が無いかを見渡してから俺は拠点に転移した。