第177話
『ハルナ! 卵は……!』
拠点に戻って休む暇なくコガネが聞いてくる。
俺はインベントリを確認した。
卵にはスパイダーと表記されていてその横には【ヒガネ】と小さく書いてあった。
テイムは成功したのか? だけど、ヒガネは卵になってしまった。でも、失敗したら消滅するってカルトが言ってたし、一応成功なのかもしれない。
こうなった原因は絶対【眷属契約】のせいだな、これは。
ヒガネには悪いことしたな。孵化してくるヒガネに謝ろう。
「卵は無事だから安心してくれコガネ」
『そう……』
胸を撫でおろすコガネ。
『卵、孵化させるよね?』
「勿論だけど……スパイダーで生まれてくるかも……」
『そうなの?』
「孵化してみないとなんとも」
立ち上がった俺は改造された家に入る。
「えっと、孵化装置はっと……」
ドア近くに貼ってある内装マップを見ると一階にある俺の部屋に置いてあるみたい。
てか、俺以外全員二階なんだけど……まぁいいや。
リビングを抜けて奥部屋に向かう。
「お邪魔します……」
部屋はそこそこ広くて、大きいベッドにテーブルとイス、タンスなどの家具一式が設置されていた。
そして、床には孵化装置が置かれていてる。ほとんど占領してんな。こんど移動しておこう。
孵化装置に近づいて、装置の中に卵を入れ蓋を閉め、起動させる。孵化まで一時間だな。
『ハルナ、どんな感じ?』
部屋にそっと入ってくるコガネが尋ねる。
「時間になったら孵化するからそれまで待ってて」
『ここにいてもいい?』
「いいけど……孵化したら呼ぶぞ?」
『見ていたいの』
「そう? じゃあ、俺はリビングにいるから孵化したら呼んでくれ」
『うん』
俺は部屋を出てリビングに向かう。
ソファーに座り、ハガネを呼び出す。
床にいるハガネを持ち上げ膝の上に乗せて、蜂蜜を食べさせる。食べるのゆっくりだな。
「春名、もう来てたんだねってまた新しいのテイムしたの?」
ドアが開き颯音が入ってくる。
「おう、スタッグビートルワームのハガネだ」
「そんなにテイムして、育成順調なの?」
「うーん、どうだろう。ん? もういいのか?」
スタッグビートルワームは満腹になったのか蜂蜜を食べなくなった。
スタッグビートルワームの進化項目を見てみると、満足度のゲージはまだ半分ぐらいしか溜まっていない。少し進化するのは遅くなるかな。まぁ気長に行こう。
「春名春名! 見せたいものがあるんだ! 外に来てくれ」
壁掛け時計を見ると孵化までもう少し時間があるな。
「わかった、行くよ」
「びっくりすると思うぜ」
颯音の後を追って外に出る。
「ヒスイ! ギン!」
颯音は二体の狼を呼び出すが、二体の体格はかなり大きくなっていて颯音の背を余裕で越していた。
それに顔立ちが凛々しい気がするし、もふもふ感が増えたな。
「おお、進化したんだな」
「ヒスイがサイクロンウルフでギンがグレイシアウルフに進化したんだ。まぁまたレベル上げしなきゃいけないけど」
「そうだな。まぁおめでとう颯音」
「おう!」
颯音は満面の笑みになる。
「その様子だと、念話は取れたようだな」
「勿論! 【念話(狼)】ってスキル。こいつらと話せるってすっげぇ感動するな!」
「分かるわ、その気持ち」
うんうんと俺は頷く。
「よっすーってデカいな、おい」
ログインした海都はヒスイとギンの姿を見て驚く。
「へへ、昨日進化したんだ」
「お、自慢か? だったら俺も、リュウオウ!」
呼び出されたリュウオウは海都の腰辺りまで成長していた。
少しだけ可愛さが減った気がする。
「ブルードラゴンからアクアドラゴンに進化したんだ」
颯音が呆れ気味に言う。
「どんだけレベル上げしてたんだよ……」
「一日中かな」
「やり過ぎだって」
眠り入ったハガネを抱えながら俺は言う。
「颯音も同類だよ」
「確かに」
「うぅ……反論できない……」
そんな会話をしていると家のドアが凄い勢いで開く。
『ハルナ! 孵化するよ!』
「お、おう。今行く」
俺は寝ているハガネを戻して自分の部屋に向かった。




