第228話
ニアの進化項目をみて、俺はディルに尋ねた。
「なぁ、ディル。ニアの進化先が一つしかないのはティターニアになるためなのか?」
『そこまでは知らぬ。一つしかないのなら、そうなのだろう』
ニアの進化先はコクーンというモンスター。
コクーンってことは繭だよな。
クモガネとアカガネの時は繭の時期はなく、そのまま成体に進化した。
てことは、ニアが飛べるまでもう一回進化せないといけないのか。
『ハルナ?』
腕に抱いているニアが見上げてくる。
「ニアも進化しよっか」
そうニアに聞くとテントウムシのヘイムンダが言う。
『小虫ちゃん。女王様含め、私たちは祭壇でしか進化できないのよ』
「そんな仕様なんだ」
『場所は記憶しているかい?』
右肩にバッタのテオクエが乗って尋ねてくる。
俺はマップを開く。
「だいたいの場所は分かってるから行けると思う。飛んでいくから一旦戻すな」
ディルたち五体を戻し、残りのメンバーを呼び出して、クモガネとアカガネの翅を展開してから祭壇の場所に向かう。
樹海の上空を数分飛んで祭壇に到着。再度、ディルたちを呼び出して、それぞれの祭壇に運ぶ。
『ハルナ?』
不安そうに見上げてくるニアの頭を撫でた。
「ここにいるから安心して」
『……うん』
ニアは目を閉じると体が光りだす。
ニアに共鳴したのか他の四体も光りだした。
光りが収まるとニアは繭に包まれていた。
「これは……生きているのか? ニア? おーい」
繭を突っついても、呼びかけても反応が返ってこない。
『女王様はまだ眠っておる』
ディルの声が聞こえ振り返ると、ヤゴの姿から濃い青系の複眼に、黄色のラインが入っている黒い体。どこからどう見ても成体のトンボだ。
他の三体も進化して、ヘイムンダは赤い背中に白色の水玉模様のあるよく見かけるテントウムシ。
テオクエは少し黄色より緑色のバッタ。
ウシャスラも両腕に鋭い鎌がある濃い緑色したカマキリになった。
「眠ってんのか……一つ質問。この状況って攻撃もスキルも使えないんだよな?」
『そうだ』
「じゃあどうやってレベル上げて進化させんだよ? これ」
『女王様の頭上を見てみろ』
ディルに言われて見てみたら、頭上にカウントが表示されていた。
「あれ、なに?」
『女王様が眠られている間、この祭壇にモンスターが襲撃してくる。お前には、女王様のカウントが消えるまで守ってもらいたい』
「マジで……? 聞いてないんだけど!」
一時間のカウントが動き始めた。
『我らも手を貸す』
俺は溜息を吐いた。
「それで、出てくるモンスターとか分かってるのか?」
『このエリアのモンスターがほとんどだ。最初は弱いモンスターが出現するが、カウントが十分経過するごとにモンスターは強化されていく』
「それだと、俺の【女皇蟲の祝福】の効果は適応すんの?」
『そこまでは分からぬ』
「了解。みんな、【共鳴】を解除してくれ」
コガネたちは共鳴を解除して並ぶ。
遠くの方を見るとレベルが一桁台のモンスターたちが迫ってきていた。
あの中に虫系のモンスターはいないようだな。
楽が出来ると思ったんだけど仕方ないか。
「段々とモンスターが強くなるから油断すんなよー」
レベル上げも兼ねてディルたちがメインで動き、コガネたちはサポートに回ったりしてニアの防衛イベントは順調に経過していく。
何故か虫系のモンスターは出てこないな。
「残り十分……」
迫りくるモンスターのレベルはカンストの大型ばっかり。
俺が指示をしなくてもコガネたちはチームを分けて各々モンスターを討伐していく。流石にキツイ場面は俺もサポートに回った。
最後のモンスターを倒すと、静寂が訪れ、カウントもゼロになった。
「これで……終わり?」
『ああ、これで終わりだ。女王様も直ぐに目覚めるだろう』
少しすると繭は明滅しだし、段々と光は強くなり、繭の中から翅のようなものが伸び、パタパタと翅が動き出すと、繭から飛び出してきて、俺の目の前で止まる。
光が収まると、ニアの姿翅に幾何学模様を持つ黒い蝶だった。
「おお、すっげぇ綺麗だぞニア」
『本当? えへへ! ありがとうハルナ』
『『『『女王様!』』』』
ディルたちが一斉に女王様と呼んだせいでニアは俺の後ろに隠れてしまった。
『ニアは女王様じゃないもん! ニアは二アだもん!』
そう言い返されディルたちは凹んだ。
進化しても記憶は戻っていないのか。
すると、ヘイムンダが周囲を見渡し始める。
『小虫ちゃん、今すぐにここから離れて』
「え、どうかした――」
『急いで!』
「お、おう!」
ヘイムンダに急かされて、俺は全員を戻してから拠点に転移した。




