共闘しよう
「うおぉぉ!すげぇぇ!」「可愛い!怖い!」「兎串いかがですかー!」
気が付くと観客席には沢山の人が居た。あぁ……一回戦の時イベント失敗なんじゃないか?って思ったけど単純に僕の居たフィールドに華が無かっただけか……
両手の斧で攻撃を防ぎつつ、隙を見つけたら斧を振るってくる。遠距離から魔法でも撃とうとしている人が居ればその人に向かって斧を投げつける。片方の斧が無くなったからチャンスと攻めに行った人はブーメランのように戻って来た斧が背中に刺さるという不意打ちで沈められた。そして倒された人の背中から斧が抜けてピンク髪の手の中に戻っていく……戦法が完成されてる……
「近寄るのさえ難しくない……?」
あの斧が自由に動かせるのかは分からないけど見た感じ投げた時はある程度直線的に、回収する時にその線上に敵が居たらその敵に攻撃出来るのかな?
「アハハッ!楽しい!楽しいよ!」
悩んでいる内にドンドン人数が減っていく。人数が減ればフィールドはドンドン狭くなっていく。狭くなるという事はあのピンク髪のヤベー奴に近寄って行かなければならないという事……一回戦で彼女以外が全滅するのも分かる
果たして煙玉を使って近寄ったとしても彼女なら普通に何てこと無い状態で他の人もキルしそうだ……【擬態】のお陰で今の所は僕の方に狙いは向いて無いけど、もう彼女なら僕の存在に気が付いていてもおかしくないと想定しながら動いた方が良さそうだ
「そこの君」
「……」
「地面で伏せてるそこの君」
「ん?僕?」
横から誰かに話しかけられる。殺気的な雰囲気を感じなかったから別に構えずにやり過ごしを選択したけど【擬態】を見破られたみたいだ。これ攻撃されてたらちょっと危なかったかも
「あの子……倒せると思うか?」
「一人じゃ、無理ですね……」
あんなの相手に他の人も注意しながら戦うとか僕が出来る相手じゃない。無制限に出た事をちょっと後悔しかけた
「私も協力すれば倒せるのか?」
「倒すっていうか。出来て場外勝ちくらいですね」
そう、場外勝ちが関の山だ。というかこの人はなんだ?あのピンク髪から視線を逸らすのは危険だけど若干左の方を少し向き、ピンク髪と話しかけてきた人を視界内に捉える。その人は紫色の長い髪と黒と青の袴姿に胸当てという恰好で腰に刀を佩いている。凄い美人だ……おっと、気を取られている間にまた一人やられた。
「とりあえず煙玉を投げるのでその隙に誰か一人くらい戦闘不能の状態にしてくれれば良いですかね」
「戦闘不能?倒す訳じゃ無く?」
「倒しちゃったら戦場が狭くなっちゃうので、もし出来るなら合図が聞こえたらキルしてくれれば勝てる……かな?」
「なるほど、承知した」
近距離戦闘をするにしても戦場のど真ん中にいるピンク髪は動かさないと場外に出すのは大変だ。こっちのタイミングで戦場の収縮をコントロール出来るなら行動しやすいからいつでも倒せる状態で残しておく事があの人攻略の糸口だと思う
「アハハハハッ!」
「残り6人……あの人かなり強いなぁ……」
近くに人が居なくなったので両手の斧を交互に投げて一人ずつキルしにかかるピンク髪。もう話し合ってる時間が無いな……
「とりあえずもう投げるんで後は頑張ってください」
袴の人の返事は聞かない。成功すれば勝ち上がりが出来るかもしれないし、失敗したら僕の初イベントはここまでだ
煙玉をピンク髪に向けて投げる。戦場の中心に居るからどっちみちピンク髪の方に投げるんだけどね
「なにこれ?」
なにこれ?と言いながらも斧で煙玉叩き落とすピンク髪。だが、叩き落としたと同時に煙が噴き出す
「うわっぷ!」
煙のある内にピンク髪に走り寄る。怖いけど勝つにはやるしかないなぁ!
「新しい人が来た!」
走り寄る足音でこちらの存在に気が付くピンク髪。というか当然の様に視界が悪い中、僕に向かって正確に斧を投げてくるなぁ?
「出来れば退場してくれると助かるんだけど」
斧を回避しながら接近する。戻ってくる斧は……対処できるかはその時の僕次第だ
「退場させたかったらっ!勝つしかないよねっ!」
片手に残った斧を左右に振りながら僕の迎撃をする。ただむやみに振っている訳じゃ無く、上半身を裂くような横降りをした後、返しの振りは膝部分を狙ってくる中々に殺意高い攻撃。スローモーションで斧を避けつつ、ピンク髪の顔を見たらめっちゃ笑顔だった。戦う事が本当に好きそうだ
「っ!」
「へぇ?これ、避けれるんだっ!」
嫌な風切り音が背後からしたので地面に這い蹲るように伏せる。すると僕の背中の上、ギリギリを斧が飛んで彼女の手に戻ってきた。危なかった……
「そろそろ僕もやらせてもらうよ!」
「そう来なくっちゃ!【斧噛】!」
「それは見たよ!」
さっき見た技だ。上下に斧を構えて挟む様な動きの後、鰐の顎みたいな物が出てくる……だとしたらここは前に出る!
ピンク髪との距離を詰め、【ディザーム】を発動して下から振り上げている左手の斧を奪い取る。上から振り下ろされる斧はピンク髪の顔に触れそうなくらい近寄って持ち手の部分に右手を当てて受け流す
「!?」
斧の片方を奪ったからなのか、鰐の顎は現れなかった。笑顔だった顔は驚愕の表情になる
「【インパク】!」
練習していたお陰で知ったが、この【インパク】手からだけでは無く、体の表面からならどこからでも出せる。だから肩から【インパク】を発動し、戦場の中心からピンク髪を動かす事に成功した
まだ一回かぁ……




