毛皮作り
「ドナークさん居ますかー?」
「ハチかぁ?」
うわぁ、酔っぱらってるなぁ?
「酔っているところ悪いですけど……【レスト】」
「ふにゃ……」
このままだと話もまともに出来ないと思ったので申し訳ないけど【レスト】を使って酔いを覚ます
30秒待ってドナークさんが起きるのを待つ
「ふわぁ……くぅ!めっちゃスッキリしたー!」
「酔ってたところごめんなさい。どうしても聞きたい事があって」
お酒の味じゃなくて酔うという状態が好きな人も居ると思うので、ドナークさんは酔い醒ましをされた事で嫌がるかな?
「何が聞きたいんだ?」
「毛皮の取り方というか処理?の仕方を聞きたくて……これなんですけど」
泡沫バッグから狼の死体を取り出す
「毛皮の取り方かぁ……でもなぁ?」
「……これで」
まだ使っていなかったワリアさんから貰ったワインを1本取り出す。ジャーキーを作る用に貰った物だけどまだ作る余裕が無いから1本なら渡しても良いだろう
「乗ったァ!」
僕の手からワインを受け取るドナークさん。賄賂を簡単に受け取ってしまうのか……
「ふむふむ、ピィー!」
ドナークさんが指笛を吹く。すると、聞いた事のあるぽよぽよ音が近付いてくる
「ぽよー!ぽよぽよっ!?ぽーよ?」
「サクッと頼むぞ?血は全部飲んで良いからな?」
「ぽよー!」
ちのりんが床に置かれた3体分の狼の死体を飲み込む。そして数秒くらいちのりんの中で狼の死体がグルグルと回転。まるで洗濯機みたいだ……
「ぽよよー!」
ちのりんが狼の死体を地面に戻し、体の一部を手の形にして振ってドナークさんの家から出て行った。バイバーイって言っていたみたいだ
「っし!そんじゃやるか!」
「お願いしまーす」
「で、どんな物が作りたいんだ?」
「そうですね……あ、そこの紙とペンを使っても良いですか?」
「あぁ、良いぞ?デザインが分からないとどう作るか予定も立てにくいからな!」
ドナークさんに許可を貰って紙におおよそのデザインを書いていく。初めてだし、ポンチョが割と簡単でローブを隠せるかなぁ?と思ってデザインを描く
「こんな感じで……」
「ほう?良いじゃないか。でもどうせならこう……頭と尻尾も付けとこうぜ?」
僕の書いたデザインに補足するようにドナークさんが書き足す。狼の頭をフードにして、背面に尻尾を付け足す。可愛いデザインだけどこれ良いな?僕の描いたシンプルなポンチョが一気に個性的になった気がする
「良いですねこれ?これで作りたいです!」
「よっしゃ!それじゃあまずは皮を剥ぐか」
「いきなりですけどまぁそれをやらないと進まないですね」
皮を使ったポンチョを作るんだから皮を剥がさないといけないのは当たり前だ
「じゃあまずはその首の無い奴からやるか」
「はい」
「まずは下腹部あたりから真っ直ぐ上に切れ」
ドナークさんの指示通りにナイフで切る。オーブさんから貰ったナイフは中々の業物だから割とすんなり切れる。でも調子に乗らないようにゆっくり慎重に真っ直ぐを心掛けて自分で殺めた狼に感謝の意を込めながら切り進む
「出来たな?そしたら次は手首と足首の周りを全部一周切ってから足の内側をさっき切った線に向かって切れ」
手足の爪などは必要無いので毛皮として使う部分だけを取り出す為に皮を手足の先と胴体部分とに分ける為の切り込みを入れ、真ん中の線に向かって手足の内側を真っ直ぐ切っていく
「出来ました」
「よし、じゃあ剥がしてみろ。手足の部分は結構堅いから気を付けて剥がせよ?」
ナイフを先程作った線から入れて剥がす為の掴みの部分を作る。慎重かつ、力を入れて毛皮を肉から剥がす
「うわっ、すごい……」
皮の内側には肉と脂があった。赤ポリゴンじゃない。でも、筋肉や筋の感じとかとても生命の神秘を感じる
「ハチ?その内側は貰っても良いか?」
「え、えぇ……授業料という事で」
ブロック肉などは調理した事があったけどここまでやるのは初めてだ。こんな貴重な体験、ゲームとは言え、そうそう出来る物じゃ無い
「尻尾の所は関節の継ぎ目で切れ。そしたら反対側まで剥がせる」
狼の尻尾の根元側、その継ぎ目にナイフを入れて切り離す。結構ここも堅いから慎重に……
「取れました!」
肉と皮。その2つに分けられた狼の死体を見て、僕がここまで出来たんだと感慨にふける
「一応尻尾の方も関節を抜いとけ。千切れやすいけどハチなら出来る」
「分かりました」
今までにない真剣なドナークさんに見守られながら尻尾の骨を抜く為にまた切る。少しずつ切り進めては剥がしてを繰り返し、なんとか骨を取り外す事が出来た
「よし!そんじゃ皮に残った肉と脂を削ぎ落してこのタンニー水に漬ければオッケーだ」
「はい!」
色の付いた水に余計な物を取り除いた皮を漬ける。タンニー水は良く分からないけどその内分かるだろう……多分現実だともっとしっかり洗ったりするんだろうけどその辺は割愛されてるって奴なんだろうか?
「ふぅ……結構大変だなぁ」
「どうだハチ?私があんまり教えたくないって理由が分かったか?大変だからだよ」
確かにこれを人に教えるのはとても大変だ
「それにそのやり方は人間向けだしな?」
「ん?どういう……」
「こういう事だからさ!」
ドナークさんが地面に置いてあった2体の狼の死体を空中に放り投げ、指パッチン。重力に従って落ちてくると地面につく頃には皮と肉が綺麗に分かれていた。肉の方はめちゃめちゃ綺麗に切り分けられてもうすぐにこれ調理しろって言われても納得するレベルだ
「はぇ~、僕の努力……」
「はっはっは!私も最初はそうだったが、ハチもやっていればその内出来る様になるさ!」
「そうですかね?」
でも僕の努力も完全に無駄では無いので今後も機会があればやってはみたい物だ
「タンニー水は草から取れるぞ。味が渋い奴だと結構良いぞ?」
「なるほど、覚えておきます!」
今後毛皮作るなら渋い草を入手する必要もあるなぁ……




