艦長の責務
「この無人島でお店を開くのは……いや、やっぱり私達も動く方が良いか」
「護衛するという事を考えるとその方が良いかもしれませんね。海賊船のイベントですし、やっぱり航海をしないと勿体無いでしょうから」
まぁ、補給用のショップ島的な物が有れば確かに助かるは助かるが、もし、ここにマンマミーヤンが腰を据えるとなると、僕らも護衛と補充とかで、この近辺から離れられなくなる。それは少し勘弁してもらいたい。せっかくならもっと面白そうな物が無いか調べたいし……
「そうね。その方が……ん?」
「ん?何かメッセージが」
「俺もだ」
「私も!」
何か島で休んで居たら全員にメッセージの通知が来た。何だろう?
『緊急討伐クエストが発令されました。指定の海域にて、謎の巨大生物が大規模海賊船団を襲っています。このままだと海賊船を全て破壊されてしまい、報酬が大幅に減る可能性がございます。皆様で協力して、この謎の巨大生物を討伐しましょう』
ほうほう。海賊船を襲うのは僕らだけじゃないのか。謎の巨大生物……これは中々面白そうな事の匂いがする
「どうしましょう?なんだか面白そうなミッションが発令されたみたいですけど」
「どうだろう。これはもしかするとこのイベントの折り返し地点なのか、それとも、何かしらの誘導か……」
「うーん……ちょっと通信してきます」
誘導だとしたら、これは割と僕らに対しての誘導じゃないだろうか?運営が僕らの船を沈める為にイベント中に出て来るボスとして用意した可能性は全然あり得る。となると、多分水上は普通の船でも倒せる能力値で、水中はとんでもなく強い敵とか……
「ネレイドさん。この緊急討伐クエストに参加しようと思うんだけど、多分かなりの苦戦を強いられる気がする。だから念の為、新武装とかまだあるなら情報共有しておきたい」
僕に勝つ為に何かしら武装を隠しているのであれば、それらの武装のデータも頭にしっかり入れておきたい。そういう武装の中に解決策があったりする可能性は充分にあり得る
『了。現時点でハチ艦長に隠している武装は3種類ありました。1つ目はラムアタックも可能にする前面フォースバリア。2つ目は艦側面にあるハイドマニピュレーター及び、それに付随する近接武装。3つ目は発動するとしばらく活動不能になる魔導重力砲です』
オッケー。とんでもない物隠してたな?
「とんでもない物を隠してたね?」
『鬱。奥の手でしたので……こんな形でバレてしまったのは不本意です』
とりあえず隠し持っていた兵装としては、正面からの突進も可能にするバリアと、側面に接近する物を攻撃出来る隠し腕。それで、3つ目の魔導重力砲?これはいったいどんな武装なんだ?
「一応、聞いておきたいんだけど、その魔導重力砲ってどんな装備なの?」
『報。魔導重力砲はハチ艦長の過去の戦闘データから重力魔法の力が宿ったコインを使った戦闘をしていたので、その情報を集めまして、重力ラインを形成してそれに捕らえた敵を固定。そして、その固定した的に対して重力魔法を疑似再現した重力砲を放つ事で、敵を超圧縮します。つまり、当たると死にます』
えーっと……多分前の戦争イベントで使ったブラックホールコインとかの戦闘データを分析して、それを疑似的に再現して、敵を重力で捕らえて、ブラックホールをぶつける……的な事で良いんだろうか?で、当たると死ぬ……いやいや!?切り札として恐ろし過ぎるでしょそれ!?
『報。勿論、それほどの魔力を供給するには艦内の全魔力を攻撃に集中しなければならない為、一度発動したら、ネレイドの航行システムすら停止してしまいます。なので、沈みます』
自爆……とは言わないけれど、撃ったら最後な大技な訳か。ロマンもあるし、撃ってみたい……けど、多分それを撃ったらネレイドとお別れしなければならない可能性もある訳か。うーん……そうなると本当に最後の最後に使う切り札だな……
「もし、その魔導重力砲。使うとなったら、まずは全員退艦させないとね」
『意。勿論ハチ艦長もですよ?』
おっと、それはちょっと違うな
「それは聞けない相談かな。艦長は艦と運命を共にする。もし、魔導重力砲を使う事になったら僕も一緒に沈むよ。そして、ネレイドさんが復旧するまで魔力供給するから」
艦長だからね。もし、艦が沈んで全員退艦を余儀なくされるなら誰よりも最後だ
『疑。何故ハチ艦長がそこまで体を張るのですか?』
何故って?何故ってそりゃあ……
「そりゃあ、ネレイドも家族みたいなものだからね。家族なら皆で家に帰らないと。欠けるなんて許さないよ?」
確かに、最悪の場合は潜水空母ネレイドを捨てて、ネレイドさんだけを回収出来る様に分離はしてある。が、こんなにいっぱい頑張ってくれてるのに、艦だけ置き去りというのはやっぱり良くない気がする。今回のイベント。運営がとんでもない敵を用意して来るのなら、こっちだってとんでもない物で対抗するまで。それで沈んでしまったのなら、僕は満足して艦と運命を共に出来る。今までと一緒だ。勝利の為の敗北。勝つ為に散って行ったものだって重要な人や物だ。僕はその存在と運命を共にするだけだ




