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宿泊

「ここだ」

「ん?ここ宿屋なんですか?」

 案内されたのは看板に袋のようなマークが付いている……これ道具屋じゃないの?


「まぁ少し違うが、入ってくれ」

「は、はい」

 あれ?ちょっと心配になってきたぞ?


「いらっしゃいま……なんだあんたか……」

「あぁ!この冷たい態度!もっとお願いします!」

「えっ……」

 まともな人(内面のみ)かと思っていたけどどうやら少し見誤ったかな?


「大体、あんたのせいで全然旅人さんが道具を買ってくれなくて困ってるんだから!」

「だから私が全部買うって言ってるじゃないか……」

「それは、何か違うからダメ」

「くぅー、上手くいかないものだ」

 金髪の女性店員さんとハスバカゲロウさんはどういう関係性なんだろうか?


「あの……」

「え?もしかして旅人さん?どうぞどうぞ!何でも買って行ってください!」

 僕が声を掛けると店員さんみたいな人がハスバカゲロウさんを突き飛ばしてこっちにやって来た。突き飛ばされたハスバカゲロウはというと……


「私に対してのこの態度とお客さんへの差!たまらん!」

 ひょっとして雑に扱われた方が良いタイプの人なんだろうか?どことなくMっぽいとは思っていたけどこれは所謂ドMという奴なのでは?


「あんまりお金とか持ってないんですけど……というか宿を探してこの人について来ただけなんです……」

 ハスバカゲロウさんを指差して本当の目的を告げて謝る。なんか勘違いさせてとても申し訳ない。泊まる代金が余ったら何か買っても良いかも。


「宿?あぁ……2階の方が目的だったのね。1泊30Gよ」

「えっ?多分だけど安すぎません?桁1つ間違ってないですか?」

 安いのは良いけど安すぎると逆に不安になる。というかこれが相場なのかな?


「他の店に比べたら圧倒的に安いわよ?まぁご飯も何も出ないし、部屋も狭いけど……」

 本当に泊まるだけ……ログアウトするだけって考えればとてもありがたい所かもしれない。


「それなら今から泊まるって出来ます?」

「ええ、いいわよ?お客さん1名様ね?」

「はい、ではこれで」

 30G(銅貨3枚)を渡し、代わりに「2」と書かれた木札を貰う。これが鍵なのかな?


「扉にその木札を当てれば開くから」

「あ、ちょっと待って下さい」

「ん?まだ何かあります?」

 木札の使い方を教えてくれた店員さんが何処かに行こうとしていたので呼び止める。


「何か道具を修理する物とかってあります?ちょっと壊れそうな物があって……」

 薬研がそろそろ壊れそうだったので今は使用を控えている。多分だけど毒性とか強い物を扱うと耐久値の減りが早い……んじゃないかなぁ?って思ってる。


「あらあら!道具を修理する物をお探し!?それでしたら……これなんかどうです!?」

 物を探してるって言ったら目を輝かせて何か袋のような物を持ってきた。なんだろうこれ?


「これは?」

「修復の粉末です!壊れかけている物にふりかければ耐久値が回復します!今なら6,000Gのところを4500Gまでおまけしますよ!」

「うぉっ、たっかい……」

 ほぼ全財産なんですけど……いっか!買っちゃえ!


「4500Gならギリッギリ払えます。ソレ買います!」

「ありがとうございます!やった!やっと売れた!」

「ん!?ちょっと待て?ハチ君?君所持金は今いくらだい?」

「えっと、この袋の代金と部屋代を払ったんで……32Gですね!」

 本当にほとんど全て出し切った感ある。銀貨4枚とさっきより大きい銅貨5枚を渡した事でお財布がほぼ空っぽで投銭術の分が辛うじて残ってる程度だ……何か売れば良いかもしれないけど今は別にいいや。正直困ったら森に行けばご飯は食べられるし、木の上に行けば……いや、意外と地面で寝っ転がってもスルーされるかもしれない。やっぱ僕、街より森の方が合ってるんじゃないかなぁ?お金は使う物じゃなくて投げる物だ。


「所持金の9割以上を一度の買い物で消費する……って事は!」

「今まで全然売れなかったけど、お客さんのお陰でこの道具屋をやっていく自信がついたよ!私、もっと良い物を作ってみせる!」


『発展クエスト 道具屋の悩み をクリア』


 おや?なんだろう?僕はクエストなんて受けてないぞ?

「ありがとう。君のお陰でクエストがクリア出来たよ」

「え?まぁ良い物買えたんで僕は別に良いんですけど……うわっ時間ヤバい。ごめんなさい僕もう落ちますね?じゃあ部屋お借りします」

「ごゆっくりー!」

 金髪店員さんに手を振られながら2階に向かう。部屋が6つあって「2」と書かれた扉に木札をコツンと当てるとカチャリと鍵の開くような音がした。部屋に入ると中はベッドとサイドテーブルがあるだけ……とても簡素だ。


「早く寝ないと明日に響くぞー」

 ベッドに寝ころび、すぐにログアウトする。現実に戻ったらすぐに寝ないと明日は昼過ぎに起きる事になりそうだ。




「まさかこのクエストをクリア出来るとは……条件がキツ過ぎると思っていたがクリア出来る物なのだな……」

 ハスバカゲロウが受けていたこの『発展クエスト 道具屋の悩み』はクリア条件としてこのクエスト内容の事は秘密にしてプレイヤーを連れて来て尚且つ所持金の9割を消費してくれると道具屋の店員が自信を取り戻す……というクエストだったのだが、ハスバカゲロウ自身もクリア出来るとは思っても居なかった。


「私の作った道具が売れた!やった!あんたのお陰だよ!」

「感謝されるのはムズムズして好かないんだが……とにかく私では無く、彼のお陰だな」

 そもそも所持金の9割も道具屋で使う事自体があり得ないと思っていたハスバカゲロウはこのクエストを放棄しようか迷っていた時にハチが声を掛けてきたのだ。一縷の望みでハチをこのフェイの道具屋に連れてきた所まさかのクエストクリアだ。


「彼は大物になる気がするな」

 腕を組みながらうんうんと一人頷くスク水頭巾であった。



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― 新着の感想 ―
ドM変態紳士だったか
[気になる点] …ハスバカゲロウが常識人であることを前言撤回しそうですが…主人公に対しての先見の明があるところを見ると…私としては否定するのはフェアではないし…変な性癖持ちの常識人として記憶しておきま…
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