第192話
・颯音視点
春名たちと別れてから俺とベオルさんとユリーナさんのAグループは順調に進んで行った。
基本的にソロか春名と海都で組んでいたからベオルさんとユリーナさんと組むのすっげぇ新鮮。
そして気づいたのがベオルさんとユリーナさんの安定感がヤバイ。
絶対的な守りのベオルさんにサポートだと思いきや超攻撃型のユリーナさん。二人のおかげで俺は結構自由に動けている。
今思い返せば春名と海都の時は連携という連携はしてないな。だから、俺らでの共鳴技がないのはそのせいか。まぁヒスイとギンの共鳴技あるから別にいいんだけど。春名と海都もそう思っているだろう。
「少し休憩をしようか。ユリーナ」
「わかってます」
ユリーナさんは結界を張ってくれた。
「この結界の中にいればモンスターは入ってこない」
「すっげぇ……! ユリーナさん凄いですね!」
「ふふ、これぐらい余裕よ。それよりもハヤト君、ギンとヒスイを触ってもみてもいい?」
「ちょっと聞いてみますね。ヒスイ、ギン」
俺は武器と一体になっている二体の狼を呼ぶと俺の隣に姿を見せる。
「ヒスイ、ギン。ユリーナさんが触りたいっていいかな?」
『僕は良いよ』
『私も』
「ありがとう。ユリーナさん、触って良いそうです」
「わあ、ありがとう! それじゃあ」
ユリーナさんはゆっくり触ってから順番に首に腕を回してふわふわした毛並みを堪能しだす。
「すまんハヤト」
「いえいえ。ヒスイとギンも喜んでいるみたいだから気にしないでください」
「そうか」
「ベオルさんも触っていいですからね」
「い、いや……俺は遠慮するよ……」
「ハヤト君、ベオルは犬が怖いんですよ」
「え、そうなんですか!?」
意外な弱点に俺は声をあげて驚く。
「小さい頃、確か……小学生の時かしら、私が犬に襲われそうになっているとき大樹が……」
「ユリーナ、本名を言うな」
「あら、ごめんなさい。つい……」
溜息を零すベオルさん。本名ダイキって言うんだ。
「えっと、どこまで話しましたっけ……」
「犬に襲われているところをダイ……ちがった。ベオルさんが助けに来たところまで」
「そうでした。それで大樹が」
「ユリーナ……ワザとやっているだろう? ハヤトもちゃっかり乗るな」
「あはは……ごめんなさい」
「ふふ、ごめんなさいね。えっと……話の続きだけど、間に入ったベオルが犬を撃退してくれたの。その時に大怪我をして、それがきっかけで犬が苦手になっちゃったのよ」
「へぇー。ベオルさんカッコいいじゃないすか!」
「……そ、そろそろ行くぞ」
立ち上がったベオルさんはスタスタと早足で結界を出ていく。
俺とユリーナさんも急いで後を追い駆けた。
「今のうちだ!」
「【地烈拳】!」
「【六推柱】」
ベオルさんがモンスターの大群の敵視を集めている間に俺とユリーナさんで殲滅していく。
春名も敵視を集めるスキルを持っているけど、コガネたちの敵視を自分に向けさせる時しか使わないよな。
「粗方倒せたな」
「ん? 春名からメッセージだ」
「俺にも来たな」
「私も来たわ」
内容は船内にウォルという獣人族の少年がいるから見つけたら連絡をくれとのこと。
ベオルさんとユリーナさんも同じ内容が送られているようだ。
「獣人族? それって来週のアプデで追加されるNPCじゃなかったっけ?」
「そのはずだ」
「何かしら特殊なイベントに遭遇したようね」
「見つけたら連絡するっと。メッセージ送っときました」
「よし、先に行くぞ」
モンスターを倒しつつ進んで行く大きなホールに出る。
『フフフ……』
不気味な笑い声が聞こえ俺たちは武器を構える。
『ねぇ……僕と遊んでよ』
天井付近に小奇麗な少年が姿を見せる。
少年は漂う幽霊という名前でレベルが50だった。道中のモンスターは大体40前後。名前の横にボスの表記が無いから中ボスかも。
「【多重結界】」
詠唱を終えたユリーナさんが漂う幽霊の少年を多重の結界で封じ込めた。
俺は一気に詰めて最大威力でぶん殴る。
結界はバラバラに砕けるも幽霊の姿はなかった。
「どこいった……」
『ばあ!』
「うわああ!?」
驚いた拍子に後ろに倒れ尻餅をついてしまった。
『アハハ! お兄さん面白い!』
ケラケラと漂いながら笑う幽霊に少しだけイラつく。
「なんなんだよ、お前……」
『僕? □□□だよ』
「はぁ? 今なんて――」
聞き返そうとした時、床が抜けて俺はそのまま落ちていった。
「クッソ……! 【蒼空脚】!」
空中で蹴り技を繰り出して落下の衝撃を和らげどうにか地面に着地できた。
「うわー……すっげぇ遠いじゃん」
上を見上げて溜息をつく。これはもう戻れそうにないな。
ベオルさんとユリーナさんに無事のメッセージを送った。
「さて、どうしようか……」
『わっ!』
「っ! ……マジでお前……!」
『アハハ』
段々とイライラがこみ上げて拳を握っていると、直ぐ近くで何かが落ちてきた。
砂煙が晴れると子供を抱えた春名だった。




