第162話
「千年……流石に冗談ですよね?」
「信じるかどうかはお主に任せよう」
「なんですかそれ……」
店主の話し方だと冗談ぽく聞こえないし、どっちだろう……
考えていると、店主が噴き出し笑う。
「面白い奴だのう。冗談に決まっておるだろう」
「やっぱり冗談でしたか……」
「多分……」
「多分!?」
「嘘じゃよ、本当に面白い反応をしてくれるのう」
ケラケラと笑う店主は奥の方に歩ていく。
しばらくすると、店内の照明がついた。
「お主、名は?」
「俺はハルナです」
「ハルナというのじゃな。儂はオピオ」
店主のオピオは畳が敷かれているところに腰かける。
「畳まであるんだ……ここだけなんか世界観が別ですね」
「はは、無理言って作成してもらったからのう。儂のお気に入りの場所じゃ」
俺はそっと本を棚に戻した。
「もう行くのかの?」
「はい。また来ますね」
「うぬ」
店主のオピオに一礼してから暖簾をくぐってお店を出る。
しばらく道を進みルーシャさんのお店の前に着く。
外から様子を窺たけど、モレルさんとルーシャさんの姿は見えず、NPCのアルバイトの人たちしかいなかった。
プレイヤーカードを見ても確かに二人はいない。まぁ社会人だし、仕事だもんな。
俺は店内に入って適当に洋菓子を買いお店をでる。
そして、当初の予定通り船に乗り海原を散策した。
「うーん、全然島が見つからない……?」
島が見つからず愚痴をこぼしていると、レーダーに反応があった。
反応がある方に進んで行く、髑髏の形をした大岩をみつける。
これって、海賊船が出る奴だよな……
前に海賊船に追われたことを思い出す。
「お、出てきたな……」
急に霧が発生すると、霧の向こう側から大型の黒い海賊船が一隻出現した。
操縦室にある双眼鏡で海賊船を確認する。
船にはガラの悪い海賊が沢山いる。レベルは40とそこそこ高い。
リヴァイアサン戦でコガネたちは大きくレベルが上がっているし行けるかな。
アインたちには厳しいと思うけど、そこは俺がサポートすればいいか。
――ドぅン!!
船の近くに水柱が上がる。
「やっべ……!」
俺は急いで船を動かして、海賊船から放たれている大砲の弾を避ける。
船が大きくなったことで避けきれず、船の耐久値がごりごり減っている。船が壊れるのはまずい!
俺はアオガネ呼び出して、水中呼吸機を咥え、船をインベントリに戻した。
空中に投げ出された俺はアオガネに掴まり、海中に飛び込み、衝撃が届かない深さまで避難した。
『どういう状況なんだ、これは』
リヴァイアサン戦の時のようなやる気のある口調になるアオガネが聞いてくる。
『海賊に遭遇してな、大砲の弾を避けてたところ。アオガネ、海賊船の――』
海賊船の下まで行ってくれという前に、アオガネは体を光の粒子にして黒い球体と一体になる。
『こっちの方が早い、行くぞハルナ』
「お、おう」
いつもと違うアオガネに戸惑いつつ海賊船の下に向かった。
『【大渦】!』
アオガネの目が光る小さな渦は段々と大きく広がって行き海賊船を飲み込む。そのお陰で海賊船は動かなくなった。
アオガネのスキル【大渦】。水中限定だけど、広範囲で拘束出来るのは強い。
『アオガネ、海賊船から落ちた海賊を頼むぞ』
『任せろ!』
アオガネと【共鳴】を解除して、糸を伸ばして一気に海面に上がり、海賊船のデッキに着地した。
「侵入者だ! 殺せ!」
「物騒だな……! コガネ!」
俺がコガネを呼び出すと、海賊たちの足が止まる。
『変なところに呼び出して……お菓子はあるの?』
「あるから、暴れてくれコガネ」
『わかった』
一体の海賊に飛び掛かり、鋭い牙で噛み付く。
他の海賊が剣で切りかかりそうなところを、俺は盾を飛ばして防ぐ。
『そんなのいいから、他のメンバー呼んで!』
「そんなのって……、わかったよ」
俺は残りの全員を呼び出した。
「みんな! 思う存分に暴れていけ!」
『『『我らにお任せあれ!』』』
アインたちがやる気満々に海賊たちに突撃していく。
『みんなの回復に回るね』
「おう……っ! シロガネ後……ろ」
『ん?』
シロガネの後ろにいつの間に海賊が現れ、カバーに入ろうとしたら、突然海賊はばたりと倒れ込む。
かすかに漂う甘い香り。シロガネのスキル【スイートパラライズ】か。甘い香りで相手を麻痺状態にさせるスキルだ。
『私にかかればこんなの楽勝よ』
「あはは、あんま無茶すんなよ」
『心配性なんだから……』
やれやれといったような表情をするシロガネ。
『床ぶち抜きたい……』
クロガネからとんでも発言が聞こえてきた。
「それは流石にまずいからやめてくれ」
『分かったわよ……』
渋々とクロガネは石の礫を飛ばして迎撃する。
『【凍てつく舞】!』
『【炎の舞】!』
クモガネとアカガネの周りに雪と火の粉が舞って海賊たちを撃退していく。
あの二体のスキルは相反するのにすげぇな。
よし、俺もがんばろうっと!
みんなのことを気にしながら俺も海賊たちを倒していく。
「俺様の子分をよくもやったな!」
突如、銃声が鳴り響き、視線を向けると、体格が一回り大きく、右手がフック状の義手、左足が木の義足という、テンプレート通りの海賊船長が現れた。




