第224話
颯音がフェンリルと戦っている間、俺は他のモンスターやプレイヤーが来ないように見張る。
「なぁ、助けなくていいのか?」
海都は困惑した表情で聞いてくる。
「あいつが求めてきたらでいいよ。今は思う存分やらせておいた方が良い」
「春名がそういうなら……」
海都はいつでも援護できるように弓を手に持って颯音を見守った。
「海都、一つ質問していいか?」
「なんだ?」
「リュウオウってこのエリアはまともに動けない感じ?」
雪原エリアに来て海都はリュウオウを一度も呼び出していないことを尋ねた。
「いや、動けるっちゃ動けるけど……雪を見るとはしゃぐんだよなぁ……」
「あー……なるほど」
あの巨体ではしゃがれたら周りに迷惑が掛かるか。
それに、と海都は続ける。
「リュウオウと共鳴したところで、ダメージの通りは普通……むしろ微妙な感じになるから呼び出さないだけだ」
「リュウオウと共鳴したら水属性になるもんな」
――ああああああああああああああ!
海都と話していたら颯音の叫び声が聞こえ、視線を向けると宙に舞い上がって俺たちの方に飛んでくる。
「海都、フェンリルの動きは?」
「不気味なぐらいジッとしているぞ」
「そう。クモガネ、アイン。颯音が落下する辺りに薄い氷の板を作ってくれないか?」
『お任せを!』
『はーい』
二体は空中にいくつもの薄い氷の板を作り、颯音は板を割りながら落ちてくる。
板のおかげで大分速度を落とし最後に俺は受け止めた。
「……もうちょっとマシな受け止め方なかったの?」
「そんなこと言えるならまだ余裕なんだろう?」
「ちょっと油断してぶっ飛ばされたけど、まだまだ行ける」
待っているフェンリルを見つめる颯音。
「回復はいらないんだろう?」
「おう」
「頑張れよ」
俺は颯音の背中を軽く叩くと、颯音は軽快に駆けていく。
再び、颯音とフェンリルによる激闘が繰り広げられる。
颯音の体力はみるみるうちに減っていく。
「あれ……本当に平気なんだよな……?」
「颯音を信じるしかない」
様子を見守っていると颯音とフェンリルは距離を開けた。
お互いの体力は残り僅か。
「ウオオオオオオン!!」
フェンリルが雄叫びを上げると、上空に鋭く巨大な氷柱が沢山生成され、一斉に颯音に向かって落下する。
「【共鳴技……!!】」
颯音は氷柱を全て躱して、フェンリルの懐に入った。
「【ゼロディゾルブ】!!」
颯音の拳が光りだして、思いっ切りフェンリルの顎下に強烈なアッパーを決めた。
フェンリルの体力はなくなり、消滅すると、フェンリルがいたところに宝箱が現れた。
俺は【治癒蜂兵】を飛ばして、颯音の体力を回復させた。
倒れそうになる颯音を駆け付けた海都が支える。
「無茶し過ぎ。助けを呼べよな」
「あはは……悪い。海都、悪いんだけど宝箱まで連れていってくんない? さっきの共鳴技の反動でしばらく足が動きそうにない」
「わかった」
俺も颯音の肩を支えるのを手伝う。
「サンキュー春名」
「気にすんな」
宝箱の前に連れていき、三人で宝箱を開けると、中には多角形の水晶の中に光る石が二個と白い球体のモノが入っていた。
確認してみると光る石は神狼の核というアイテムで、白い球体はモンスターの卵だった。
「おおお! 核来た!! それも二つ! めちゃくちゃ嬉しい!!」
「何に使うんだ?」
「ヒスイとギンの最終進化に必要になんだ。はぁ……これで進化……あ! 毛皮が微妙に足りない……」
喜んだり落ち込んだり忙しい奴だな。
ヒスイとギンはもう最終進化なんだ。追い越されたな。
「まだ、転がっているみたいだから拾ってくるよ。颯音は休んでてくれ」
「海都、俺も手伝う」
颯音を座らせてから回収しきれてない素材を集めに行く。
直ぐに集め終えて颯音に渡した。
「どう? 足りそう?」
「バッチリ! ヒスイ、ギン」
二体は心配している様子で顔を近づけると颯音は優しく撫でる。
「大丈夫だよ。ヒスイ、ギン。進化が出来るようになったよ」
そう言うと二体は尻尾を激しく振る。
「準備するから待ってて」
立ち上がった颯音はインベントリから必要な素材を二体の前に並べていく。
神狼の核を両手に持って颯音は二体の前に行く。
「そんじゃいくよ」
颯音は両手に持っている神狼の核を思いっ切りぶつけて割った。
すると、粉々になった神狼の核は素材の方に流れていき、素材を全て吸収して、二体を包み込んだ。
二体は激しい光を放ちどんどん姿が大きくなっていく。
光が収まると、ギンはさっき戦っていたフェンリルと同じ姿だけど、ヒスイは微妙に違う。
ヒスイは首周りの毛がさらにもこもこで尻尾が二つ。額にエメラルドみたいな色をした玉が付いている。 よく見るとギンの額にも真珠のようなものが付いていた。それに、二体の足首にはブレスレットが装着されている。
「おめでとうヒスイ! ギン!」
「「ワフ!」」
颯音が撫でやすいように二体は頭を下げ、颯音は思いっ切り撫でまわした。




